
恐ろしいほどの才能を持つ
新人監督が誕生した。
この映画は、監督のジョナサン・カウエットが辿ってきた31年間の人生の軌跡――母の愛情と精神病の板挟みに合い、ゲイであるというセクシャリティな問題と、自らをも蝕む “離人症” という病、アメリカの家族のあり方を強烈に描き出している。 それを可能にしたのは、ジョナサンが幼い頃よりとり溜めた膨大なデータの数々。 家族の記念写真から留守番電話のメッセージ、ビデオ日記や11歳から撮り始めた自主短編映画、80年代ポップカルチャーの映像や切り抜きなど、蓄積してきたデータを映画として再編集し、自分と家族の問題を全て曝け出した、痛々しいほど私的なドキュメンタリーなのだ。 母親への愛情が少しクドすぎるような気もするが、彼の生活環境を考えると、それも致し方ないなぁという感じ。
この映画の完成は、彼が 『ヘドヴィグ・アンド・アングリーインチ』 のジョン・キャメロン・ミッチェルの新作映画のオーディションを受けた際、編集中の作品の一部を渡したことから始まる。 彼に才能を感じたミッチェルは、その作品を完成させるよう助言。 また、ミッチェルからこれを見せられたガス・ヴァン・サントも彼の才能に魅せられ、ふたりしてプロデューサーとして後押しするという、すばらしい環境でデビュー作を手がけることができたというから、何とも羨ましい。
しかし、驚くべきは、この映画の制作方法。 元々、ボーイフレンドが持っていた mac に入っている i-movie のみでオリジナル・バージョンを編集したというのだからすごい。 その制作費、たった218ドル。 その後、サンダンスに出品するために、ミッチェルらの協力を得た最終バージョンを完成させる前の数字ではあるが、個人の家庭用ツールでここまでできるようになったという、手軽な新テクノロジーの約束を証明してみせた。
何度も言うが、これはデビュー作である。 デビュー作だからこそ、ここまで新しいことができたのかもしれない。 しかし、そこに彼の比類なき才能と苦痛を充分に感じることができた。 今後を大いに期待すると同時に、その期待が大きすぎるあまり、次回作に一抹の不安を覚えてしまうのは否めないが。
公開は8月とのこと。
『ターネーション』公式HP