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先日の記事で御紹介しましたように,兵庫県で発生した甲山事件における冤罪被害者である女性と,刑事裁判でその女性を支え続けてこられた弁護人の弁護士の方,さらには裁判官や心理学者などをお呼びして,岡山弁護士会主催で「捜査の可視化を考える」シンポジュウムを行うことになりました。



シンポジュウムは「2012憲法記念県民集会 取調べの可視化実現を目指して―甲山事件から密室取調べとえん罪のメカニズムを考える」とのテーマの下,平成24年5月12日(土)の午後1時30分から4時30分までの予定で行われます。場所は岡山市内にあります,山陽新聞社さんた記念ホールです。






繰り返しになりますが,再度ご説明いたします。甲山事件は,1974年(昭和49年)3月17日,兵庫県西宮市の甲山の山麓にある知的障害児の養護施設である「甲山学園」において,一人の女児園児が行方不明となり,2日後にはさらに男児児童が行方不明となり,捜査の結果,二人とも園内のトイレ浄化槽から水死体で発見された,という事件です。



事件は,当時同施設の保母をされていた女性(当時22歳)が殺人容疑で逮捕されたことで,刑事事件となります。その女性は逮捕された後も「何も知らない」と言われたにもかかわらず,捜査機関はそれを信じず,勾留の結果,犯行を認める自白調書が作成されます。



しかしその女性はその自白調書が作成された後,再び犯行を否認します。事件は検察官が不起訴として一旦は終了します。



ところがその後,検察審査会による「不起訴不当」の議決をしたころから,再び捜査機関が動くこととなり,結果的にその女性は殺人事件の容疑で起訴されたのです。



女性は公判で一貫して犯行を否認し,第一審の神戸地裁は無罪判決を出します。ところが検察庁が控訴した後,大阪高裁は第一審判決を取り消す判決を出します。その取り消し判決に対する上告が最高裁により棄却され,事件は再び神戸地裁での審理が行われました。



しかしながら,神戸地裁は再度無罪判決を出し,その無罪判決に対して検察庁が控訴したものの,大阪高裁は今度は控訴棄却の判決を出し,ここに甲山事件は女性の無罪で終了するに至ったのです。



事件が発生したのが1974年(昭和49年)で,当時22歳だった女性は,大阪高裁の控訴棄却で事件が終了した1999年(平成11年)には47歳となっていました。



この事件は,第一審(神戸地裁)→控訴審(大阪高裁)→上告審(最高裁)→差戻審(神戸地裁)→控訴審(大阪高裁)と5つの段階で裁判が行われたにもかかわらず,結局一度も有罪判決が出されなかったという,まさに数奇な経過をたどったものなのです。






そのシンポジュウムにもいらしていただく予定の,冤罪被害者の女性と,打ち合わせのためにお会いすることができました。



その席でその女性は,刑事事件の鉄則と言われる「疑わしきは罰せず」の原則について,とても興味深いお話をしてくださったのです。その女性のお話とは,次のようなものでした。



「大学などに講演に呼ばれて行きますと,いつも参加してくださる方に,『皆さんは疑わしきは罰せずの原則はどういう意味だと思われますか』と聞くのです。



すると必ず,例えば法学部の学生の方からは,『起訴された被告人のXさんが有罪かどうかを判断するのが刑事裁判だけれども,刑事裁判の結果,被告人のXさんが有罪であるかどうか疑わしい場合には,Xさんを有罪としてはいけない,という原則だと思います』という回答がされるのです。



その回答の立場は,おそらく社会の皆さんの多くが持たれているイメージでしょう。刑事裁判の結果無罪となった人に対し,『あの人は疑わしいけれども有罪とされるには十分ではなかったのだ。無罪になってラッキーだな。』というイメージです。



でも,『疑わしきは罰せず』の本当の意味は,被告人のXさんが疑わしいかどうかが問題ではないはずです。検察庁が裁判所に提出した証拠が疑わしい場合には有罪としてはならない,という意味のはずなのです。



『疑わしきは罰せず』が誤った用い方がされていることが,多くの人を苦しめていると思います。」







社会に存在している「法」にどのような意味を与えるかによって,私達の社会の姿は大きく変わるのですね。



法は強制力があります。そしてその強制的な結果を受忍させられるのは私達国民なのです。



とすると,その国民が適正な裁判を受けるためには,私達一人一人の力で『正しい法を獲得する』ことが大切になります。さらには,存在している法に『正しい意味を与える』ことも必要になるのです。



冤罪被害者の女性は,ご自身が殺人罪の容疑で起訴された後,本屋で著名なイエーリングの『権利のための闘争』を購入されて読み,とても感銘を受けた,と言われていました。



まさに自分自身の権利の実現のために闘争を続けてこられたその方は,20年以上にわたる裁判を戦い抜いた方でもあります。そのような人生からは想像もつかないような穏やかな声で,私に「法の理念の実現のための主体的な努力の大切さ」を教えて下さったのだと思います。



5月12日のシンポジュウムがとても楽しみです。

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