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日本の現在の倒産法は,元をたどれば,明治期の法典継受を経て,その原型は中世イタリアの破産制度に行き着きます。



中世イタリアの破産制度は,債務者への懲戒が基調にあった,と言われることが多いのです。例えば日本の倒産法の代表的な教科書でも,次のような解説がされています。



「英語で破産ないし破産者を示すbankruptとかフランス語で破産犯罪を示すbanquerouteなどの用語も中世イタリアのbanca rottaすなわち『こわされた店代』に由来する」



「西欧語の『倒産』の語源はイタリア語のbanca(机),rotta(壊された)に由来するといわれるが,これは,倒産した債務者が自己の支払窓口の机を壊すことも,おしかけた債務者が怒りのあまり机を壊すことも意味している」






ところが,私が愛読しております『法学の世界』(日本評論社,2013年)に掲載されている水元宏典さんの「倒産法の現在・過去・未来」(同書233頁)によりますと,最近の海外における研究においては,そこに言われるbench breaking の蛮行がかつて本当に存在したのだろうか,と疑われ始めているそうなのです。



すなわち,bench breaking なるものは,1つの神話であった,仮にあったとしても,周辺的・散発的な現象にすぎなかった,というのです(Schich,Globalization,Bankrupcy and the Myth of the Broken Bench,80 Am.Bnkr.L.J.(2006)219)。



この神話説によると,bench breaking については,次のような問題があるそうなのです。



①その時期が,中世(500年頃から1500年頃まで)のいつかという説明しかなく,曖昧である。



②場所について,ベニス,イタリア,スペイン,各地の定期市,ヨーロッパ大陸など,論者によって異なっている。



③bench breaking の目的についても,返済を怠った債務者への制裁,逃亡した債務者への制裁,悪意の銀行家への制裁など,一貫しない。



④何が破壊されたのかについても,bench のほか,商品陳列台,カウンター,テーブル,商店など定説をみないうえ,カウンター説とテーブル説では,当時それらが両替を象徴するものであったことから,銀行家破産に場面が特化される。


⑤誰のbench が破壊されたのかについても,小売商人,卸売商人,銀行家,両替商など一致しない。



⑥各論者が根拠とする出典を遡ってもbench breaking の存在を示す証拠には到達しない。



その上で,神話説の論者は,中世イタリアの破産制度も十分に経済合理的であり,かつ,債務者救済的であった,と結論づけています。






「破産」「倒産」と申しますと,その言葉自体に否定的な意味を感じる方が多く,借金のご相談を受けた際にも「破産だけはしたくない」「破産すると,どんな制裁を受けないといけないのか」という質問をいただくことが多いのです。



ひょっとすると,その日本語の「破産」という法律用語と,その用語の元となった「bench breaking 」が持つと指摘される否定的な意味やニュアンスは,上でご紹介した,歴史的な背景から来るものなのかもしれません。



でも,さらに上の論考でも指摘されているように,実はその否定的な意味そのものが,「破産制度」に対する偏見から生まれた神話だったのではないか,という可能性があるのです。



本来破産制度は,借金で苦しむ人が人生のリスタートを切ることができるように,と設けられた制度であり,むしろ「破産制度」の言葉には,社会としてそのような意味を与えていくことが必要なのかもしれません。



そのためにも,私たち弁護士のサポートと意味を与える活動が,今後もこれまで以上に必要となってくるのだと思います。


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