そらねこカフェ・店主ゆぎえみ・そらねこ会ブログ

そらねこ会は、『今ある命を大切に、不幸な命は増やさない』をコンセプトに活動している猫ボランティアチームです。


日々の思いを書いてます。


テーマ:





私が毎日とおるその道に、おばあさんの家がありました。


おばあさんは、縁側に腰をおろして、青い空に浮かんだ昼間の月を見ていました。

のんびりしたその姿の先には、いつでも季節の草花が咲いていました。



ある日、暗くなってからその道をとおりました。

おばあさんの庭をのぞいたら、やっぱり空を見ていました。

その日はきれいな満月でした。

「こんばんは」

はじめて声をかけました。

「こんばんは」

おばあさんは言いました。

そしてにっこり笑うと、私を手招きしています。

「お月見はふたりのほうがいいもんだ」

私はおばあさんの隣に腰をおろしました。

おばあさんは膝に、耳の垂れた黒いうさぎを抱いていました。


「うさぎがまだ、月に帰るのをいやだと言うんだ、困ったもんだ」

おばあさんは、ぽんっとうさぎの頭に手を置いてから、背中をゆっくりなでました。


おばさんの乾いた手は、とても優しく感じました。



仕事が休みの日、私はおばあさんの庭に行くようになりました。 


おばあさんと話をしたり、うさぎに葉っぱをあげたりすることが楽しかったのです。


おばあさんのうさぎは、くわの葉っぱが大好きでした。


おばあさんと私は、畑のすみに生えているくわの葉っぱをつみました。


紫のくわの実はつぶさないようにそっと取ります。

「つぶすと指も服にも紫の汁がとぶよ。なかなか落ちないから気をつけな」

そう言って、くわの実のジャムを作ってくれるのです。



くわの実のジャムは甘くてすっぱい味でした。

私は縁側に腰掛けて、くわの実のジャムを食べました。

おばあさんは一口だけ、あとは全部私が食べるのです。

「おいしいな、おいしいね」

うさぎはくわの葉を食べています。

おばあさんは、にこにこしながら、私とうさぎを見ていました。




おばあさんはずっと一人で暮らしているようでした。

「結婚はしなかったの?」私が聞くと少しの間だまって空を見ていました。


「夫と娘がいたんだよ。みんなに先立たれてしまってね、うさぎだけが残ったの。うさぎはまだまだここにいたい。月に帰るのが嫌だと言うんだよ」


「うさぎはここが好きなんだね」私が言うと、少し困った顔を作って、おばあさんは言いました。



「私があんまり泣くものだから、うさぎは帰り時をはずしてしまったようなんだ」

それでもうさぎは、おばあさんの膝であまえています。

ぴょんと跳ねて膝から落ちそうになって、おばあさんをあわてさせました。


「こらこらあぶない、はなれちゃだめだ」おばあさんは、うさぎを優しく抱いて庭をゆっくり歩いてから、また縁側に腰をおろしました。


「あの子らは、どこへ行ってしまったんだろね。月になったのか、星になったのか、花になったのか、草になったのか。どんな姿になってもね、私が見間違うはずはない。風になっても、季節になっても私にわからないわけがない。だけどもあの人も、あの子も見つからなかった」

そしてまた空を見上げるのです。




雲が月を隠した夜のことでした。


いつになくおばあさんは元気がなく見えました。

私はわざとはしゃいで、桑の実のジャムの作り方を聞きました。


桑の葉のハーブティーの作り方も教えてもらいました。


今日のおばあさんは笑わずに、時々空を見上げては月の出るのを待っていました。


「もうここにいないなら、私が会いにいくだけだ」


おばあさんがつぶやいたその時、雲が切れて月が顔を出しました。

大きく明るい満月でした。



月の明かりは青みを持って、庭一面を照らしました。

夜の風にひらひら揺れる小さい物が見えました。

「あれはミイだ。ミイは、娘が拾ってきた猫なんだよ。ひらひらしたものが大好きだった。ミイが死んでしまった時に、娘と一緒にお墓を作ってね、むぎなでしこの花を植えたんだよ。そうか、あの花は毎年咲いてくれていたんだね。気づかなくて悪かったね」

おばあさんは、私にうさぎを抱かせると庭に出て、むぎなでしこのそばにしゃがみました。

おばあさんの背中に見え隠れする白い花は、本当に子猫のようでした。

私に抱かれたうさぎは退屈そうで、けれどもおとなしくしていました。

黒い毛が光って夜でもはっきり見えました。

おばあさんは長いこと庭の花を見ていましたが、すくっと立ち上がると月を見ました。

月に照らされたおばあさんは、とても満足しているようで、とても綺麗に見えました。




おばあさんと会えたのは、その夜が最後になりました。

それからしばらくして、体調をくずし、おばあさんは静かに天国へと旅立ちました。

お葬式が終わり落ち着いたころ、私はおばあさんの庭をのぞいてみました。

おばあさんの座っていた縁側は閉まっていて誰もいません。そこはまるで違った庭のようでした。


急いでうさぎの小屋を覗くと、うさぎは小屋の中で丸まっていました。

私がそっと手を出すと鼻をひくひくさせました。



おばあさんの身内の方にお願いして、私はおばあさんのうさぎをもらえることになりました。

私はうさぎを抱いて、自分の家へ帰りました。

それからというもの、私はうさぎといつも一緒です。  

恋人とけんかした時は泣きながら、うさぎと一緒に月を見ました。

月の光に照らされて、うさぎはぴょんぴょんはねました。



結婚して子供が生まれました。

夫に良く似た娘です。

私の小さな娘は、泣き虫でした。

うさぎの小屋の前で泣いていました。

うさぎは少し退屈そうに私の娘をながめてから、ぴょんとはねて見せるのです。

娘は泣き止んで、ころころころころ笑いました。



娘は学校に行かない時期がありましたが、うさぎの水だけは毎日綺麗なものと変えてくれましたから、私はそれでいいと思いました。

私がうさぎのためにくわの葉をつみに行った時、娘が言いました。

「やわらかい、きれいな葉っぱをたくさんつもう。うさぎさんが、ずっとここにいてくれるようにね」

私はくわの実でジャムを作り娘に食べさせました。

夫は時々、うさぎの小屋を丈夫なものに作り変えてくれました。

私は夫にとても感謝して、くわの葉で作ったハーブティーをいれました。



娘は大人なり、結婚して家を出ました。

私は夫と二人で暮らしていました。もちろんうさぎも一緒です。

月のきれいな夜はうさぎと一緒に月を見ました。

月に映る影のような黒いうさぎは、ぴょんとはねては月を見ます。



夫が亡くなり、今、私は一人で暮らしています。

いいえ、ひとり暮らしじゃありません。

私はうさぎと暮らしています。

それでも時々寂しくなって、優しかった夫の姿を探すことがあります。

それぞれの季節の中に夫はいました。



芽吹の林に、夏の木陰に、秋祭りの人ごみの中に。


積もった雪を太陽が照らしてキラキラしているまぶしさの中にも、私の夫の姿がありました。

どさりと落ちた枝の雪に驚いて振り返ると、いたずらに笑う夫の顔が見えたこともありました。



私の人生はとても平凡でしたが、とても幸せでした。

「やわらかい、きれいな葉っぱをたくさんつもう。うさぎさんが、ずっとここにいてくれるようにね」

子供の言葉が思い出されます。

その時ふいにうさぎが動いてそちらを向くと、白い花が揺れていました。

むぎなでしこの花でした。

夜風にひらひらと揺れる花は、子猫のしっぽのようで、モンシロチョウのようで、春の牡丹雪のようでした。



うさぎうさぎ、何見てはねる

十五夜お月さま見て跳ねる



今夜は満月です。

うさぎは私の膝の上で眠っています。

「そろそろお月さまに帰りたいのかな?」

私はうさぎに聞きました。

だけどうさぎはしらんぷりするように、膝の上で眠っています。

私は私のうさぎを撫でながら「困ったもんだ」とつぶやきました。

だけど少し嬉しかったのです。


もう少しだけこうしていましょう。


私と、お月見をしませんか?



月のうさぎが一緒です。




AD
いいね!した人  |  コメント(3)  |  リブログ(0)

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。