こんにちは、備え・防災の専門家を志す、今はただのパパリーマン高荷です。

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原発事故以来、ブログのコメント欄やメッセージ、ツイッターなどを通じて、いろいろな質問を頂くようになっております。これまでは個別にご返信させていただいておりましたが、どうせならば多くの方に内容を知っていただいた方が有益と思い、まとめて公開することに致しました。

※繰り返しとなり恐縮ですが、当方原発関係者や放射線の専門家ではなく、ただのサラリーマンです。そのためお答えできる質問は、あくまでも専門的な知識、医学的な知識が伴わない範囲の事柄に限定をさせていただきます。情報のご活用も、ご自身の判断で行ってください。

※本業はサラリーマンであり、また家では子どもが遊んで遊んでと寄ってくる状態ですので、お返事に時間を頂くことがある旨、ご承知くださいませ。




■放射性物質、放射能、放射線に関するQ&A

Q.放射線のイメージが浮かばないのですが、インフルエンザのウイルスや、花粉みたいなイメージで、ふわふわ空中に飛んでいる、そんな感じなのでしょうか?
原発事故の際に人体に悪影響を与えるのが、ご質問の「放射線」です。ただ、原子力発電所からまき散らされるのは、この「放射線」自体ではなく、「放射性物質」と呼ばれるものです。また報道でよく聞かれる「放射能」、これは放射線を出す能力(強さ)のことです。

適切か分かりませんが、たとえます。原発事故でまき散らされる「放射性物質」、これは「ハチの巣」です。とても危険で、恐ろしく、絶対に近づきたくありません。取り除くには特殊な防護服と、特殊な技術が必要です。ただ、「ハチの巣」そのものは、人間に悪さを与えません(怖いだけ)。

一方人体に悪影響を与える「放射線」、これは「働きバチ」です。「働きバチ」は「ハチの巣」の周りをぶんぶん飛び交い、辺りにあるモノを無差別に攻撃します。1匹に刺された(被曝した)程度なら問題はないですが、大量のハチ(放射線)を浴びると、最悪死にます。

また放射線を出す能力である「放射能」、ちょっとたとえづらいのですが、「ハチの巣の稼働率」のようなモノとお考えください。働きバチがたくさんいるハチの巣は、「放射能が高い」状態にあり、強い攻撃力を持っています。一方ハチは次第に減っていき、最後には全滅してしまいます。この状態は「放射能がない」状態です。


なおご質問にあった「インフルエンザのウイルスや、花粉みたいなイメージで、ふわふわ空中に飛んでいる、そんな感じなのでしょうか?」ですが、これは「放射線」ではなく「放射性物質」のイメージです。

たとえ話ではハチの巣のことです。目に見えない小さなハチの巣が、原発から大量にまき散らされ、ふわふわと空気中を漂い、働きバチをぶんぶん飛ばしながら周囲を攻撃する、こんなイメージになるかと思います。




Q.たとえば、毎時400ミリシーベルトが測定された地点で、放射性物質を体の中に入れてしまった場合、永久に体内から、毎時400ミリシーベルトの放射線を浴び続けることになるのでしょうか?
立っていた場所の放射線量値(質問では400ミリシーベルト)と、そこで体内被曝を起こした際に、体内から浴び続けることになる放射線の強さは、別々に考えます。この辺りは特殊な計算が必要ですので、このQ&Aでは取り扱いません。

前項に続いてたとえます。ある地点に、ハチが400万匹飛んでいました。この強さを400ミリシーベルトとします。しかしハチは飛び回りますので、その場所に400万個のハチの巣が漂っている訳ではありません。

そして呼吸を通じ、運悪く体の中に、10個のハチの巣が入り込んでしまいました。このハチの巣はもう取り出せません。10個のハチの巣、それぞれ稼働率(放射能の強さ)は異なりましたが、併せて5000匹のハチが、体内で飛び回ることになってしまいました。

この場合、体内被曝で受ける放射線の強さは0.0005ミリシーベルトです(厳密には違いますが、まぁたとえ話なので)。つまり、ある地点の放射線の強さと、そこで体内被曝をした場合に、以後受け続ける放射線の強さに、直接的な関係はありません。

もちろん、放射線が強い(ハチが多い)場所には、大量の放射性物質(ハチの巣)が飛んでいますので、こういう場所では外気を取り込まないようにしてください。



Q.さっきから変なにおいがするんだけど、これって放射線?
ちがいます。放射線を、人間が五感で感じることはできません。放射線は、目に見えず、音も出さず、臭いもなく、熱くも寒くもなく、圧力もありません。唯一放射線を検知することができるのは、ガイガーカウンターをはじめとする各種の計測機器だけです。それ故に、報道や、全国のモニタリングポストの値に、注目する必要があります。



■食べ物や水に関するQ&A
Q.屋外で購入したペットボトルや、庭の物置に保管してあったミネラル水を飲む時には、ペットボトルを水洗いしてから飲めば、体内被曝は避けられますか?知人から、「放射性物質から出る放射線は、ペットボトルやダンボールくらい、簡単に透過してしまうから危険だよ」と言われましたが、大丈夫でしょうか?

ペットボトルを保管してあった場所が、原発事故発生時の避難圏外であれば、その行動で問題ありません。

1)体内被曝について
原発の放射能漏れ事故が生じた際、最も気をつけなくてはならないのは、「体内被曝」を避けることです。人体に影響を及ぼす「放射線」は、「放射性物質」から放出されます。体内被曝を避ける際には、この「放射性物質」を体の中に入れないことが重要になります。

ですので、想定のケースで気をつけるべきは、「ペットボトルの外側に付着していた放射性物質」を、水を飲む際に謝って体内に入れないことです。洗い流し、かつコップに移し替えて飲めばまず問題はありません。

またそもそも、放射性物質」は、自然界にも存在しており、私たちは日常のレベルでこの「放射性物質」を体内に取り込んでいます。ですので、お住まいの地域の放射線量値が、この自然放射線より小さい値であれば、ペットボトルを水で洗う必要すらありません。そのペットボトルが、事故を起こした原発の敷地周辺から運ばれてきたのでなければ、大丈夫です。


2)水の放射化について
一方、「放射性物質から出る放射線は、ペットボトルやダンボールくらい、簡単に透過してしまうから危険だよ」これは事実です。ただ、今回の質問に関連して、気にすることは全くありません。

原発事故では、様々な種類の「放射性物質」がまき散らされますが、そこから放出される「放射線」の種類は、「アルファ線」「ベータ線」「ガンマ線」「中性子線」の4つです。このうち、ペットボトルと段ボールを突き抜けることができるのは、「ガンマ線」と「中性子線」の2つだけです。

「中性子線」が水に当たると、「放射性物質」である「トリチウム」が生成されることがあります。しかしこの「中性子線」は、原子炉の内部でなければ(厳密には核分裂が行われなければ)発生しない「放射線」ですので、基本的には無視して大丈夫です。

また、何かの奇跡が起こり、「中性子線」を浴びて「トリチウム」が含まれたペットボトルの水を飲んでしまったとしても、元々「トリチウム」は自然界に多数存在するものですし、飲んだとしても2ヶ月以内に「普通の水」と混ざって対外に排出されますので、人体に影響はありません。

(1)と(2)の理由により、容器に入っている水は、飲んでも大丈夫です。



Q.体内被曝を避ける際に食べ物に気をつけろというのは、放射性物質を食べなければいいと言うことなのか、それとも放射線を浴びた食べ物の細胞が破壊されて、たとえば毒を持つとかそういうイメージなんでしょうか?
前者が正解です。原発からまき散らされた「放射性物質」は、大気中を広く拡散します。この大気中に含まれる「放射性物質」が食物に付着し、それを食べることで体内へ取り込まれると、「体内被曝」を招いてしまいます。これは絶対に避けなくてはなりません。

そのため、避難圏内に外気と触れる形で存在していた食べ物を、そのまま食べることは絶対に避けてください。包装されていた食べ物や、確実な除洗がなされていれば大丈夫です(そのうち、農林水産大臣が、福島県の野菜をテレビの前で食べてくれるはずです)。

また食べ物に放射線を浴びせることは、殺菌や殺虫を目的に、すでに「食品照射」という形で行われております。またこのときに浴びせる「放射線」の強さは、最悪レベルの原発事故で検知される「放射線」とは比較にならない強さです。




■原発事故全般に関するQ&A
Q.なんだかんだいって、もう大丈夫でしょ?
このまま収束すれば、国の原子力政策には大ダメージでしたが、付近の環境汚染と、被曝者の数は最小限(犠牲者を愚弄するものではありません)に留められ、いったん事態は解決に向かいます。が、このまま収束するかどうかが全く未知数です。

国と東京電力は必死の対応を行っておりますが、ここから事態が悪化して、最悪の状態に進まないとは言い切れません。最悪の事態となった場合、その影響範囲と深刻度合いは、過去の災害の比になりません。今後の報道には引き続き注意を払ってください。



Q.原発で爆発事故が起こると、ヒロシマやナガサキみたいになるの?
なりません。「原子爆弾」は、制御をしない「核分裂反応」により、巨大な破壊力を取り出すことを目的にした爆発を行わせますが、原発事故による爆発は、「核燃料が発する熱(普段はこれで発電している)」による、水蒸気爆発などが原因です。

「現磁力発電所」の爆発により、原発の建造物は吹き飛ぶかもしれませんが、その周囲にまで爆発の被害が及ぶことはありません。問題なのは、多くの場合原発は、核兵器よりも多くの放射性廃棄物(いわゆる死の灰)をため込んでおり、爆発でこれがまき散らされることで、広い周囲が放射能汚染されることです。


Q.チェルノブイリみたいにはならないっていうけど、本当?
言葉遊びで返せば、本当です。チェルノブイリ原発と、福島第一原発は、原子炉の構造が異なりますので、そういう意味では「同じ」ことにはなりません。ただここから状況が悪化して、最悪の最悪を極めた場合にも、チェルノブイリ以上の被害にならないかと言えば、それは分かりません。

このまま原子炉と、使用済み核燃料貯蔵プールの冷却に成功し、事態が収束すれば、確かにチェルノブイリ原発事故のような自体にはならずに済みます。ただ、事態が収束しなかった場合、どこまでのエリアが深刻な放射能汚染されるか、これはまだ発表がありません。

それぞれの原子炉に、どのくらいの核燃料が収まっているのかは分かりませんが、電気的な出力で言えば、事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機は、出力100万キロワットでした。チェルノブイリには他に1~3号機の原子炉があり、事故を起こしたのは4号機だけです。

一方、福島第一原発には、46万キロワットの原子炉が1基、約80万キロワットの原子炉が4基、110万キロワットの原子炉が1基、合計6基の原子炉があり、2基は水素爆発、1基は格納容器が破損、1基は火災、残りの2基も電源が無く燃料格納プールの水温が上昇中、と最悪な状態です。

これらの原子炉のうち、1基でも水蒸気爆発を伴う大規模な放射能漏れを起こせば、隣接する他の原子炉での沈静化作業は、さらに難しくなります。すると、最悪の最悪の最悪の事態として、6つの原子炉全ての核燃料がメルトダウン→水蒸気爆発で格納容器を吹き飛ばし(4・5・6号機は燃料プール)、チェルノブイリとは比較にならない規模の放射能汚染が発生。という可能性は現時点では低いモノの、ゼロではありません。

周辺の放射線量値は落ち着きつつあり、今の状況だけで判断すれば、状況は収束しつつあります。が、上記のような可能性がゼロになったとは言い切れず、楽観できるような要素はまだ何一つないのが現状です(福島第二原発側が落ち着いたのは、唯一の良い話)。

今すぐ絶望して、悲観的になりすぎる必要はありませんが、いずれにしても今回の放射能漏れ事故は、まだ終わっていないと言うことを意識して、定期的に報道をチェックすることを忘れないでください。今、現場は地獄の様な状態と思います。現場の技術者の方と作業員の方に心から敬意を表し、どうか、このまま収束することを祈るばかりです。


以上