今週の気になる人
わが学校の「厨房」とは、
シェフたちが授業の実演を披露をし、
実習室では生徒さんが一生懸命お料理をする場所、です。
しかし、さらに別の厨房があります。それが地下厨房。
通称“Sous-sol”。
そうですアシスタントの私たちがせっせと
賄いをつくったり、翌日のデモンストレーションの準備の為に、
大量の野菜やらお肉のお掃除やらをする場所です。
生徒経験がちょこっとと気力と体力さえあれば
アシスタント業に入れる私たちですから、
料理の腕前は半人前、ちょっと油断するととたんに遊び始める
野生児のような子供たちをとりしきるのが、
地下にいる主。鼻の下に口ひげを生やしたRシェフ、なのです。
生徒のときには「なんだか地下にはなぞのシェフがいるなぁ」としか認識れておらず、
その名を知ったのは、アシスタントにはいって1ヶ月も経とうというときでした。
第一印象はものすごい早口で、酒をこよなく愛し、
「うひょひょひょひょ」と笑う、得体の知れない謎のオヤジシェフ。
そんな外見とはうらはらに、
彼は、私たちのまかないやら明日の準備を完璧に仕上げる
生粋の頑固職人オヤジだったのです!
華麗な舞台でもある、授業のデモンストレーションにでているシェフたちに対し、
作業台だけで窓もない地下厨房は、殺伐としているので
普段はとっても地味。ていうかいつも地味。
テニスでいうところの1人壁うち練習のような状態で、作業を黙々と進める姿は
地味なんだけど、
手際がものすごくよく、職人特有のオーラが発されています。
そして私がデモの準備を早くから始めると「○○、早すぎだ! 地下でやることがたくさんあるだろう!」と
連行されるうえ、とっても厳しい。
私はひそかにやつのことを“ひげ”と呼び、
みんなとときどき各国語で文句をいいながら仕事をしていたものです(笑)
でも、ほどなくして、その彼のおそるべし実力を知ることになるアシスタントの面々。
まずは前日のデモンストレーションであまった食材の品々を朝イチの3分程度でざざざっとチェック。
「よし、今日のぺルソネル(まかない)はこれとこれとこれだ! これをまず剥け!」と
瞬時に「今日の献立・30人分おかず」のメニューを決める、
できるおかあちゃんのようなRシェフ。
やりくり上手なシェフだし、指揮をするのはものすごく早口だけど、
「シェフ~、なんでこういう風に下処理するの?」とかきくと、ワケまでちゃーんと的確に教えてくれる。
そして授業の準備では、恐怖のにんじん・じゃがいも・クールジェットのトルナージュ50人分とかを
誰よりも美しく確実な形に仕上げるシェフ。
デモにでている生徒さん、あの美しいトルネは当然ですがアシスタントの私たちができるはずがりません!!
……とまあ、そんな話を日本人担当セツ子さんに、したところ
「そうよー彼はね、そんじゅそこらのシェフとは違うのよ」とのこと。
なんでも地下でとっても地味に生きてますけど、やつはMOFのファイナリストになった腕前の持ち主。
しかも地下にいる理由がふるってます。
愛する妻に子供が2人。その子供たちはまだ5歳ほどの小さい子供たち。
彼はなにより家族とすごすことを優先し、あえて地下の主をすすんで希望したのだそう。
生徒さんたちには“地下にいるシェフ”といわれ、名前を知らない人もいますが
アシスタントの私たちにはいちばんの“師匠シェフ”です。
……しかし
受付の美女Kがコーヒーを飲みに地下にやってくると
とたんにシェフは彼女とのお話に夢中になってしまうのが弱点。
この間は、誰がどんなに「シェフ~ 次は何をしこめばいいんですか?」とかいっても
フランス人の常套句“j’arrive!!!”(今行くっ!)といわれて
延々とそのときはこない…という状態。
ヤツも人の子だ、そりゃきれいな美女には弱いだろう、と
私たちもそんなときだけは、しかたなしに(笑)温かく見守るのでした☆
今日も学校の地下で
黙々と「やりくり30人おかず」のまかないを指揮し、
完璧なミーザンプラスをするシェフR。
デモ室にいるシェフたちが華麗に料理を披露できるのも