メグの手作り弁当 | 君と出逢って 知った世界。。。

メグの手作り弁当

メグは東急沿線の短大を卒業、専攻は「家政科」だった。
経理事務担当としての入社条件が「日商・簿記3級」の取得が最低条件として提示されていた。

 入社後は、私のセクションで実務をこなしながら、簿記の知識を習得していった。
この年の6月、日本商工会議所主催:簿記能力検定試験3級を受験し、あっさり合格した。
周囲は、合格などは期待してなくていずれ合格してくれればと私も思ってた。

 そんなメグは昼食に自分で作った弁当を持って来ていた。
メグの部屋でインスタント・コーヒーを飲んだ数日後の朝だった。

 私が自分のロッカーを開けると、一番上の棚にハンカチに包まれた四角い箱らしきものが置いてあった。それが弁当箱であったことは言うまでもない。

 私が、デスクにつくとメグがお茶を運んでくる、「お弁当、ロッカーに入れておきましたからね!」ニコッと笑いかけてきた。

「おー、サンキュー」とっさの返事だった。やっぱメグだよなと納得しつつも不安がよぎった。

ひょっとして同じ弁当を私とメグが?そりゃマズイだろう、バレバレじゃん!

 昼の食事は、社員が集まって食事できる部屋があって、そこで昼食をとるのが通例となっていた。
 設計機材や、現場の機器が保管されている部屋なのだが、厨房があることもあって、一角には応接セットも置かれ昼食時には社員に開放されていた。社員のロッカーもこの部屋に設置されていた。

 つまり、外食にでる社員以外は、みんなその部屋に集まって歓談しながら昼食をとるのです。
ロッカーもこの部屋にあるわけで、弁当を隠して持ち出すのにも無理があって、ひとり自分のデスクで弁当を食べるのもかえって不自然だった。

 午前中の3時間、弁当の事が頭から離れない。後のも先にも弁当の事でこんなに悩んだ事はない。

 いよいよ、お昼。ぞろぞろと社員がその部屋に集結してゆく。

 オフィスとその部屋を繋ぐのは一本の廊下だけ、早めに行って弁当を持って引き返して来る訳にもゆかず、遅めに行けば、かえって皆の視線が集中する。

 覚悟するしかない皆と一緒にぞろぞろと、後はドサクサに紛れてなんとかするっきゃないと思ったんだ。

出前やコンビニ弁当、自前の弁当e.t.c. それぞれの食事がはじまった。

周囲は私が弁当を持っていることを囃し立てた。
「あれ、小山内さん珍しっすね!弁当持参っすか?」
「あれま、愛妻弁当ですか。ハート・マークなんかあったりしちゃって!」

やばいよ!やばいよ!注目集めちゃってるよ。私の笑顔は引きつっていただろう。
それもその筈、入社以来手弁当なんて事は一度も無かったのだ、珍しいなんてもんじゃない、初めてだったのだ。

その時メグはと視線を移せば、彼女はそんな私を見ながら、セセラ笑っているように見えた!
もしやこの弁当は嫌がらせ?い~やそんな事ない!葛藤する。

私は自分の弁当箱を開けず、メグが弁当箱を開けるの待った。
彼女の弁当の中身を確認し、皆の熱い視線を感じつつ、恐る恐る蓋を開けて覗き込んだ。

おおお、お見事でした!
メグの弁当の中身とは、まったくの別物がキレイに詰まっていた。
息を呑んだ。同時に緊張がほぐれた瞬間だった。

 よくよく見れば、私の弁当とメグの弁当の中身、素材は同じだったんです。
そんな事ほかの皆は気にしない、とうぜんである。メグはと言えば弁当をほうばり、ほくそえんでいた。
しかし、反面さすが「家政科」と納得してた。

 皆の興味は蓋を開けるまで、その後はいつのもお昼休みに戻っていた。

食事が終わり、洗い物をしてるメグに「ご馳走さん!まったく冷や冷やもんだぜ!」と弁当箱をその場でそっと返した。

「面白しかった!」舌をペロっと出したメグのおつむを、コツンと小突いた。

 この年の9月、この会社を私が退職するまで、メグはそんな弁当を、私のために作り続けたのです。