最終話「プレゼント」

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いぇーい!とうとう高校時代の恋も成仏!!!最終話!


今日はコメント欄があるのおおお。いつもお世話になってます。


勝手にお邪魔ばかりしてる方々すいません。


最後まで読んでくれてありがとう。






第一話 「フェンスの向こう側、光の粒」

第二話 「はちみつのど飴」

第三話 「雨、濡れた制服、涙

第四話 「大歓声が聞こえる。」

第五話 「誰もいない教室で」

第六話 「冬星の下、どこまでも」

第七話 「バイバイ、マタアシタ」
八話 「愛しい待ち人」

第九話 「彼女」

第十話 「今がいく」

第十一話 「どうして、私は。」

第十二話「かたおもい」

第十三話「夢は死なない」

第十四話 「結婚しよか」

第十五話 「秋の終りの中で」

第十六話 「告白」

第十七話 「雪道より、あなたを思う。」

第十八話 「同じ空の下、それぞれの道」

第十九話 「抱きしめる 前編」

第二十話 「抱きしめる(後編)」

第二十一話 「思い出作り・違う」

第二十二話 「線香花火、落ちた。」

第二十三話 「決勝前夜」

第二十四話 「サヨウナラ。私たちはただ駆けてゆく。戻れない道をこんなにも速く駆けてゆく。」

第二十五話 「used to be a child」

第二十六話 「私が、覚えている。」


第二十七話 「ケイタ」

第二十八話 「LOVELETTER」

第二十九話  「サインに意味があるのなら」




LOVELETTER


 最終話 「プレゼント」

  




手紙の差出人は関子だった。


なんなんやろ?


一人暮らしのマンションの部屋。


バッグをそこらに投げおき、急いで封を切った。


封筒から便箋をガサガサ取り出すと、一枚の写真がこぼれ落ちた。



拾い上げて見てみると、嬉しそうにポーズを取る関子の隣には見知らぬスーツ姿の男性が。



・・なんや・・・関子あたらしい恋人できたんか・・・わざわざ隠さんでもええのに



便箋を開いて、彼女のくりくりした文字を読んでいった。



『おす。今、あんためちゃびっくりしてる?してるやろ?いや、もし間違ってたらなんの意味もない手紙なんやけど、そん時は許してくれ。』



え?普通に彼氏との、おノロケ写真送ってきたんちゃうの?



まったく関子の意図がわからないまま手紙を読み進めた。



『秋山ケイタ。この人、あんたが高校時代に好きやったサッカー部のキャプテンちがう?』



関子の字で書かれた「秋山ケイタ」という字と、ケイタ。
私の高校時代の全部だったケイタが、しばらくつながらなかった。


あわてて、膝元に置いた写真を手に取った。


ポーズをつけて笑う関子の隣のスーツ姿の男性。
彼もおどけた表情をしていた。



!!!!!!!



次の瞬間、
手に食い込む、所々塗装が剥げた薄緑のフェンスのギシギシした感触、


校舎をグラウンドを、ゆっくりと澄んだオレンジに縁取りながら傾いていく太陽、


砂利と雑草を踏む私のローファー越しの固い地面、


夕闇をそうっと連れてくる甘い風の香り、


伸びてゆく影、


そして。そんな風景を切って走る愛しい背中。振り向いた笑顔。


ケイタ。
秋山ケイタ。


私の記憶の中の彼が写真の男性とぴたりと重なった。



「あぁあ・・・・!!!」



思わず声を出していた。


もう会わないでおこうと決めていたケイタ。

見ることもないだろうと思っていた彼のスーツ姿。


なんだろう?なんの偶然で、私の親友とケイタが同じ写真に納まっているのだろう。



しばらく呆然として。

ハッと携帯を手に取り、関子に電話した。




「あ・・・着いた?手紙。あんた今マジびっくりしてるやろー?!!」




「もう・・・びっくりしたどころじゃないって・・・信じられへん・・・

なんで?なんでなん?ケイタの名前すらあんたに言ったことなかったやん」




「私もびびったんやけどな・・・・」






関子は、東京で働き始めていた。


そのオフィスは女性がほとんどで、毎日が退屈だったらしい。



「今日の午後、男性社員が本社から来るらしいよ!」



そう同僚に聞かされた関子が



「ほんま?!」



と楽しみにしていたところ。
午後一番に自分と同年代くらいの男性が入ってきた。


関子はパソコンに向かって、働いているフリをしながら、彼の会話に耳をそばだてていた。


すると彼が東京ではあまり聞かない関西弁をしゃべっていることに気がついた。



え?関西の人やん!



思った関子は、会話の糸口を捕まえたとばかりに、その男性が自分の後ろを通り抜ける際に、



「すいません」



と呼び止めた。



「・・・はい?」



不思議そうな顔で振り向いた彼に



「あの・・・関西の人ですか?」



「あ、大阪です」



「やっぱり!私も大阪やからすぐわかりました!」



と、話が盛り上がり始めた。




そして。
ひとつひとつの情報を聞いていく内に、年齢や住んでいた地域、高校名が、私と同じだということに気がついた関子が、



「もしかして・・・・安藤って知ってます?!」



興奮して聞いた。



「安藤!知ってるよ!めちゃ仲良かったし!安藤知ってるん?」



「一応親友です!」



「そうなんやー!マジでー!?あいつ元気?元気にやってる?」



「はい、むかつくくらい元気です。」



このような会話が繰り広げられ、周りの同僚たちはポカンとしていたそうだ。



「あと・・・・もしかしてサッカー部で・・・キャプテンとかしてました?」



関子は最後に気になることをおそるおそる聞いてみた。



「あ、うん」




彼が、私の片思いの人だと確信した関子は、持っていたデジタルカメラで一緒に記念写真を撮った。







「・・・うそ・・・うそや・・・」



私の声は震えていた。



「私もびっくりしてんて。もうどんな確率やねん!って思わん?ありえへんで、普通・・・」



「そうやんな・・・ありえへんやんな・・・まだ信じられへん・・・・」



写真の中のケイタを見つめた。

もう二度と会わないと決めていた。

私の好きだった人だから。

自分が女性化した姿を見せるのが怖かったから。




「あんたのこと、気にしてたで・・・。

でもあえて私はあんたの連絡先教えんかったし、向こうも聞いてこんかった。

多分知ってるんちゃう?あんたの今の状況。

でも、何回も何回も『安藤に会いたい、会いたい』って言ってたで」




その言葉だけで十分だ、と思った。


いつかケイタに会える日が来るのなら、その時に感謝の思いを告げようと。




「あと・・・・言いにくいんやけどな・・・・」



関子は口ごもった。



「何?早く言いや」



じれったくて、私はせっついた。




「・・・・・・ケイタ君、半年前に結婚したって。結婚指輪してたわ」



トーンの落ちた声で関子は言った。



瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、いつか彼が言った言葉、



『もしお前がニューハーフになったら結婚しよか』



だった。




涙が一気にぼろぼろ落ちた。


嗚咽をこらえきれなくなって、携帯の通話口を一瞬離した。


頭がぐるぐる破裂しそうだった。



「・・・ありがとう、関。マジでありがとう。

ほんまに嬉しかった。ありがとう・・・」



なんとか御礼を言って、電話を切ると。




ううぅ・・・・あぁあああああ



写真を握り締め、突っ伏して泣いた。





グラウンドに響く掛け声、


ボールを追う背中、


朝一番のしんとした教室、


はちみつのど飴、


雨音響く図書室、





洗い立てのシャツの白、


シューズの音鳴る体育館、





陽を反射する水飲み場、


中庭の緑、


さざめく昇降口、



受験前夜のチャーハン、


バイクの排気音、


左足のミサンガ、


意地悪も、受話器越しのやさしい声も、笑顔も、怒り顔も、指、O脚、彼を構成する全て、




ニューハーフあんどう蒼の超乙女改革

雨上がりのアスファルト、


信号待ち、澄んだ空気、



ニューハーフあんどう蒼の超乙女改革

踏切向こうの夕暮れ、田を渡る風、



星、星空、光る街。


風。切って行く風。息苦しくて息苦しくて。


ぎゅっと恋にしがみついた。スピードをあげてただ駆け抜けた。



ケイタがいて、私がいた。





そっかぁ・・・ケイタ・・・結婚したんかぁ・・・


おめでとう・・・おめでとう・・・


ずっと守っていきたい人ができたんやなぁ・・・・




涙も鼻水もよだれも全部ぐちゃぐちゃと床を濡らした。


それでも、止まらなかった。


何に対して泣いているのかさえ、わからなくなるほど、真っ白になるまで泣き続けた。


おめでとう・・・・ケイタ・・・・





人と人が肩を寄せ合って一緒にいられる時間は短すぎて。
価値に気づくことができないまま誰もがすごい早さで、駆けていってしまう。


だからこそ。
ケイタと少しでもわかり合えた瞬間があったことを誇りに思う。



幸せは、ほんの一瞬雲間から差すキラリとした光のようで、

次の瞬間には代わり映えない日々の時間に埋もれてしまう。

けれど、その光の美しさを覚えていれば、いつも、誰もが言えるのだ。


「あのころ自分は幸せだった」


と。



だから、いちいち覚えていたい、と思う。


ツラいことも、悲しいことも、切ないことも、綺麗なことも。全部。


いちいち覚えて、思いだして、時には泣きたくなるだろうけれど、それはきっといつか私を助けてくれるたくさんの光の粒になる。



あの全国予選決勝前夜、ケイタしがみつきながらその肩越しに見た光の海に私は今日も生きている。


違う光の海で、きっとケイタも。


光の海たちは高いところから見れば、きっとずっと繋がっていて、また彼に会う日が来るかもしれない。







あの頃、二人で通ったあのラーメン屋はテレビで紹介されたりして、

全国に支店ができるほどの有名店になった。


ケイタが「サッカーにずっと関わっていきたい」と私に言ったあの出来たばかりの公園に植えられていた木や花は、

はじめからそこにあったかのように活き活きとその生命を空に伸ばしている。


他にも、もっともっと色んなことが変わったけれど。


私はいまだに、自転車のパンクは自分では直せない。



ニューハーフあんどう蒼の超乙女改革



ケイタが名古屋に行く日、私が別れ際に渡した手紙。
その行間に沢山の思いを込めた、ラブレター。


思いを伝えられなくて何度も泣いたりしたけれど、それは全然無駄なことなんかではなくて、忘れた頃に思いがけないプレゼントをくれる。


行間に乗せた思いはどこかに届いて、長い時間を経てから、彼の幸せな姿を私に見せてくれた。




いや、それだけじゃない。
過ぎていく毎日毎日そのものが「プレゼント」なのではないだろうか。


その中では自分がなぜこう生まれたのか、そのサインの意味は何なのかなどは関係ない。



ときに残酷で、とても生々しい時代の。

けれど一生懸命考えて必死で歩こうとした青春と呼ばれる時代の。
その全てがぎゅっと収められた小さな箱を抱いて私は行く。

死ぬまで、そして死んだその先も。ずっと。ずっと持っていく。



ありがとう



私は、誰に感謝するでもなく、全部。今までの全部に感謝した。
ケイタはもちろん、すべての人、この人生で声を掛け合ったすべての人に。
そんな風に感謝することはきっと、心の中で「ラブレター」を書くことなのだ。




泣き顔を上げ、ベランダ越しに外を見た。



ニューハーフあんどう蒼の超乙女改革


もう薄闇に押されはじめた夕焼けの下を、

親子や中学生やサラリーマンが、オレンジに溶けるようそれぞれの場所へ帰っていく。



誰もが「一日」という素晴らしいプレゼントをもらっているのに、そんなことに気づきもせず急いで歩いていく。



私は、これから何枚も何枚ものラブレターを胸の中で書いていくだろう。色んな場所で、色んな人に。

それはとても幸せなことで。


ずっと広がる夕焼けが、また巡ってくる一日。

「明日」という最高のプレゼントをそっと結ぶオレンジのリボンのように見えて、グッと涙を拭いた。




LOVELETTER 終わり。







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