9条世界会議@2008.5 幕張メッセ



November 19, 2008

幸せの経済学

テーマ:お仕事のはなし





「懐かしい未来」。



なんて逆説的で、そのぶん本質的なタイトルなんだろう。


3年くらい前だったか、辻信一さんからこの本のことを聞いたとき、しばらくドキドキしていた。





子どもの頃の私が「未来」と聞いて心に思い浮かべるものは、

いつだってスターウォーズやドラえもんの物語の中で提示されていたような世界だった。

車が空を飛び、雲を突き抜けるような高さの高層ビルが立ち並んでいるような、どこか無機質な世界。


べつにそういう「未来」に住みたいわけでもないのに、なんとなくそうだった。




そして実際、 いま、世界は、

合理的で、便利で、効率がよくて、無駄のない、高度に科学技術の発達した場所をめざしている。


世界はそういうものだから、まあ、いいんじゃない。

・・・みたいな感じで、自分たちの日々の経済活動が向かう先に何があるのかについて、思考停止している。




でも、

世界の向かう「未来」についてもっと個人的なレベルで考えてみると、ちょっとあせる。


つまり、

「未来とはどんな場所か?」ではなく、

「あなたは、どんな未来に住んでいたいか?」という質問で問い直されたとき、

合理的で、便利で、効率がよくて、無駄のない、高度に科学技術の発達した場所を思い描く人なんて、

実はそんなにいないのだ。




あなたは、どんな未来に住んでいたいか?




あらためてそう聞かれたら、

海のそばの静かな家で、家族に囲まれて朝食を食べている風景を描く人もいるだろうし、

昔からの仲間と一緒に、昔と変わらない地元で楽しく笑っている風景を想像する人もいると思う。


高層ビルがある未来に住んでいたい!と願う人は実は本当に少ないのに、

いつの間にかどこかで刷り込まれた「未来」のイメージにむかって世界は滑り続けている。





「懐かしい未来」。


このひとことが、私の心にあった曖昧な未来像をシャキっとした輪郭を示してくれた。


そう、

私が「こんな未来に住みたいな」と思い描いていたのは、どこか懐かしさがあるようなあたたかい世界だった。




インド北部、ヒマラヤの辺境ラダックは、経済的なことを言えば決して豊かな場所じゃない。

空飛ぶ車や高層ビルがないのはもちろん、農耕用のトラクターだってそんなにない。

人々は歌を歌いながら田を耕し、衣類を作り、とても満たされて生きている。


そんな「豊かな」 暮らしを大切にする人々に寄り添って長い年月を過ごしたのが、

この本の作者、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさん。





そのヘレナが、いま、来日している。

ずっと会いたかった人と会えるチャンスを逃してはいけないと思い、

辻信一さんとの対談企画を聞きに行ってきた。


ヘレナには、来年4月に出航する北欧航路の船旅か、

そのあと7月に出航するアフリカ・南太平洋航路か、

どちらかにゲストとして乗船してもらえないかを打診してきた。


「海に浮く大学」であるピースボートの活動は前から聞いていてくれて、

「いつなら乗れるかしら?」と、とても前向きな対応だった。


ところが、


「アイスランドに行く航路も魅力的だけど、ケニアもいいでしょう?

 いま、世界中でどこか、とくにヘレナが行きたい場所はある?」


そう聞くと、首をすくめて、


「実は、私はもう旅をすることそのものには関心がないの。

人と出会い、考えを共有することについては情熱が絶えることはないけれど」


と笑っていた。 大物。





以下は、その日の講演メモ、抜粋。 

ヘレナの考えを詳しく知りたい人は、ぜひ読んでください。







ヒマラヤの辺境だって、今の経済システムから無縁ではいられない。


ヘレナは、ラダックに押し寄せるグローバライゼーションの波を静かに見ていた。



そして、ラダックの人々がむやみやたらにそのシステムを取り入れるのではなく、

伝統的社会システムを大切なものとして再認識した上で

少しづつ新しい価値観や社会システムを創造していく道筋を学んでいる。





「豊かになれば、幸せになる。

 私たちはそう信じて、経済の成長を支えてきました。

 でもその神話に、今、ほころびがみえはじめている。


 私たちはGDPの本質に気づいているでしょうか。

 ガンを患う人が増え、薬の消費が増えるほどGDPが増えます。

 家族やコミュニティが崩壊し、すべてを有料化するとGDPが上がります。


 逆に愛情や手作り、思いやりに満ちた社会ではGDPが下がることもある。

 精神的社会的環境的破壊・混乱はGDP増大につながるし、

 庭に菜園をつくり健康な作物をつくるとGDPが下がります。


 GDPの成長に何より効果があるのは戦争で、兵器だけでなく復興でもGDPが上がります。

 つまり、GDPはお金がやり取りされ、私たちや自然との関係が商業化されるほど増えるのです。」




話は、おなじみの経済成長信仰への疑問からはじまった。


「globalization(経済のグローバル化)」と「deregulation(規制緩和)」によって、

どれだけ多くの人が苦しんだかを説き、


だから、

「de-regulation(規制緩和)」から「re-regulation(規制の作り直し)」に移行しよう、

「グローバル」から「ローカル」へ移行しよう、というのが話の骨子だった。


生産者と消費者の距離、お金の動く範囲、食べ物と人の距離、人と人のつながり、

そういったものすべての距離が近いほど幸せ指数も高まるのではないかという提案。




通訳をつとめているはずの辻さんは、考えがシンクロしまくったために

「自分のことばだったか、彼女のことばを訳しているのか、途中何度もわからなくなった」

と照れ笑いしていた。


じつは、メモをとっていた私もそう。

ヘレナの声をメモしていたのか、自分の意見をメモしているのか。混乱。




その中で私にとって印象的だったのは、マイクロクレジット批判の話だった。




「経済成長が必要なんだ、という迷信は途上国でも同じです。

 一番の害悪は債務。借款の目的が何であれ、債務は長期的には人々を苦しめることが多い。


 大規模な開発はもちろん、マイクロクレジットでもフェアトレードでも、

 債務が増える限りはグローバル経済への依存を強めるだけで、

 地元の本当の意味での活性につながらない。

 

 途上国での開発事業は自給自立の生活から人々を引き離します。

 その意味で、これからの時代、マイクロクレジットも万能ではない。


 バングラディッシュのグラミン銀行でさえ、

 残念ながら人々を土から引き離して都会へと後押しうるような結果になっているのです。


 バングラディッシュで一年間に米の価格が60%も上昇するような時代に、

 それまで家で農業をしていた女性がビジネスを始めて借金を抱えるとはどういうことか。

 私たちは慎重に考える必要があります。」



「良心から「助けたい」と思って途上国の人々をグローバル経済の市場にまきこもうとする考えは

 たとえそれがフェアトレードであっても危険ではないかと思います。


 その事業が海外の消費者に依存しているだけでは害となり得ます。

 フェアトレードが、その地域の人々の「地元経済」を活性化させているかどうかを

 私たちは確実に見ていかなくてはならない。」



「Trade, not Aid、という考え方があります。援助よりも貿易を、という流れ。

 私たちは、いつの間にか解決策は市場にしかないと思うようになってはいないでしょうか。


 援助は、確かに「依存」を生み出しました。でも、「自立」を掲げて債務を村に持ち込むことで

 より一層の「依存」が生まれ、より多くの従属関係を生み出したということもあるのです。


 貿易と援助。

 もしどちらかを選ぶのであれば、「債務」を押し付けるのではなく、

 無償の「援助」のほうがいいのではないかと私は思っています。


 その場合、援助の基準になるのはもちろん、

 Local Food, Local Housing, Locl Energyの3つです。」







フェアトレードが万能ではない、というのはよく耳にする話。    


生産者と消費者の距離が離れれば離れるほど

経済に倫理性とアカウンタビリティがなくなりやすいのはもちろん、

石油に代わる万能エネルギーがまだみつかっていない今、

石油に頼って飛行機や船でモノを運ぶのはそれ自体が「あやうい」のだ。


金融危機の影響で価格がいったん落ち着いているけれど、

再び石油に投機マネーが流れ込んで石油価格が高騰して、

そもそも海外への輸送ができなくなったらどうなるか?


フェアトレードだけに頼っているコミュニティへの影響は、深刻だと思う。


ヘレナが最後に言っていた。



「資本主義の父であるアダム・スミスも、

 資本はつねに着地している、つまり地元に根差したものであるべきだ、

 それが経済における道徳であると話していました。」



ヘレナは、違う例を出しながら何度も、

「ローカル」への回帰と、それに連なる幸せについて話していたのだと思う。




ヘレナの考えに完全に同意する自分、はっけん。


でも同時に、


グローバル経済への依存なしには成り立たない Tokyo Life を離れる意思が (いまのところ) ない自分も、

よく知っている。






後者の自分は、ヘレナがいうように「市場がすべて解決する」論に汚染されているんだろうか。


ふたつの自分と両方のバランスについて、フワフワと考えていた帰り道、でした。







Helena Noberg-Hodge(ヘレナ・ノーバーグ・ホッジ)


スウェーデン生まれの言語人類学者。1975年にラダックに入り、ラダック語・英語辞書を作成。ISEC(エコロジーと文化のための国際協会。本部イギリス)の代表者。持続可能で公正な地球社会実現のために斬新で重要な貢献をした人々に与えられるライト・ライブリフッド賞を、1986年に受賞。ラダックでの活動を継続しつつ、ヴァンダナ・シヴァ氏らとともにグローバリゼーションに対する問題提起や啓発活動を行っている。





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