★キング・ソロモン・バーク復活までの道のり | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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★キング・ソロモン・バーク復活までの道のり

【Long Way To Resurgence Of King Solomon Burke】

復活。

去る2010年5月29日、30日に日比谷で見たキング・ソロモン・バーク。僕はいまだ興奮冷めやらないが、1960年代に世界を席巻したヴェテラン、ソロモン・バークは2000年代に入って急速に再注目を集め、いわば奇跡の復活を果たす。果たして、その復活への道のりはどんなものだったのか。6月6日(日)に「ソウル・サーチン」のコーナーで特集するにあたり、いろいろ調べているうちに、いくつかポイントとなることがあったので、整理して書いてみたい。

イギリスのレコード・マニアでレコード店員、ときどきDJをする男を主人公にした小説『ハイ・フィデリティ』にこんなシーンがある。

「ローラに会ったのはちょうどそのころ、1987年の夏だった。(中略) フロアを眺めているときは、いちばんかわいい子しか目にとまらない。だから、ローラが狭いDJブースへやってきて話しかけてきたとき、もう3、4回店に来ていたというのに、ぼくには覚えがなかった。だが、彼女を好きになった。リクエストしたのが、ぼくも大好きな曲だったからだ(ちなみに名前をあげておくと、ソロモン・バークの「ゴット・トゥ・ゲット・ユー・オフ・マイ・マインド」だ)。しかし、それはターンテーブルに乗せると、とたんにフロアから人がいなくなってしまう曲だった」(『ハイ・フィデリティ』(ニック・ホーンビー著・森田義信訳=新潮社・新潮文庫、1995年、118ページ~)

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イギリス白人のレコード・マニアには、ソロモン・バークや、アメリカのR&Bシンガー、ブルーズ・シンガーのファンがけっこう多い。ビートルズしかり、ローリング・ストーンズしかりだ。この小説が発表されたのは1995年。これでソロモン人気に火がついたということはないだろうが、ソロモンぐらいのヴェテランでレジェンドになれば、「音楽好きの基礎教養」として多くの人がソロモンの存在を知り、リスペクトしていることに間違いはない。

そうしたことで、将来どこかで再ブレイクするかもしれない下地はできているわけだ。(ちなみに、この小説は音楽レコード・マニアとそのガールフレンドに巻き起こるさまざまな事件などがおもしろおかしく描かれていて、けっこう笑える。男子のレコード・マニアは相当共感する部分もあるのではないだろうか)

ソロモン・バーク作品の中でもっとも有名なのは、「エヴリバディー・ニーズ・サムバディー・トゥ・ラヴ」あたりか。ローリング・ストーンズがカヴァーし、その後、1980年の映画『ブルース・ブラザース』でも使用された。バークの「ダウン・イン・ザ・ヴァレー」も有名で、オーティス・レディングがカヴァーして知られる。また、「クライ・トゥ・ミー」は、1987年の映画『ダーティー・ダンシング』でも使われた。このサントラ(実際は2枚サントラが出て、2枚目のサントラに収録)は400万枚も売れた。気づかないうちに、意外とあちこちで使われ、耳になじんでいるのだ。同年、ソロモンは映画『ザ・ビッグ・イージー』に端役で出演。

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大きな転機は2001年。ソロモン・バークは、「ロックンロール・ホール・オブ・フェーム(ロック殿堂)」入り。再度大きな注目を集めるようになる。そして決定的になるのが、2002年にリリースされた白人のソウル、R&B好きジョー・ヘンリーのプロデュースによるカンバック・アルバム『ドント・ギヴ・アップ・オン・ミー』のリリースである。

ジョー・ヘンリーのコネクションとアイデアで、ボブ・ディラン、ブライアン・ウィルソン、エルヴィス・コステロ、トム・ウェイツなどの白人シンガーソングライターの作品をモダンなサウンドでソロモンに歌わせ、白人マーケットを中心に大きな支持を集め、見事ソロモンが蘇った。それだけでなく、なんとこのアルバムは翌年グラミー賞「ベスト・コンテンポラリー・ブルーズ・アルバム」を受賞。完全にソロモン・バークは旬のアーティストとなった。

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さらに、2004年、マーティン・スコセシーが監督した音楽映画『ライトニング・イン・ア・ボトル』に出演。ここで威風堂々のパフォーマンスを見せ、印象付けた。これは本当にインパクトがあった。僕もスクリーンを見ていて、思わず、「オオッ、ソロモン!」とうなったほど。

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このほかにショット的に、イタリアのシンガー、ズッケロとのデュエット録音、ライヴ(2004年)、ゴスペル・グループ、ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマのアルバム『ゴー・テル・イット・ザ・マウンテン』に「アイ・プレイ・オン・クリスマス」を提供、これもグラミー賞「ベスト・トラディショナル・ゴスペル・アルバム」を受賞。2006年、カントリー・アルバムを発表。その後もコンスタントにアルバムをリリース。2010年に出た最新盤『ナッシングス・インポッシブル』は、故ウィリー・ミッチェルプロデュース作で話題になっている。

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ソロモン・バークは、ライヴを見てもわかるように、南部ソウル・アーティストとして捉えがちだが、南部のソウルだけでなく、カントリー、ゴスペル、ブルーズ、その他のポップ・ミュージックも歌う。このあたりの姿勢が、レイ・チャールズなどとも通じる。

ここ10年をこうして振り返ってみると、キング・ソロモン、現役アーティストばりばりの活躍ぶりだ。まさにキングス・ロードを歩き、着々と見事な復活劇を演じている。キング・ソロモンは、日本の後、7月にはヨーロッパ・ツアーが控えている。ぜひとも再来日を望みたい。

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