日韓のパイオニア | SPORTS PLANET スポーツプラネット

日韓のパイオニア

 米メジャーリーグのスカウトらを支援する団体の年次総会がこのほど開催され、ロサンゼルス・ドジャースなどで活躍した野茂英雄氏と、韓国人初のメジャーリーガーの朴賛浩氏にベースボール・パイオニア賞が贈られた。


 両氏はともにドジャースでチームメイトだったが、ロバート・ホワイティング著「野茂英雄―日米の野球をどう変えたか」(PHP新書)では、当時の2人をとりまく環境を紹介している。

 野茂氏がメジャーでの活躍で一躍英雄に祭り上げられたのは既知の通りだが、それは朴氏も同じ。ロサンゼルス近郊に住む韓国系アメリカ人はもちろん、祖国韓国からもファンがドジャー・スタジアムに押し寄せた。
 メディアはグラウンド上での活躍に飽きたらず、朝食のメニューまでも紹介。朴氏が韓国人街のショッピングセンターでサイン会を開催すると、1,500人ものファンが詰め掛けた。
 まさに野茂フィーバーならぬ、朴フィーバーだった。

 それぞれの母国で一大ムーブメントを巻き起こした両氏だったが、それぞれのファンの仲は決して良くはなかった。
 同書によると、日本人は韓国人を「ニンニクくさい」「規則に従わない」「人の物を横取りする」、韓国人は日本人を「自惚れ屋」「エレベータの中で挨拶もしない」「韓国の文化を見下している」「社会やビジネスで、韓国人を平等に扱わない」と見ていた。
 言うまでもないが、野茂、朴両氏ともに、当時はドジャースのチームメイトだ。
 にも関わらず、歴史的な背景や文化の違いなどから、日韓のファンは互いを受け入れようとしなかった。

 そんな雰囲気は両氏にも伝わっていた。
 野茂氏は「ロサンゼルスの日本人も、祖国の日本人も、みんなが僕に注目しているとわかっていたから。成功しなくてはというプレッシャーがきつかった」、朴氏も「韓国人は僕にとても期待していた。みんな野茂を見て『ほら、彼はあんなにすごい』と言う。なんでも日本人、日本人、日本人さ。野茂は日本人だろ? 僕は韓国人だから。野茂みたいに頑張らなくてはなかなかった。というより、野茂を越えなければならなかった」と、当時を振り返っている。

 ただ、両氏は良きチームメイトだった。
 野茂氏がメジャー初勝利を挙げた際、朴氏は野茂氏に祝福の手紙を送っているが、朴氏は当時、ニューメキシコ州アルバカーキを本拠とするマイナーチーム、アルバカーキ・アイソトープスにいた。
 一方野茂氏は朴氏のメジャー初先発の前夜、対戦相手のフロリダ・マーリンズ(現在のマイアミ・マーリンズ)のラインナップを、朴氏と検討。どう対処すべきか、アドバイスした。
 後に朴氏は、「(野茂氏の助言は)とても役に立ったよ。ベテランがルーキーに、日本人が韓国人のアドバイスをすること自体が、とても素晴らしいと思った」と語っている。

 現在の日韓関係が芳しくないのは、周知のとおり。ときに、不信感が募るニュースも飛び込んでくる。
 だが一方で、野茂、朴氏のような日韓関係もある。かくいう小生も、シカゴ・オヘア国際空港で道に迷った際、韓国人のお婆さんに救われた。互いに拙い英語だったが、コミュニケーションがとれた。

 両国の関係改善は容易ではないが、人対人で見れば、解決の糸口を掴めるかも知れない。



Written by Yui Murayama