精神神経学雑誌(日本精神神経学会誌)2014VOL116NO.11
日本における子どもへの向精神薬処方の経年変化
―2002年から2010年の社会医療診療行為別調査の活用―
著者は、奥村泰之、藤田純一、松本俊彦氏

なる記事を読んだ。
外来患者のレセプトのデータなので、これで日本の子供に対する向精神薬処方の実態が初めて判明した。
2010年以降、さらに子供へのくすり漬け医療は進んで(悪化して)いるので、さらなるフォロー研究を望みたい。

公表された結果は私から見れば恐ろしい結果であったが、予想された結果でもあった。

―引用―

2002~2004年と2008~2010年の比較
6~12歳
ADHD治療薬84%増、抗精神病薬58%増、抗不安・睡眠薬33%減

13~18歳
ADHD治療薬150%増(2.5倍)、抗精神病薬43%増、抗うつ薬37%増、抗不安薬・睡眠薬11%増

同クラス内多剤併用率
抗精神病薬36.1%→27.2%
抗うつ薬7.0%→7.7%
抗不安・睡眠薬25.8%→30.4%

クラス間多剤併用(カクテル処方)
抗精神病薬63.5%→60.9%
抗うつ薬70.4%→76.9%
気分安定薬78.6%→92.9%
抗不安・睡眠薬53.0%→61.5%

向精神薬処方を受けた未成年におけるクラス間多剤併用の割合(海外)
米国19%、オランダ9%、ドイツ6%

子供への抗精神病薬、抗うつ薬の投与の弊害、カクテル処方の弊害についてはこちらを参照ください。
精神科における「一般的に行われているが必ずしも必要のない」投薬のリスト-米精神医学会-
カクテル処方の規制(厚労大臣・厚労省への要望書)

これらのデータを見ると私は寒気がする。
なぜなら、
・子供に対する安全性が確認されているのはADHD治療薬のみである。その他は適応外処方
・ADHD診断・治療には客観的、科学的根拠はないこと
・我が国の多剤併用処方の悪習がやはり子供にまで及んでいる
からである。

実は、この論文記事を読んで私はこの実態の酷さ以外のことでイライラするのである。
それは、以下の記述である。まずは読んでいただきたい。

(多剤併用率が各国との比較で我が国が著しく高いことに触れて)
もちろん、この結果をもって、安易に「わが国では、向精神薬の不適切な多剤大量処方の割合が異様に高い」と結論付けるのには慎重であるべきであろう。というのも、国家間の医療体制の相違、あるいは、調査対象の等質性を担保出来ないといった限界を考慮する必要があるからである。とはいえ、今後、我が国の多剤併用処方の割合が欧米より高くなる理由について、検討していく必要があるだろう。

(ADHDに関する多剤併用処方が多いことに触れて)
こうした多剤併用処方は、ADHDと不安障害などの併存症例や治療抵抗性の症例への対処の必要性に迫られた結果であると推測される。実際、多剤併用処方の臨床試験は、ADHDとうつ病/不安障害の併存症例へのADHD薬と抗うつ薬の併用、ADHDと双極性障害の併存症例ではADHD薬と抗精神病薬の併用、ADHDにおける治療抵抗性の攻撃性へのADHD治療薬と抗精神病薬や気分安定薬の併用、治療抵抗性の脅迫性障害への抗精神病薬と抗うつ薬の併用など、併存症例や治療抵抗性の症例に対処することを想定したデザインで実施されてきた。臨床現場では、こうした臨床試験で想定される患者は決して少なくない現実があり、今回明らかにされたような多剤併用処方が高頻度でみられるという結果につながったと考えられる。

とはいえ、向精神薬のクラス間多剤併用処方の有効性と安全性に関するエビデンスは不足している。現状では、多剤併用処方の有効性を支持する無作為化比較試験は限られており、多剤併用処方に関する治療ガイドラインも整備されていない。また多剤併用処方で有害事象が増えるのも事実であり、すでに抗精神病薬と抗うつ薬の併用では体重増加、抗うつ薬と抗不安・睡眠薬の併用では自殺関連事象の増加、などといった有害事象が指摘されている。こうした状況下であるため、臨床家が多剤併用処方の必要性に迫られた際は、①多剤併用処方の期間を定めること、②効果と有害事象を定期的にモニタリングすること、③全ての有害事象を適切に規制当局に報告することが推奨されている。

これまでの向精神薬の多剤併用処方のエビデンスが不足していることは明らかであり、①プラセボ対照無作為化比較試験により、多剤併用処方の有用性を検討すること、②レセプト情報などと臨床情報を連結した臨床データベースを構築した観察研究により、実臨床のセッティングにおける多剤併用処方の長期的な有効性と安全性を検討すること、が求められている。日本においても、子どもへの向精神薬の多剤併用処方の有効性と安全性の検討は不可欠であるが、それ以前に、向精神薬の多くは適応外使用であるため、まずは、治験の推進が喫緊の課題と言えるであろう。余儀なく向精神薬を適応外使用せざるを得ない状況は、医師と患者双方ともに不利益をもたらすため、諸外国のように小児治験を法令化することをこうりょすべきであろう。


どうでしょう?イライラしませんか?
まず、日本の高い多剤併用率については、海外のデータとは前提が違うから比べられないということで検討が必要という結論で正当化している。
よくよく考えてもらいたい、子供の向精神薬服用者の併用率というものが、少々前提が違ったとしても、大きく結果が違ってくると思いますか?

次に、ADHDの子供対する併用療法のエビデンス研究を幾つか提示し、臨床現場では子供への多剤併用も致し方ないとの見解を述べている。
このブログの読者であればもうお気づきでしょう。
ADHD薬物治療の失敗(ADHD治療薬の副作用)は、統合失調症であり、双極性障害であり、攻撃性である。
治療抵抗性とは、薬物治療では治らないということだ。
日本のADHD患者にはどれほど治療抵抗性の高い患者がいるというのだろう。
ここで示されたエビデンス研究は、治療の失敗を本人の病気の所為にすり替えるといういつものマッチポンプ研究である。

ところが、後半では、至極まっとうな意見が述べられている。
・多剤併用のエビデンスが足りないこと
・有効性も安全性も確認されていないこと
・有害事象が報告されていないこと
・期間を定めずだらだらと処方していること
・併用が安全でないこと
・患者にも医者にも不利益があること
・ろくな研究をおこなっていないこと

まるで、私が書いたようです。
皆さん、この後半の文章を読んでどう思いますか?
実にいい加減な状況で、子供がくすり漬けにされているか理解できるでしょう。

しかし、この記事論文は非常に苦慮のあとが透けて見える。
文脈では現在のデタラメな子供への薬物治療を容認するような書き方をしているが、結論は真逆である。
いったい何を擁護してるんでしょうね。
分かりにくいので、もうそろそろ、本音だけで書いたらどうでしょうか?
しかし、日本の子供のくすり漬けのデータが初めて公開されたことだけでも、この論文は重要です。

この論文の解説は、次のメールマガジンで詳しく行います。


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