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報道でも大きく取り上げられていましたが,7月17日(木)に最高裁判所で民法の解釈に関するとても重要な判決が出されました。



その判決とは,民法の以下の規定に関するものです。



民法772条



1項「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」



2項「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。」



この民法の規定は,「嫡出推定の規定」と言われています。女性のAさんが,男性のXさんとの結婚している間,別な男性Yさんと性的関係となり,その後妊娠して,子供Zが生まれた場合,子供Zは夫であるXさんの子なのか,それともYさんの子なのかは,厳密に申しますと医学的な調査を行わなければ科学的には確定できないはずです。



でも,それでは生まれてきた子Zの地位が不安定になる,という趣旨で設けられたのが,上で御紹介した民法772条なのです。つまり,民法は,「科学的な親子関係」ではなく,婚姻関係にある夫婦の妻が生んだ子は,夫の子と推定して,原則としてはその父子関係を誰も争えない,と規定したのです(争えるのはただ1人,夫がその子は自分の子ではない,として嫡出否認の訴えを起こすことができるだけです(民法775条))。



この「嫡出推定の規定」が不合理となるのは,生まれた子が本当は夫の子ではなく,別な第三者の子であった場合に,科学的な父子関係と法律上の父子関係が異なることになってしまう,という点にあります。



でも,そのような観点から規定が不合理である,との訴訟で主張を行っても,通常は次のような反論が出されるのです。「民法が保護しようとしている『家族』とは,イコール『血のつながり』ではない」という反論です。



例えば養子縁組制度はその一例ですね。「民法には『民法が守ろうとしている家族』があり,養子縁組制度はその『民法が守ろうとしている家族』の1つである」」ということになるのです。






冒頭で御紹介した7月17日(木)に最高裁判所で出された判断とは,その民法が規定する「嫡出推定」が,DNA鑑定で破られるのか,というものでした(日本経済新聞2014年7月17日掲載の記事より)。



「DNA鑑定で血縁関係が否定された場合に法律上の父子関係を取り消せるかが争われた訴訟の上告審で,最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は7月17日,父子関係を取り消すことはできないとする判決を言い渡した。



妻が結婚中に妊娠した子は夫の子とする民法の「嫡出推定」規定は,DNA鑑定の結果より優先されるとの初判断を示した。



民間のDNA鑑定の普及で血縁関係の確認は容易になっているが,いったん定まった親子関係を後の鑑定で取り消せるようになると子への不利益が大きいと判断した。



ただ,5人の裁判官のうち2人は,家族の実情によっては嫡出推定の例外を認めるべきだとする反対意見を述べた。日本社会では血縁関係を重視する考え方も根強く,今後も議論を呼びそうだ。



この日判決が言い渡された訴訟3件のうち2件は北海道と近畿の事案。妻側が『子の父親は99.99%,夫ではない』とのDNA鑑定結果を基に親子関係がないことの確認を求めていた。一,二審判決は鑑定結果を重視して妻側の訴えを認めた。



もう1件は四国の事案で,DNA鑑定で血縁関係がないと証明されたとして父親側が親子関係の取り消しを求め,一,二審とも嫡出推定に基づいて訴えを退けていた。



最高裁判決はいずれも親子関係の取り消しを認めず,訴えを起こした原告側の敗訴が確定した。法律上の親子間では相互の扶養義務や相続の権利などが認められる。



同小法廷は判決理由で,嫡出推定について『子の身分の法的安定性を保持するのに合理的』と指摘。『科学的証拠で生物学上の父子関係がないことが明らかになっても,法的安定性の保持は必要」と判断し,『法律上の父子関係と生物学上の父子関係が一致しないこともあるが,民法は容認している』と結論づけた。



山浦善樹裁判官(弁護士出身)は補足意見として『DNA鑑定で突然それまでの父子関係が存在しないことになるなら,子が生まれたらすぐに鑑定しないと生涯不安定な状態が続くことになりかねない』と指摘。『新たな規範を作るなら,十分議論をして立法をするほかない』と述べた。



一方,裁判長を務めた白木裁判官と金築誠志裁判官(いずれも裁判官出身)は反対意見を述べ,『生物学上の父との間で新たに法的な親子関係を確保できる状況にあるなら,戸籍上の父との関係を取り消すことを認めるべきだ』とした。」





もちろん,父子関係が早期に安定する,ということは,幸福な家族を築くいていく上でとても重要なことです。民法の嫡出推定の規定の存在意義はまさにそこにあります。



ただ,私達が忘れてはならないことは,その民法の条項では,「みなす」ではなく,「推定する」と規定されている,ということです。その規定は,元々社会変化,時代の変化に対応した柔軟な運用が可能がものではないでしょうか。



さらに申しますと,この民法の嫡出推定の規定が制定されたのは,100年以上前の明治時代だった,ということです。その後時は流れ,社会は変化し,家族観は多様になりました。そして,DNA鑑定という,100年以上前には用いられていなかった科学技術も一般的となってきています。



このような社会事象の変化は,当然民法の規定の解釈にも,社会的因子として影響を与えるはずです。



そしてさらに付言すると,民法の嫡出推定の規定はあくまでも法律上の制度であって,(多数決でも変えることが許されない)憲法の制度ではない,ということです。親子の関係は,外国の憲法における解釈,さらには国際人権条約の解釈において,100年以上前の時代の「家族のための子」という観点から,「子の保護の重視」という観点へと変化しています。



その解釈の変化は,上でも申しましたDNA鑑定の登場も相まって,民法の嫡出推定の規定をより柔軟に動かす契機となるはずではないでしょうか。






今回最高裁判所で争われた事件は3件です。その内には,①父親が子との親子関係を望んでいる場合に,子側がDNA鑑定の結果を援用してそれを否定しようとする事案と,②父親がDNA鑑定の結果を援用して子との関係を否定しようとする事案がありました。



元々民法の嫡出推定の規定が,「早期の父子関係の安定により子を保護するため」であったならば,その規定を硬直的・一律に適用するのではなく,子側が(DNA鑑定の結果明らかとなった)実の父との父子関係を望み,それを構築することが実際に可能である場合には,民法の規定を柔軟に解釈して,父子関係を否定する運用も,十分に可能なのではないかと思います。



最高裁判所の判断は,5人の裁判官の内,3人による多数意見でした。逆に,2人の裁判官はDNA鑑定により嫡出推定を否定することを認めるべきだ,と言われているのです。



その内,裁判長であった白木勇裁判長は,「人情と制度との調和」を法解釈により実現するべきだ,と反対意見で述べられています。DNA鑑定を行ってまで,生物学上の実の父との間で父子関係を築きたい,という思いを,民法の嫡出推定よりも優先させるべき場合があるのではないか,という御意見です。



司法権とは紙に書かれた活字である法律に意味を与える国家作用です。そして,時代の変化,社会の変化により,その正義を実現するために制定されたはずの法律が,逆に不正義を生む結果となる場合があるのであれば,その結果を法解釈により避け,逆に正義を実現しなければならないのが,司法権であります。



その司法権の役割からすると,今回の判断につきましては,時代の変化を法解釈に投影させようとされた白木勇裁判長の御意見に,私は心動かされるものを感じています。

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