私たちが生きているこの世界は、本当に現実なのか。
この世界自体が夢ではないのか。

僕たちが好きだった川村紗也「ゆっくり回る菊池」@こまばアゴラ劇場


畳の和室に着物、黒電話など、昭和初期を思わせる雰囲気ながら、スマホやアプリもバリバリ出てくる、指からエアー銃弾を放ってしまう女の子も出てくる摩訶不思議な世界です。
青木秀樹さん作品の特徴でもありますが、登場人物は大体みんな闇を抱えていて狂っています。

世相を反映したアングラポップな作品を30年近く作り続けている劇団クロムモリブデン。その主宰の青木さんが初めての劇団外部の脚本執筆・演出を手掛けた本作品。
長年のクロムファンは元より、初めてクロムの「毒」に触れる方々も巻き込んで好評を得ています。

そんな中で、やはり作風が受け入れられないという意見もお見掛けします。
苦手だと感じる気持ちもよく分かります。クロムは元々好みが極端に分かれる作風です。
「何だかよく分からないけどすっっごく面白かったー!」と思うか、「何だかよく分からない。理解不能。不愉快」と思うか。そのどちらがあってもいいし、双方受け入れながら独自に突っ走ってきたのがクロムモリブデンという劇団です。

ただ、いちクロム中毒者として、「理解不能」と切り捨ててしまうのはちょっと勿体ないですよ、と感じてしまうのです。
前置きが長くなってしまいましたが、今回のぼくかわで初めて青木さん作品に触れた方向けに、私なりの解釈を提示したいと思います。

☆☆☆☆☆

クロムモリブデンの作品の根底には、ある共通テーマがあります。

「悪夢」です。

普段私たちが睡眠時に見る夢も、内容を覚えているかどうかは別として、得てして「超展開の不可思議不条理世界」であることが多いです。
その「悪夢」をそっくりそのまま舞台作品として視覚化してしまえる。ここに青木さんの才覚が現れています。

具体例を挙げると、



JR福知山線脱線事故をモチーフにした『テキサス芝刈機』(2009年)は、登場キャラクターの殆どが「列車脱線事故の犠牲者」で、彼らが延々と時間のループにはまっているという世界です。



東日本大震災に影響を受けた『節電ボーダートルネード』(2011年)は、物語全体が主人公格の「精神疾患を患う被災者の女の子」(※「~菊池」にも出演の幸田尚子さんが演じています)が見る「悪夢」と捉えられます。



クロムには「悪夢と現実の混在」を表現した作品が多いのですが、最新作の『翼とクチバシもください』(2016年)では、「主人公の麻薬中毒者が見る幻想世界」と「主人公の過去の現実」が明示され、よりはっきりと「悪夢と現実の対比」が描かれています。

☆☆☆☆☆

さて、「ゆっくり回る菊池」に立ち返ると、一見するとただ単に摩訶不思議なエセ昭和を見せられていると感じます。
ですが、この世界を「悪夢」だと解釈すると腑に落ちます。
今作に於いても、姿ははっきりとは現れませんが、「作品世界を夢で見ている人物」の存在を匂わせています。ネタバレになるので伏せますが、ヒントは「手紙」です。

クロムを苦手と感じる方が「理解不能」となる点。今回で言えば、時代感不明な世界や突拍子もないストーリー展開、「あのキャラクターは最後になぜその選択をするの?」という点などは、「睡眠時に見る夢」と同じ展開だと捉えると理解しやすくなると思います。

白昼堂々、起きながらにして悪夢を見せる。
それがクロムモリブデンであり青木さんの本質の一つだと思います。

初の外部演出を経て更にパワーアップするであろう青木さんの白昼悪夢に、今後も前のめりでうなされる所存です。


余談ですが、「ゆっくり回る菊池」ではエアー銃弾を放つ女の子が出てきますが、クロムモリブデンの「裸の女を持つ男」(2011年)でも同じようにエアー銃弾をぶっ放すキャラクターが現れます。
見た目も行動も奇々怪々だけれどどこか人間心理を突いているキャラクター像も、クロムの特徴の一つです。
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