少し遅ればせながら、桜の話です。
咲く前から、いつ咲くのかと、人々をやきもきさせ、
気がつくと満開になっていて、
あっというまに散っていってしまう。
桜は、古来から日本人に愛されてやまない、
不思議な魅力を持った植物です。
古典文の中で、単に「花」といえば、桜のことをさすというくらい、
日本人に親しまれた花でもあります。
われわれに身近なところでは、100円玉のデザインに桜が使われています。
この桜、眺めていると、あまりの美しさに、かえって不安になることがあります。
なぜでしょうか。
よく、美しい桜の木の下には、死体が埋まっているとか、
桜は人骨を肥料にしたときが一番美しく咲くとか、
そんな話を聞くことがあるのも、桜に対して人が感じる、
恐れのようなものを表しているのかもしれません。
小説家の坂口安吾は、「桜の森の満開の下で」において、
満開の桜の森の、息を呑む美しさと不気味さを、見事に描いています。
主人公の盗賊は、美しい貴族の女を気に入り、誘拐しますが、
女が実は内に秘めていた果てしない狂気に次第に巻き込まれ、
ある日、桜の森の満開の下で、凶行に及ぶのです。
桜からは、美しさとともに、強く「死」というものを
連想させます。
年に一度、死について、無意識にでも感じさせる桜だからこそ、
日本人は愛してやまないのかもしれません。
さて、今年の桜も、あらかた散っていってしまいました。
桜の木々からは、若々しい緑色の葉が生えてきています。
これらの新緑が濃く色づきはじめ、そして空の淡い青さが
次第に群青色に近づき始めるころ、
生命が色濃く輝く夏が到来します。