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すまない。男がそう言いたそうな顔をしているようにみえた。男は何も言わず、黒字の生地でできた布を、あいの両目に覆った。
「これから幾つか質問をするので、速やかに答えてほしい。時間はあまり残されていない」
何かに追われているような、何かを恐れているような、自分の意思とは別の力が見え隠れするような、焦った口調で、それでいて正確なメッセージだとあいは思った。
「はい、わかりました」
「自分が何故こういう立場にあるか、思い当たる事はありますか?」
「いいえ、ありません」
「あなたは自分の性格を客観的に分析したことはありますか?」
「……無いと思います」
そう答えると、カチッカチッという機械音が鳴り出した。そのときにそれが何なのかは、目隠しをされているあいには知る術が無かった。
「あなたはこれからどうなると思いますか」
「……すみません。質問の意味がわかりません」
男は何も言わず、次の質問を続けた。
「猫を飼われていますね」
「はい」
「お名前は何ですか?」
「あいです」
「違います。猫の名前を聞いています」
「猫です」
男は一瞬、考えたがあいの言っている言葉の意味を理解した。
「猫という動物に猫という名前をつけたんですね。それは何故ですか?」
「猫自身は、自分の名前を認識していないと思うからです」
あいは半分本当で半分嘘のような答えを言った。
「有名人の急死をどう思いますか?」
「例えば誰のことでしょうか?」
あいは質問を仕返した。
「あなたに質問する権利は今ありません」
信号が赤から青に変わり、交差点の先頭で停車している車が発進する。そのくらいの間が空いた。
「他人の死に特別な意見はありません」
「自分が死ぬとわかった場合、どう思いますか」
「不安な気持ちになると思います」
カチカチカチと機械音のテンポが速くなった気がしたが、あいの心拍数は安定していった。
「どころで今あなたは不安ですか」
「……不安です」
あいは不安な気持ちをそのとき持っていなかったが、そう答えるのが一番良いと何故か思った。
「あなたの猫は先ほど私が殺しました」
あいはその理由を聞こうとしたが、私が質問するのは駄目だと思い出した。
「それは悲しいことです」
「これからあなたはその猫と同じ死に方をすることになりますが、どうされると思いますか?」
「えっ」
男が少し遠くへ歩く足音が聞こえた。数メートル先で止まり、再び元の立居地に戻ってきた。
「これからあなたはその猫と同じ死に方をすることになりますが、どうされると思いますか?」
男は同じ質問を繰り返した。
「先から聞こえる何かのカウント音。きっと爆弾で爆発されるのではないでしょうか」
少しの沈黙があった。あいには、男のため息がかすこに聞こえた気がした。
「質問は以上です。一つだけあなたからも質問を受け付けます。慎重に考えて下さい」
あいは即答した。
「質問は特にありません。思ったことを少しだけ述べます。死ぬはずだった自分を救ってくれた命の恩人であるあなたが、再びこうして私の命を奪うことに少なからずの戸惑いがありました。今はもうその気持ちは落ち着いていると思います。きっと私から見て正面、あなたから見た後方に、この光景を遠方で観察できる小型カメラか何かがあると思いますので、私のこの発言がプラスに働くかマイナスに働くかはわかりかねますが、あなたは何かの圧に怯えている。私にはそう感じる。以上です」
男の足音は次第に遠くなり、玄関のほうからドアを施錠する音が聞こえた。ほどなくして、カチカチという音にピーピーという警戒音が重なった。何かわからないが、自分の予想があっているのなら、間もなく爆発するのだろう。
「さようなら、市川さん」






