鳥肌音楽 Chicken Skin Music

WRITING ABOUT MUSIC IS LIKE DANCING ABOUT ARCHITECTURE.


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本来であればビーチ・ボーイズの2枚目の『サーフィンU.S.A.』のレビューとなるところです。しかしながら、ここんとこキャピトル時代のビーチ・ボーイズのアルバムをずっと聴いていて夏のビーチ・ボーイズという視点で見た場合(本来これがBB5の正しい見方ではないでしょうか)64年の6枚目のアルバム『オール・サマー・ロング』が一番じゃないかということで今日8月10日夏のど真ん中のレビューは『オール・サマー・ロング』でいきます。

鳥肌音楽 Chicken Skin Music-bb5

名盤とされる『ペット・サウンズ』を語るときに孤独や挫折と喪失感というのがキーワードとして語られます。ただ考えていただきたいのはもしもビーチ・ボーイズの音楽がデビュー時から孤独や喪失感をテーマにして作られていたら『ペット・サウンズ』というものがあれほどに心を打つアルバムになりえていたかということです。ただただ自分達の若さを信じて純粋無垢な音楽を作っていたビーチ・ボーイズがいたからこそ、人々はその音楽に共感をし自分達の思いを歌にたくせる存在としてBB5に重すぎる期待感を背負わせます。そしてBB5の音楽=ブライアンでしたからその重荷は全てブライアンに預けられ結果としてブライアンは壊れていきます。そんな壊れる前の一瞬を記録しているからこその『ペット・サウンズ』の素晴らしさなのだと思います。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が哀しいのも彼らが「テイク・イット・イージー」という曲でデビューしているからだというのと似ています。

ですから『ペット・サウンズ』が本当に素晴らしいと思った人は遡って”夏”のBB5のアルバムも必ず聴いて欲しいと思います。全部が無理ならとりあえず、この『オール・サマー・ロング』だけでも。文中にも書きましたがタイトルの『オール・サマー・ロング』という言葉がすでに矛盾を孕んでいることをBB5達は無意識のうちに知っていながらこのタイトルを選んでいます。それは周囲が期待するビーチ・ボーイズの姿だからです。夏はいつか終わるし来年も夏は来るけど今年とは違った夏になる、『夏は続くよどこまでもAll Summer Long』や『終わりなき夏Endress Summer』なんていうものは有はしないのです。それが分っているからビーチ・ボーイズの音楽にはいつもどこかに儚さが漂っています。そんな儚さと無垢な明るさが絶妙にブレンドされたのがこの『オール・サマー・ロング』なのだと思います。だからこのアルバムは毎年のいつか終わりが来る夏のサウンド・トラック・アルバムであり続けるのです。

鳥肌音楽 Chicken Skin Music-bb5

1. アイ・ゲット・アラウンド I Get Around


頭のギターのコードカッテングによるガッ、グンというノイズのような音は車のセルモーターだ。キー一発でビーチ・ボーイズ(以下BB5)にエンジンがかかり津波のようにあのコーラスが押し寄せてくる、ファンであればもちろん一発でノック・アウト、ファン以外のハートもがっちり掴み、64年5月に発売されたシングルは7月11日に見事に全米No1を獲得。意外ですがこれがBB5にとっての初のチャートNO.1シングルでした。リードのマイクの歌に分厚いハーモニーをかぶせたり追っかけコーラスをきかせたりとBB5のコーラス・ワークの成長ぶりはとどまるところを知らない感じがします。なかでもブライアン、コーラスという波の上をファルセットというサーフ・ボードに乗ってここかと思えばまたまたあちら(by ピンクレデイ)と自由にとびまくっています。

バック・トラックはBB5のコーラスに疾走感を出そうとひたすらリズミカル。ハル・ブレインのタムもミュートを効かせたリズム・ギターもコーラスを前へと前へと急き立てます。それでも足りないと思ったのか手拍子まで入れる懲りようです。

鳥肌音楽 Chicken Skin Music-igetaround

マイクの歌詞は街の通りという通りを車を転がしまくって楽しもうぜというとにかく他愛の無い青春賛歌、でもその他愛の無さが”夏は続くよどこまでも”というアルバムの一曲目としてどんぴしゃり。ちなみにこのシングルのB面曲は前作からカットされたBB5ファンなら皆大好きな「ドント・ウォーリー・ベイビー(気にしないで)」、まさに世界最強のシングル盤です。


2.オール・サマー・ロング All Summer Long


個人的なこと言わせてもらえばBB5の楽曲で大好きな10曲をと言われたら必ず入る一曲。木琴で始まるイントロも効果的でこの曲が好きになればなるほどイントロの木琴で胸がキュンとくるようになります。

君の家の前に車を停めていた時に
コークで君のブラウスを
ビショビショにしちゃったのを覚えているかい
Tシャツにカット・オフ・ジーンズに革のサンダル
夏の間 僕らは思いっきり楽しんでた
夏の間 君とずっと一緒だったけど
僕はまだ君のすべてを分かっちゃいない


マイク・ラヴって実際つきあったら嫌なやつだろうなぁと思いますが、少なくとも作詞に関しては時折素晴らしいものを書いてくれます。好きな女の子と一緒にいる時にやってしまったちょっとした失敗がずっと心に残る、10代の時は誰だってそんなイノセントな心を持っています。その辺をマイクは実に上手く歌詞にしていると思います。とてもじゃなけどそんな無垢な心の持ち主とは思えないのですけどね。

「オール・サマー・ロング」というタイトルを僕は勝手に”夏は続くよどこまでも”と訳させてもらっています。誰だって永遠に終わらないでくれと願った夏があるのではないでしょうか。でも夏が永遠に続くことはもちろんありません。来年になればまた夏はやってきますが、それは同じような顔をしていても今年の夏とは違います。それが無意識のうちに分っているから今年の夏が永遠であることを望む。そういうなんというか儚く切ない気持ちがBB5の曲には通奏低音として流れている気がします。そのあたりが同じように夏を歌った他のサーフィン/ホッドロッドのバンドとの違いのような気がします。まぁはっきりいえばブライアンがいるかいないかの違いなんでしょうけど。

その儚さを分っているからでしょうが若き日のジョージ・ルーカスはこの曲は出世作「アメリカン・グラフィティ」の最後の最後で実に効果的に使用しています。
その辺のことは以前書いた拙文をご覧ください。→あの素晴らしい夏の日をもう一度・・・ (リバイバル上映です)
アメリカ人にとってビーチ・ボーイズというバンドがどういう意味をもつバンドなのかが垣間見れた気がしました。

3.ハッシャバイ Hushabye


はっきりいってこの時期のブライアンはいくらでも名曲が書けたのでわざわざカバーをする必要はないし、印税という面でもオリジナルでいった方が良いはずなのですがそれでもカバーを入れたというのは、ひとつはブライアンがとにかく音楽が好きだったということと、ブライアンがシンガー・ソング・ライターとしての資質と同じくらいにプロデューサーとしての資質を生れながらに持っていた証ではないでしょうか。ブライアンにとってはBB5のコーラスが100%活きる曲であれば自分の曲であろうと他人の曲であろうとどうでも良かったのだと思います。

「ハッシャバイ」は白人ドゥーワップ・グループであるミスティックスが59年にヒットさせたナンバーです。ハッシャバイというのは日本語でいえば”ねんねんころり”みたいな意味で、愛する女の子に”独りぼっちでも悲しまずにおやすみよ 僕が夢の中で守ってあげるから”と歌っています。ミスティックスのバージョンでは現実には逢えなくても夢で逢える恋人がいることを男は無条件に喜んでいる風に聴こえます、しかしBB5のバージョンにおけるブライアンのファルセットからは恋人がいることによる喜びはもちろんあるのですが、恋人ができたことにより逆説的に生まれてしまった(何時も一緒にはいられないという)悲しみの気持ちが伝わってくる気がします。ファルセットというのは4シーズンズのフランキー・ヴァリのようにどちらかというとコミカルな響きを持ってしまうことが多いのですが、ブライアンのファルセットはなぜこんなにも切ないのでしょうか?このブライアンの(おそらくは無意識のうちの)解釈による表現力の深さがミスティックスの何倍もの魅力をこの歌に加えていると思いませんか。

4.リトル・ホンダ Little Honda


ホンダのアメリカ進出が1959年で、ロスに本拠を構えて販売を始めます。それから5年全米NO.1バンドとタイ・アップできるほどにホンダの名前は浸透していたということでしょうか。

デニスの”ゴー”の掛け声から一気に突っ走ります。リズム・ギターの濁ったようなカッティングはエンジンのノイズを思わせてくれるしバックの”ホンダ ホンダ ホンダ ファスター ファスター”っていうコーラスも疾走感をあおります。ソノコーラスに乗ってマイクの歌は”ファースト・ギア いい感じ セカンド・ギア 少し屈んで”と徐々にシフト・アップしサード・ギアでは後ろの女の子に”しっかりつかまって”と注意を促し、次はトップ・ギアでぶっ飛ばすのかと思いきや”さあ飛ばそうぜ いい感じ”とシフト・アップは終わり、リトル・ホンダは3速までしかなかったんですねトホホ。

BB5としてはシングル・カットはされませんでしたが、ゲイリー・アッシャーのでっち上げたホンデルズというそのものズバリな名前のバンドのカバー・バージョンが全米9位という大ヒットとなっています。もったいない。

Hondels / Little Honda


5.ウィル・ラン・アウェイ We'll Run Away


ゲイリー・アッシャーの"まだ早いと言われるのは 無理も無いけど 僕らに必要なのは 二人の気持ちだけ 罪は承知の上 二人でどこかへ逃げて 一緒になろう”と始まる歌詞はスチューデンツの61年のヒット「アイム・ソー・ヤング」の”ガールフレンドがいた 彼女が言うには僕はただ一人の男 一緒になりたいんだ だけど 僕らは若すぎる 若すぎるから 一緒にはなれない 周りはみんなハシカみたいなものと言う 誰も分っちゃいないんだ 僕らの心なんて”という歌詞へのアンサー・ソングとなっています。

ブライアンの曲も「アイム・ソー・ヤング」を意識したドゥー・ワップぽいつくりになっています。ブライアンのファルセットも彼にしては黒人っぽいというかソウルを感じさせる深みのある歌唱です。静かだけど狂おしく鳴り響くハモンド・オルガンの音、エコーの底から聞こえてくるハル・ブレインのドラム。全ての音が静謐だけれども熱く心に響いてくる。完全にポップ・バンドの域を超えたナンバーだ。

6.カールのビッグ・チャンス Carl's Big Chance


前作には「デニーズ・ドラム」という次男坊デニスのドラムをフィーチャーしたインストがありましたが、今回は末っ子カールを主役にしたインストが収録されています。しかし主役にしてあげてるとはいえ「カールのビッグ・チャンス」とは思いっきりからかわれている様なタイトルです。まぁこの時でまだ17歳ですからまだまだ太っちょカールのイメージでしかなかったのでしょうね。

ということでここまでがアナログ時代のA面となります。一気に全部行こうと思ったのですが眠いのでB面はまた明日。


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