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「遺言」という言葉は,私達の日常生活で当然のように用いられていますね。でもその読み方については,「いごん」という立場と「ゆいごん」という立場の間で争いがあることをご存じでしょうか。



市民の方々の間では,「ゆいごん」と読むことがほとんどだと思います。でも,法律実務家,法律専門家の間では「いごん」と読む立場が多数なのです。



法律専門家の多くが「いごん」と読むには理由がありまして,法律用語は漢音が多く,「遺」は漢音ですと「い」である,というのが最大の理由となります。



私がとても好きな民法の教科書である『相続法講義』(創文社)を書かれた鈴木禄弥先生は,同書の「遺言」の章において,全ての「遺言」に「いごん」とフリガナを打たれていたことを覚えています。読み方にこだわりをお持ちだったのかな,と思います。



ところが,その一方で法律専門家の中にも「ゆいごん」と読むべきだ,という立場の方がいらっしゃいます。その代表は,民事裁判官として多くの著名な判決を書かれた倉田卓次さんです。



倉田さんは,『解説・遺言判例140』(判例タイムズ社,1996年)において,「遺言」は「ゆいごん」と読むべきだ,との立場に立たれています。



倉田さんの御主張の根拠としましては,まず「遺」の漢音は「い」というよりも「ゆい(ywi)」である,ということを指摘されます。さらに倉田さんは,代々市民の方々が「ゆいごん」と読み続けてられているのに対して,法律の専門用語としては「いごん」なのだ,としてその専門家の読み方を市民の方々に強いるべきではない,と言われるのです。



法律は市民の方々の思いを実現するためにあり,市民の方々の思いに支えられないと,適切な動きができないのだから,むしろ法律専門家の方が,市民の方々が代々読まれてきた読み方に合わせるべきではないでしょうか,と言われているように思います。多くの思いやりあふれる判決を残された方だからこその言葉のように思えます。







さて,このように論争の続く「遺言」の読み方ですが,最近とても興味深い指摘をされる方がいらっしゃいます。現在神戸大学で民法を教えられている窪田充見さんです。



窪田さんは,最近発表された著書『家族法―民法を学ぶ』(有斐閣,2011年)442頁以下において,次のように述べられています。



「日常用語で,遺言にふりがなをつけるとすれば,『ゆいごん』だろう。それに対して,民法で,遺言を取り上げる場合には,『いごん』と呼ぶことが多い。・・



日常用語と違う呼び方をするというのは,いかにも専門用語を気取っていて,ちょっと気障(きざ)な感じもしないではないが,『ゆいごん』と『いごん』に関しては,こうした呼称の使い分けにも,一定の意味があるように思われる。



民法上の遺言の対象とされるものは法定されており,そこに含まれないものは,民法上の遺言としての効力は認められない。



たとえば,遺言の中で『残された母さんに孝行を尽くすように』と書いても,民法上の効力(親孝行義務!)が認められるわけではない。



しかし,だからといって,そのようなことを書くことが禁止されているわけではないし,また,その遺言に社会的な意味が認められないわけではないだろう。



遺族が,故人の遺志をできるだけ尊重しようとする場合に,それは,やはり意味を持つものなのであり,それは無効だという一言で片付けるべきではないだろう。」






遺言とは,自分がもうこの世を離れた後,残された家族のことを思い,考えて書かれるものです。



家庭裁判所で,壊れそうな家族を何とか再生させて,再び綺麗な花を咲かせようとする裁判官を描いた作品『家栽の人』(毛利甚八作・魚戸おさむ画,小学館)では,仲の悪い兄弟の将来を案じた父が,何とか兄弟仲良く暮らせるよう工夫した遺言を残すお話が登場します。



そのお話で主人公の裁判官が,「遺言は,亡くなられた方が最後に残された願いなのです」と言われるシーンが登場します。



法律専門家がどんなに「いごん」と読んでも,社会は「ゆいごん」と読み続けるのは,自分がこの世を離れた後に残される家族の方々のことを案じ,その将来の幸せを願った人々の思いは,法律の内容を遙かに超えたものだからかもしれませんね。



私も法律家として,今後も「いごん」の部分と同じように,「ゆいごん」の部分を,そこに込められた亡くなられた方の思いを大切にしていきたい,と思っています。

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