2006年9月16日札幌市で行われた神田橋條治先生の講演録です。


「PTSDの治療 ⑤」  の続き



そして、PTSDの質問はこんなふうにするんです。「思い出したくもない記憶や昔の気分が、突然吹き出してくることがありますか」と。「ささいな刺激によって誘発される」ということの、このささいな刺激の方は気がついていないことがありますから、突然吹き出してくることがありませんかと。これは、知的障害者で突然暴れて人をぶん殴ったりする人に聞くと、「うん」と、ものすごくうれしそうに反応します。思い出したくもないことがぱっと吹き出してくるという問いは大体わかります。IQ40ぐらいでもわかります。残念ながら自閉症には聞いてもわからないです。しょうがないから、脳の邪気が見えなくてもためしに。漢方はあまり悪いことはないから使ってみてください。投与してパニック発作が軽くなれば、それでいいんです。


ただ、四物湯は胃が悪くなることがあります。面白いことに、これが効いている間はあまり胃が悪くなりません。フラッシュバックが減ると胃が悪くなります。四物湯には地黄(ジオウ)という強壮剤が入っているんですが、そいつで胃が悪くなるんです。そのときは減量して1日1回にするか、四物湯に胃薬を加えたもので十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)というものがありますから、そいつに代えてみてください。


それから、体がもともと虚弱な人は、桂枝加芍薬湯では合わないことがあります。自閉症でもそういう人はいますが、そのときは、これに水飴を加えた小建中湯(ショウケンチュウトウ)というものがありますので、そいつに代えてみたらいいと思います。


それから、フラッシュバックもあるけれども、常にいらいらしたり神経質だったりする人は、この桂枝加芍薬湯にカルシウムを入れた桂枝加竜骨牡蠣湯(ケイシカリュウコツボレイトウ)というのがありますから、それに代えて、こういう組み合わせで使うといいですが、基本処方はほとんど四物湯と桂枝加芍薬湯でうまくいきます。もうすでに漢方をやっている何人かの先生に非常に喜ばれていますから、これは確かです。


実はフラッシュバックに効く抗精神病薬はないといってきたんですが、漢方は飲めない人がいますので、そんな人はどうしようと思っていました。ひとつ思いついたんですが、それはピモジド(オーラップ)です。これはなぜそうか、わからないです。また皆さんが、「変なことをいう」と思うかもしれないけど。オーラップの1ミリの1/4錠ないし1/2錠を寝る前に。これが、四物湯、桂枝加芍薬湯の代わりになるかもしれないんです。なぜかは、わかりません。私の根拠はたった1つ。オーラップのこの1/4をこうして持っていくと、脳の邪気がこっちに伝わらなくなって減るから効くんじゃないかなと。先週、思いついたのですから「効くか効かないかもわからないけど飲んでね」といってもう5~6人に出しているんです。来週ぐらいに結果が出ます。1/4だからあまり害はない。ただ、SSRIとの併用がちょっと問題になるので、そうでない人でフラッシュバックのある人に使ってみてください。いいかもしれませんが、わかりません。この講演がペーパーになるころには、「~としゃべったけどもウソだった」とかいって、あとで書くかもしれません。大抵うまくいくんじゃないかなと思います。以上がフラッシュバックの処理なんです。


(つづく)








◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。