トウキョウ 死者の書 41

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2016/8/1 続き

パパがそっちに行っていた時(存命中に)、何をしていたの?
 
あの時に見ていたものはこっちのいろんな世界なんだよ。
パパが思い残していたものがあれば、それにまつわる物語が始まるのよ。
これは苦しいね。
見たくないもの。
パパの母親のことは一番苦しかったね。ずっと誰にも隠して来たし、そのために父親を憎んで来たしな。
憎しみに気持ちは魔の世界に連れていかれるし、自分の気持ちを抑えればそれが何倍にもなって形を変えた物語が次から次へとやってくる。だから、お前にも話したろ?警察がやって来たり、屋根裏に誰かが隠れていて見張られているような感じがしたことをさ。あれは、その世界に行けば本当のことになるんだよ。でもな、お前に「NO!」と強くいえと言われたろ? あれが役に立ったのよ。最終的にさ、お前たちに母親のことを話したあたりから、その世界が消えて行ったんだよ。その次は父親のこと。父親に対する憎しみは病院で薄れて行ったんだよ。お前たちが毎日ずっと一緒にいてくれて世話をしてくれているからさ。それを見ていてさ、俺は自分が無条件に愛されていることを初めて受け入れたんだな。そうしたらさ、憎しみが薄れるんだよ。
 
そうなんだ。そのあとも何か見ていたの?
 
あぁ、そのあともこっちのいろんな世界を見ていたね。
その方が身体がおかしくなったり苦しくなったりするのを感じなかったからさ。
抜け出すといろんなものが見えたよ。
色も音も、空間もさ全然違うのよ。それを説明することもだんだん出来なくなったけどさ。
こっちの世界だったんだよ。
両方に足を渡していた感じなんだろうな。明確な線は本当に分からなかった。
ただ、身体に入っているか入っていないかなんだよ。
死んだ時だって、戻るのかと思っていたけどさ、戻れなかったんだよ。
まぁな、戻ろうと思わないほどこっちが自由だったしな。
苦しさもないんだよ。身体に戻ればそりゃ苦しいさ。
自由にも動けるしな。
だんだんと本当の自分を思い出し始めるのよ。
身体に入っていた時の自分は丁稚奉公に出ているようなもんなんだってな。
だからお前は大したもんだよ。
身体に入っていながら、こうしてこっちの世界にも足を踏み入れているんだからな。
覚えていたんだな。
俺ももう少し早くから思い出していれば俺の世界も変わったのかもしれないな。
でも、今こうしてお前と話しができるし、こっちの仕事をこうして伝えているから満足だよ。
ママによろしく伝えてくれ。あんまりこだわりすぎるなって。
楽観的でいることだよ。


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