4年ぶりの初めまして | SPORTS PLANET スポーツプラネット

4年ぶりの初めまして

松本から約7,000人


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ずらりと並んだバスから緑のサポーターが続々と降りてくる。その様子を写真に撮り、Twitterに投稿すると「凄い!」のコメントが幾度も付き、63件もの公式ReTweetがされた。それだけ衝撃的な出来事がJリーグ開幕戦を迎えた味の素スタジアムで繰り広げられていた。バスから降りてきたのは今年からJ2に参戦する松本山雅FCのサポーター。2012年3月4日、非常に多くの松本山雅サポーターを迎えてJ2開幕戦「東京ヴェルディvs松本山雅FC」が行われた。東京ヴェルディ公式Twitterアカウントによると、この日のアウェイ(松本山雅FC側)席チケットは6,855枚も売れていたという。J2のホーム平均観客動員は3,000~5,000人なのだから、アウェイに約7,000人ものサポーターが集まるということが異常事態であると共有していただけるだろうか。

これだけの松本山雅FCサポーターが集まったことにはきちんと背景がある。既に多く語られているので簡単にまとめるが、事の発端は松本市で行われたサポーターによるトークイベントで松本山雅FCサポーターが「開幕戦、味スタに5,000人は行きます」「2階席を開けさせたい」と宣言したことにある。この「5,000人動員」発言がきっかけとなり、TwitterなどWeb上では松本山雅FCのサポーターを中心に「味スタの2階席を開けさせろ」という煽り文句で盛り上がった。この流れに便乗したのがホームチームとして迎える東京ヴェルディだった。東京ヴェルディはYoutubeの公式チャンネルで5,000人を集めたら2階席を解放すると約束。ホームページでは両チームのチケット売上状況を表示する徹底した煽りを行い、松本山雅FCのサポーターに火をつけることでアウェイ側の動員を跳ね上げた。
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(画像は東京ヴェルディ公式ホームページより引用。スクリーンショットの撮影は2012年2月23日)

東京ヴェルディを長く傍観してきた私にとって、これは革命的なことだった。東京ヴェルディのフロントが敵味方限らずサポーターと手をとりあって目に見える形でプロモーションを行うことなど無かったからだ。これまでの東京ヴェルディにおいてサポーターと言えばフロントを批判するものという一定の勘違いが少なからずあった。もちろん、この対立関係はザックリとした構図であり、サポーター個々をとれば親密な関係だって築けているので大きな誤解はしていただきたくない。運営体制が変わって以降、両者の関係は徐々に近づきつつあることも補足する。

この日の観客動員は12,432人だった。昨年までの傾向からすると、東京ヴェルディの試合において上位対決など注目を集める試合での観客動員は8,000人程度。シーズンチケットの売れ行きが例年通りなので東京ヴェルディに感心をもっている人は例年通りとみれる。あくまでも私個人の予想ではあるが、プラス4,000人の動員は松本山雅FCサポーターによるものとみてよいだろう。お金の話にすると、単純に1枚2,000円のチケットが4,000枚売れたとして、8,000,000円ものお金がこのプロモーションにより動いたことになる。東京ヴェルディのフロントと松本山雅FCのサポーターが手を取り合ったことで約4,000人の観客を獲得し約800万円ものお金を動かした。
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松本山雅サポーターの魅力


4年前、私「龍星ひかる」が「ここからリーグ」というブログを立ち上げて間もない頃、全国社会人サッカー選手権大会を観戦に新潟県へ遠征したことがあった。このときの目的は大会そのものを観戦することは一つなのだが、松本山雅FCというチームのサポーターを目の当たりにしておきたいという目的もあった。当時、松本山雅FCは北信越リーグ1部に所属していたが、ネット上ではそのサポーターの多さが常に噂となっていたからだ。全国社会人サッカー選手権大会で第1回戦の観戦に選んだのは迷わず「松本山雅FCvs奈良クラブ」が行われるスポアイランド聖籠のカード。松本山雅FC側応援席にはぎっしりとサポーターが詰めかけていた。「多い」といっても地域リーグクラスでの「多い」なので数十人程度ではある。地域リーグなどサポーターが付くこと事態がもはや珍しい。多いのは確かだが、それ以上の感想は生まれなかった。

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松本山雅FCのサポーターの本当の凄さを知ったのは後々のこと。2010年の2月、松本山雅FCのサポーター団体「ULTRAS MATSUMOTO」が主催するサポーターパーティに私をゲストとして呼んで下さった。当時の私は(今でもそうだが)まだ社会の何たるかも知らず、ゲストとして出るにはおこがましい程の一端の学生ブロガーだ。十分に楽しいお話を出来たとは言えなかったが、ライターを志していた当時の私にその自信をいただいた。感謝してもしきれないくらいに今でも感謝している。その時から薄々感づいており、今は確信に至っているのだが、松本山雅FCのサポーターの本当の凄さは契機さえあれば何でも吸収し取り込んでしまおうとする貪欲さにあると考えている。

JFLに昇格してからはJFLでは影響力のあるホンダロックSCサポーターと協力してゴール裏を煽ることもあった。Jリーグに関係するイベントがあれば松本山雅FCのグッズを身につけた人がいないことの方が珍しいくらいだった。あくまで中立に立って作られていたという映画「クラシコ」も実質の主役を勝ち取っている。「松本山雅」が絡みそうなことがあれば何かしらのアクションを起こし、その都度話題を発生させている。私がこうしてこの記事を書いているのも彼らが2年前にアクションを起こし、今回もアクションを起こしたからなのだろう。

かくして彼らは東京ヴェルディのフロントを取り込むことに成功した。新参にして東京に約7,000人もの松本市民を集めてしまったのだ。チケット収入は東京ヴェルディに入るが、「松本山雅FCのJリーグデビュー戦」という時間軸にたった一度しか表れない時空間を共有できたことは、かけがえのない思い出として末永く松本山雅を応援する動機付けになること間違いない。

地域リーグウォッチャーとしてでなく、敵サポーターとして初めて迎えた松本山雅FC。聖篭町に詰めかけていた数十人ものサポーターは4年間で東京都に7,000人を集めるまでに膨れ上がっていた。100倍に膨れ上がったというその現象だけを見て「凄い」で終わるのでなく、その背景をきちんと分析し応用したい。

サポーターが出来ることはゴール裏でチャントを歌い、その場を盛り上げるだけじゃない。あくまで敵に対する煽り文句として我々は彼らを「新参」と呼ぶが、松本山雅FCのサポーターがアンダーカテゴリで培った周りを取り込む力というのはヴェルディが42年の歴史で決して作れなかったものだ。