Make It Plain

アフリカン・アメリカン研究の視点から、ヒップホップをはじめとする黒人音楽、歴史、社会などについて考えてみるブログです。


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20世紀初頭に現れたイスラームセクトは、黒人社会における影響力を増していったが、ブラックパワー運動の減退とともにスンナ派へ移行する動きが生まれた。

その結果、アフリカ系アメリカ人のイスラームは、ネイション・オブ・イスラームとスンナ派の大きな二つの流れへと分かれていった。

こうしたアフリカ系アメリカ人のイスラームとその歴史の軌跡は、ヒップホップにも影響を与えてきた。

今回から、アフリカ系アメリカ人のイスラームおよびその変化とヒップホップの関係について、ヒップホップの歴史、アーティスト、歌詞の分析を通して考察する。





ヒップホップは、1970年代中頃にニューヨーク市のブロンクスで生まれたアフリカ系アメリカ人の文化である。

ブロックパーティーと呼ばれる空き地にサウンドシステムを組み立てて、DJが音楽をかけていたところからヒップホップは始まったのである。

その中でも、ラップと呼ばれるものは、DJのかける音楽にあわせてマイクで喋り、踊っている人たちを盛り上げようとしたことから始まった。

したがって、1970年代の終わり頃から流通しだしたラップの作品の内容は、パーティーをテーマとしたものだった。





しかし、1980年にはBrother D with Collective Effortというグループが、How We Gonna Make the Black Nation Riseという曲を発表している。

ディスコの名曲であるシェリル・リンのGot to Be Realというアップテンポなメロディーを使用しながらも、歌詞の内容はアメリカを批判し、アフリカ系アメリカ人社会の結束の重要性を訴えるものとなっている。

この曲は、最初のいわゆるコンシャス・ラップの曲といえるのではないだろうか。





Brother Dは、”Devil is taking off his disguise. They are killing us in the streets.(悪魔がその仮面を脱ぎ捨て、俺たちをストリートで殺そうとしている)"と歌っている。

こうした表現には、白人は悪魔であるというNOIの教義の影響があると考えられる。

また、マーカス・ガーヴィーの名前と彼の有名な"Up! You Mighty Race!(立ち上がれ!強大な人種よ!)"という言葉が、歌詞に盛り込まれている。

この曲はマイナーレーベルから発表された曲であったために、市場での流通量も少なく、メディアでも取り上げられることはほとんどなかった。

しかし、1980年というラップのレコードが流通し出した最初の時期から、このようなブラックナショナリズムの思想が随所に散りばめられた曲が存在したことは特筆に値する。





こうした黒人社会の現状を訴える曲は、1982年に発表されたGrand Master Flash & the Furious FiveのThe Messageという曲が初めて大きなヒットとなった。

そして、このような政治的なスタイルを前面に押し出したアーティストが1980年代中頃から現れるようになったのである。

$Make It PlainGrand Master Flash & the Furious Five





その中でも有名なのが、KRS-OneとPublic Enemyである。

KRS-OneはD-NiceというラッパーとScott La RockというDJと一緒に、Boogie Down Productionというグループを結成した。

$Make It PlainBoogie Down ProductionのScott La Rock(左)とKRS-One(右)





彼らの1987年デビューアルバムCriminal Mindedに含まれる曲の多くは、暴力に関するものであった。

さらに、同年にはDJのScott La Rockが襲撃され亡くなってしまう事件が起きた。

その結果、KRS-Oneは、大きな方向転換を行なっていった。

$Make It PlainCriminal Mindedのアルバムカバー





翌1988年に発表されたアルバムは、By All Means Necessary(全ての手段を用いても)というタイトルがつけられた。

このタイトルは、マルコムXの有名な言葉である「By Any Mean Necessary(いかなる手段を用いても)」をもじったものである。

そのアルバムのカバーは襲撃に備えてライフルを手に窓から外を覗くマルコムXを写した有名な写真を真似たKRS-Oneの姿が映し出されている。


$Make It Plainライフルを片手に窓から外を覗くマルコムX

$Make It PlainBy All Means Necessaryのアルバムカバー





以降のKRS-Oneは、自らteacha(teacherをアフリカ系アメリカ人の発音の通りに綴ったもの)を称し、独自の哲学や宗教観について語るようになっていった。

KRS-Oneは、マルコムXが思想界に革命を起こしたように、ヒップホップの世界で同じようなことをしようと意識したのではないだろうか。





KRS-Oneと同じ頃にデビューしたPublic Enemy(以下PE)は、アメリカの権力と戦うといった政治的な内容の歌詞を前面に押し出したアーティストとして最も有名なヒップホップのグループと言えるだろう。

そうした姿勢は、軍服をよく着ている彼らの服装にもよく表れている。

$Make It PlainPublic Enemy




しかし、そうした政治的な姿勢の背景にあったのは、ネイション・オブ・イスラーム(NOI)からの影響であった。

特に、リーダーであるチャック・Dは、その歌詞からNOIから大きな影響を受けていることが読み取れる。

例えば、2枚目のアルバムIt Takes a Nation of Millions to Hold Us Backに収録されているParty for Your Right to Fightでは、NOIが神の預言者と考えているイライジャ・モハメッドの名前をはじめ、grafted devil(創造された悪魔、つまり白人を指すNOIの言葉)やoriginal Black Asiatic Man(最初の黒いアジアの男、つまりこの世に現れた最初の人たちでアフリカ系アメリカ人の直系の子孫とNOIが考えた人たちである黒人を指すNOIの言葉)が出てくる。

$Make It PlainIt Takes a Nation of Millions to Hold Us Backのアルバムカバー





さらに、同アルバム収録のBring the Noiseという曲では、冒頭にマルコムXのコーヒーのたとえ話から"too black"、"too strong"という声がサンプリングされている。

さらに、"A brother like me said 'Well, Farrakhan's a prophet and I think you ought listen to what he can say'(俺みたいなやつはこう言う。「ファラカンは預言者だから、彼の言うことは聞いておくべきだ」と。)"とチャックDが歌っている。





また、1989年に公開されたスパイク・リー監督によるDo the Right Thingの主題歌にもなったFight the Powerという曲のミュージックビデオでは、ブルックリンの大通りに設置されたステージの上にマルコムXの大きな写真が飾られている。

$Make It Plain映画Do The Right Thing





このように、1980年代の終わり頃からNOI教義やマルコムXを意識したアーティストが、多く現れるようになってきた。

特に、マルコムXが行なってきたようなアメリカに対する批判に見られる表現や論調が、多くのヒップホップアーティストに受け継がれている。

しかし、PEのようなNOIに影響を受けたような政治的な歌詞は、徐々に少なくなっていった。

その代わりに、1990年代に入るとファイブ・パーセンターズの影響を受けたアーティストたちが現れ、黄金期と呼ばれたヒップホップの時代を築いた。

次回は、このファイブ・パーセンターズの影響を受けたアーティストたちについて見ていく。



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