白鵬という横綱が今更だけど好きになった
2週間程前、大相撲地方巡業の横浜場所に行く機会があった。
朝八時からの公開朝稽古では、
親方衆が厳しい視線で見守る中
1時間近く続いた若い力士の申し合い稽古は
土俵の砂と汗でドロドロな熱気を帯び
体と体のぶつかるバシーンという音はが
まだ客がまばらな体育館に響き渡っていた。
公開朝稽古の後半は
大相撲中継でもよく見かける十両、幕内の
一まわり体も大きい力士たちと入れ替わり
いよいよ稽古の緊張感も最高潮になる頃
両横綱の登場となった。
ぶつかり稽古というものがある。
一連の稽古の後半で仕上げとして行う稽古だが
いわゆるマンツーマンの実にキツイ稽古で
土俵を囲むたくさんの力士たちの前で
格上の力士が胸を出し下の者は土俵の外から
何度も何度も基本の押しの型でぶつかっていくのである。
地方巡業のパフォーマンスということもあるのだろう
横綱白鵬が前頭六枚目伸び盛りの豊真将(ほうましょう)に
ぶつかり稽古で胸を貸すシーンを幸運にも見ることができた。
ひたすら前に出る伸び盛りの豊真将
そのはちきれそうな体から溢れるほどの
前への突進力を持ってしても
足を踏ん張る横綱白鵬を土俵の反対側まで押しきるのは
そうそう簡単にいくわけにはいかない。
相手は腰も重たい大横綱の白鵬で
ものの5分もすると
豊真将も身体能力ギリギリになってきて
気合か叫びか唸りかわからないような声を絞り出し
息使いも荒く痛々しくなってきていた。
全力で押しきっては土俵に転がされ
やがてその浅黒い体も汗と砂で真っ黒になっていった。
いよいよ力が尽きかけると
横綱は首根っこを押さえつけ
何回も何回もその限界ぎりぎりのところで
土俵に沿って擦り足をさせるのである。
横綱の体も紅潮し
豊真将のまげは踊り乱れ
それはそれは鬼気迫るものがあった。
その時
私は横綱白鵬の叱咤激励するさほど大きくない声を
はっきりこの耳に聞きとめた。
何度も何度も若い力士を受け止める胸を
さらに赤くしながら横綱白鵬が発する言葉は
飾らない優しさがある叱咤激励だった。
「さあこい、ほらこい」
「ほらほらほらほら、つよくなれるぞ」
「いいねいいね、よしよしいいね」
「いいぞいいぞ もういっちょう」
厳しい勝負の世界でも
それを究めた横綱の
後進たちへの純粋な思いが分かり過ぎるようで
思わず胸が熱くなった。
白鵬という横綱は
けしてパフォーマンスが上手いわけではないけど
すごーくいい男だなーってしみじみと思った。
技も力も品格も
相撲道の頂点を極めた横綱であっても
金色に光り豊かに実るその稲穂が
しっかり頭を垂れた様が見えたようで
私の目にはすごく眩しかった。
久しぶりに
心の底から応援したい力士を見た。
白鵬という横綱を
白鵬という男を
私は見つけた気がした。