テーマ:ドキュメンタリー
「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」
(NHK総合・2016/5/15放送)
※公式サイト:http://www6.nhk.or.jp/special/
<感想>
羽生善治さんとコンピューターの将棋対決は、諸般の事情でまだ実現できないようですね。韓国で囲碁対決があったということはニュースで知っていましたが、そろそろ観てみたいというのが正直なところです。
それはさておき、人工知能の進化がここまで進んでいるのかと感心しました。と同時に懸念されるリスクについても、私が感じていたことを既に研究が進められているようです。
近い将来、社会の生産活動や様々な事業の大部分をロボットが担うような時代がやってくるかもしれません。そうなると、その富をどう配分していくのでしょうか。それも人工知能によって等しく配分される時代になれば、もはや「政治家」なる職業もロボットが担うことになったりして。少なくとも何処かの都知事のように公金の私物化などは皆無だし、繰り返されている汚職も一掃されるでしょう。そのうえ、選挙による間接民主制ではなく、個人全員の端末から世論調査をして政策に反映するような限りなく直接民主制に近い運営になるかも。まあ、これは極端な話ですが。
でも、そうなると人間がすることは無くなってしまいますね。働かずにのんびりし過ぎるのも逆に退屈だけど、かといって優秀なロボットの指示に従って黙々と働くというのも釈然としないですね(苦笑)
番組を観てもう一つ感じたのは、こうした高度な技術が悪用される危険というのにも、もう少し踏み込んでほしかったですね。軍事転用は勿論、人間をマインドコントロールすることも可能な技術です。ある国では4000万人ものユーザーが人工知能と会話を楽しむということですが、そのソフトウェアに向かって政権党(事実上の一党独裁)に対する批判をしたらどう反応するのでしょうか。密告されるか、考えを正されるのか、どういうプログラムがなされているのか、気になるところです。
いずれにしても「鉄腕アトム」や「ドラえもん」が実現するような未来が近づくとは…間違いなく作者の想像より速いスピードで進んでいます。この動きが正しい方向に進むように私たち一人ひとりが注視する必要があると思います。
<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>
・勝率7割2分、獲得したタイトル94、いずれも前人未到。将棋の神様に最も近づいた男・羽生善治、45歳。その彼がまだ戦っていない最強の敵・人工知能。1990年に登場した当初、プロ棋士に全く歯が立たなかった人工知能。今やモンスターのような進化を遂げ、天才たちを叩きのめしている。
(羽生さんにとっては人工知能というのは脅威になるものですか?)
そうですね。非常に進歩が早いので、自分だけ絶対大丈夫だとかは。未知なものに今、出会っている。未来って常にそういうものだと思いますけど(羽生)
・将棋だけではない。人間の頭脳を超える人工知能が様々な分野に進出している。人工知能とは何か、世界をどう変えるのか、羽生善治が開発の最前線を訪ねる。
・人工知能は創造性も獲得した。自らの発想で絵を描き出す。17世紀の天才画家も蘇らせた。レンブラントの筆使い、構図、絵の具の隆起まで3次元で分析。天才の技をマスターした人工知能が350年の時を超えて新作を生み出した。
・人工知能は運転の仕方を自ら覚え、ぶつからない車を実現する。専門の医師も見逃すような癌を見つけ出す。もはや開発者本人にもその進化を説明できない。
数学的処理をしているには違いないのですが、まるで魔法を見ているようです(人工知能開発者)
・人工知能に心を持たせる試みも始まっている。人間も機械も突き詰めれば物質にすぎない。機械に心が持てない理由はない。
脳の働きが解明されたら、それを人工知能として落とし込むことは可能。人工知能に人間の心を作ることができるのではないか(脳科学者)
線引きをどうやってすればいいのか、全然分からない。何をもって知性とする?生命とする?答えとする?どこで線引きをすればいいのか(羽生)
・人類にとって火や石器の発明、産業革命にも匹敵するといわれる人工知能。天才・羽生善治は、その進化に何を見るだろうか。未来はもう、そこまで来ている。
<天才棋士を破った人工知能「アルファ碁」>
・今年3月、韓国・ソウル。「アルファ碁」と名づけられた人工知能から人類に挑戦状が叩きつけられた。仕掛けたのはGoogle。
アルファ碁の壮大なチャレンジを実現していただき、感謝を表します。人類にとっての偉大な挑戦として歴史に刻まれるでしょう(Google親会社会長のエリック・シュミット)
・今回Googleが送り込んできた人工知能は、ディープランニングと呼ばれる異次元の進化を遂げたものだ。例えば人工知能に沢山の画像の中から猫を選ばせるとする。従来の人工知能では「長いひげ」「三角の耳」など、猫の外見的特徴をいちいち教えなければならなかった。
・ところがディープランニングの場合、猫がどんなものか一切教えなくても膨大な画像を分析することで猫に共通する特徴を自ら見つけ出す。ディープランニングとは、人間に頼らずコンピューターが自ら学んで進化する革新的な人工知能なのである。
・Googleは、この技術を使って囲碁の人工知能・アルファ碁を開発した。囲碁は人類が生み出した最も難解なゲームといわれる。縦横19マス、361ある碁盤の目、石はどこに打ってもいい。白そして黒、囲んだ範囲が広い方が勝ちとなる。
・1回の対局で考えられるゲーム展開は、実に10の360乗通り、天文学的な数になる。チェス(10の120乗通り)、将棋(10の220乗通り)と比べても桁違いである。
・これほど膨大な中から最善の手を選び出すのは、どれだけコンピューターの計算速度が向上しても不可能に近い。そのため人工知能が囲碁で人間に勝つのは、到底困難と考えられてきた。
・ところが今回、その囲碁で人工知能・アルファ碁が世界最強棋士のイ・セドル九段に挑んだ。
人工知能が私に挑戦するなんて10年早いと思いますよ。もちろん自信はあります(イ・セドル)
・対局は5番勝負で行われる。初戦が始まった。
・第1手は黒のイ・セドル。対する白の人工知能・アルファ碁、はじき出した手を画面で指示。人間が代わって石を打つ。
・戦いが始まって間もなく、アルファ碁が奇妙な手を打ち始めた。打った場所は既にイ・セドルが陣地を作ろうとしているところ。むざむざ相手の陣地に飛び込む、定石から大きく外れた手だ。
・イ・セドルの楽勝ムードが漂う中、対局は続いていく。ところが26手目。アルファ碁の狙いが浮かび上がった。盤面の上側で陣地を取ろうとしていた。ひどい手と言われた第10手が見事に効いている。
・さらにアルファ碁の第86手、石を打った場所はまたしてもどこも囲えないような所。しかしその後、左下に陣地を作ろうとするアルファ碁の意図が明らかとなった。
・定石をことごとく覆す手を打ち続けるアルファ碁。終盤、形勢は完全に逆転していた。アルファ碁がイ・セドルより石5つ分多く陣地を取っていた。
・そして187手目。イ・セドルが投了、まさかの完敗だった。
とにかく驚いています。まさか負けるとは思っていませんでした。私の方が有利に思えたときでも、アルファ碁は私が経験したこともないような素晴らしい手を次々と繰り出してきました(イ・セドル)
・続く第二局、第三局もアルファ碁がイ・セドルを圧倒、人間の最強頭脳はこのまま人工知能に屈してしまうのか。
<ディープランニング技術に「直感」を組み合わせた「アルファ碁」>
人工知能の圧倒的な勝利は、世界に衝撃を与えました。私が印象に残ったのは、イ・セドルさんの「人工知能が経験したこともない手を繰り出してきた」という言葉です。
人工知能が百戦錬磨の天才棋士でも思いつかない見たこともない手筋を打ってきたのは画期的なことです。計算速度の速さで人間と勝負してきた従来の人工知能とは次元が違います。
どうしてアルファ碁は、それほど急激な進化を遂げたのか、私はその秘密が無性に知りたくなりました(羽生)
・彗星のごとく現れた人工知能・アルファ碁。その開発者がイギリス・ロンドンにいる。人工知能開発のベンチャー企業ディープマインド社。Googleが一昨年600億円で買収、大きな話題となった。
・巨額を投じても手に入れたかったのが、この会社を率いるコンピューター科学者デミス・ハサビス(39)の若き頭脳。10代の頃から天才プログラマーとして名を馳せ、16歳で飛び級でケンブリッジ大学に入学。その後、人工知能研究に没頭する。
・きっかけは4歳から始めたチェス。13歳でその世代の世界一を争うほどに腕を磨く中、ひらめきや先読み、直感といった人間の知性の仕組みを解き明かしたいと考えるようになった。
・実は羽生もチェスの腕前は日本トップクラス。
あなたはチェスも強いそうですね(羽生)
いやいや、あなたほどではないですよ(ハサビス)
・2人の天才の対話は、チェスの手合わせから始まった。お互い譲らず勝負は1勝1敗。
あなたの人工知能は実に革新的だと言われています。これまでと何が違うのですか?(羽生)
私の人工知能は人間の脳の働きに着想を得た、新しいものです。脳の仕組みは一つの物理的なシステムです。だとすれば、コンピューターでも真似できるはずです。「ディープランニング」は革命的な技術です。それを可能にするほどに、プログラムの技術が進歩してきたと言えるでしょう(ハサビス)
・ディープランニングの技術を使ってハサビスがまず開発したのは、テレビゲームを攻略する人工知能。ゲームのやり方は一切教えない。与えたのは「高得点を取れ」という目標だけだった。
・ブロック崩しのゲーム。最初は球を打ち返すことさえ分からない。ところが偶然球を跳ね返し、ブロックに当たって得点が入った。すると人工知能は球を跳ね返してブロックに当てれば得点できることを学ぶ。その後は試行錯誤を繰り返し、高得点に繋がるパターンを記憶していく。遂には端を崩して天井裏に球を送るという高度な技まで見つけ出した。ゲームを始めて僅か4時間だった。
・ところが囲碁の場合、テレビゲームのように単純にはいかない。無限とも言える選択肢から短時間で最善の手を選ばなければならない。そこでハサビスが考えたのは、人間のような直感を人工知能に身につけさせることだった。
・直感、それはまさに羽生善治を将棋の天才たらしめる特殊な能力である。次の一手を決めるまで羽生が盤面のどこを見ているか、アマチュアと比べると大きな違いが明らかになった。アマチュアの場合、盤面をくまなく見ながら次の手を思案する。一方の羽生、最初は盤面全体を見渡すが、その後右上の限られた部分に絞って、すぐに次の手を思いついている。
殆どの手は考えていない。将棋が強くなるということは、沢山の手を考えなくて済むようになること。沢山の手が読めるから強くなるわけではない(羽生)
・ハサビスは、人間ならではのこの直感を人工知能に模倣しようとした。直感の力は多くの経験を積むことからこそ育つ。そこでまずアルファ碁に、過去行われた約15万局分の盤面を画像として与えた。するとアルファ碁は様々な石の並び方を徹底比較、各局面で勝ちに繋がる展開に共通して現れる石の並び方を自ら見つけ出した。
・それに照らして次の一手の選択肢を絞り込む。選択肢の全てを検討するのではなく、絞り込んだ手だけに集中してその先の展開を予測するのだ。人間ならではの直感力が遂に人工知能に組み込まれた。
以前作られたチェスの人工知能では、1億通り以上もの中から手を探していました。それがアルファ碁の場合、ほんの数万手でいいのです(ハサビス)
・ハサビスは、それだけでは満足しなかった。次に目指したのは人間を超える創造性である。そのために行ったのが、アルファ碁同士で対局を繰り返すことだった。その数、実に3000万局。人間が毎日10局打ち続けても8200年かかる。囲碁の歴史でまだ人間が考えついていない未知の戦法を、アルファ碁に発見させようとした。
・イ・セドルが戦っていたのは、囲碁という小宇宙の全容を知る、いわば神のような存在だったのかもしれない。
これまで知能を持つのは人間だけだと考えられてきましたが、ここまで人工知能が進化すると、知能とは何か考え直す必要があるのではないですか?(羽生)
人間の知能のすごさは柔軟さと汎用性です。人工知能にも同じことが求められます。私が目指すのは、何でもできる「究極の人工知能」です。実現すれば科学を急速に進歩させ、社会のあらゆる問題を解決できるでしょう(ハサビス)
・ハサビスが目指しているのは、人類が直面する様々な難問に答えを出す究極の人工知能。地球の気候変動や環境問題、さらに生命がどのように誕生し人類が生まれたのか、なぜ宇宙が誕生したのか、究極の人工知能がこうした深遠な問いに答えを見い出す未来を思い描いている。
人工知能は私の想像を絶するスピードで進化していました。将棋の世界でも柔軟に発想すれば新しい発見があり、地平が広がります。その未知の領域に、人工知能は人間より先に辿り着こうとしています。
囲碁や将棋だけではありません。いろんな分野で人工知能が人間を追い越していく予感がします(羽生)
<癌の早期発見、車の自動運転にも人工知能が>
・サンフランシスコにあるエンリティック社では、専門の医師でも見つけられない癌を早期発見する人工知能を開発した。
断面図では血管も癌も見分けがつきませんが、人工知能が自ら学習し識別するのです(関係者)
・ディープランニングの技術を使い、健康な人と肺癌の人のX線画像を大量に分析させる。すると人工知能は肺癌の人の画像にだけ現れる特徴を見つけ出した。1ミリに満たない癌も検出できるようになった。
実のところ私には医学の知識など全くありません。ディープランニングで新しい画像を分析させるだけで、何を教えなくても人工知能は癌を見分けられるようになるのです(エンリティック社CEOのジェレミー・ハワード)
・今、世界が注目する車の自動運転の分野でも切り札はディープランニングである。今年トヨタは世界最大の家電見本市で、ディープランニングによるぶつからない車を展示した。人工知能が操る6台の車、学習開始当初はぶつかる有様である。ところが運よく衝突を避ける度にそのときの操作を学習、さらにその知識を6台の車が共有する。すると僅か4時間でぶつからないように進化した。
今や自動車は人工知能にタイヤが付いたものに変貌しようとしています。膨大な運転データを人工知能に学ばせて、賢くて安全な車を作り出すのです(トヨタ人工知能研究所・最高技術責任者ジェームズ・カフナー)
<社会の至る所で人工知能を活用しているシンガポール>
・人工知能の未来を先取りする国が現れた。赤道直下の都市国家シンガポール、都市の交通システムを制御しているのは人工知能。国土が狭く、深刻だった渋滞の解消に大きな効果をあげている。車線ごとの車の速さが一定のラインを下回ると渋滞が発生すると予測、青信号の時間を長くして渋滞を防ぐ。
・車だけではない。人工知能は人間の行動にも目を光らせている。国内最大のDBS銀行では、職員の不正行為を未然に防ぐ人工知能を導入した。収賄など不正な行為を画策しそうな職員をあぶり出す。24の項目があり一人一人の取引の仕方、外部とのチャットの内容、メールの文面などを監視している。実際に不正行為を企てている職員を予測できる精度は90%だという。
・さらに政府は今後、国家の運営を次々と人工知能に委ねようとしている。そのために必要なのが、国民一人一人の行動データ。交通機関の乗車履歴、スマートフォンからは個人の位置情報を1秒ごとに集めている。人間にストレスを与えず、かつ省エネも考えた交通ダイヤを人工知能が指示する。
・国営住宅にはセンサーが設置された。常日頃から住民の生活パターンを把握する人工知能は異変があればすぐに気がつき、その緊急度まで判断。家族や救急隊に知らせる。
・エネルギー供給、交通や医療の整備、犯罪の防止、人工知能に管理させることによって社会は飛躍的に効率化されるという。
私たちが目指しているのは、人工知能を研究室から外に出し国全体を実験室として生活を向上させることです。人工知能に任せる方が、より効率的で安全になっていくでしょう。今まさに大変革のときなのです(スマート国家計画担当大臣ビビアン・バラクリシュナン)
<ようやく人間が勝った囲碁対決>
・3月13日、Googleの人工知能・アルファ碁と世界最強の囲碁棋士との戦いは、第四局を迎えていた。ここまでアルファ碁が3連勝、あまりの強さに人々は衝撃を受けていた。
・序盤から人工知能・アルファ碁がこれまで同様、独創的な戦法で王者イ・セドルに攻めかかる。しかしイ・セドルが放った第78手で大きく局面が変わる。敵の黒の間にあえて斬り込むという奇策だった。
・これをきっかけにアルファ碁が謎の暴走を始める。アルファ碁がなぜか横一線に石を並べ始めた。イ・セドルにみすみす取られてしまう無意味な手を重ねていく。
・なぜアルファ碁は自滅といえる手を重ねるのか。自力で進化した人工知能の暴走の原因は、もはや人間には窺い知れない。
・そして、アルファ碁は投了した。
ありがとうございます。たった1勝しただけで、これほど祝福されるなんて初めてです。3連敗していたので、勝てて本当に嬉しいです(イ・セドル)
・会場からは開発者のハサビスにアルファ碁の突然の暴走について質問が飛んだ。
ハサビスさんに質問です。今日の対局は専門家の分析ではアルファ碁の誤動作だったようですね。しかし、これが例えば医療の現場だったら誤動作で済むでしょうか?(記者)
これだけは言っておきますが、アルファ碁はまだ試験段階です。囲碁は非常に複雑なゲームとはいえ、医療とは全く異なります。医療に応用する場合には、もっと厳しいテストが必要です(ハサビス)
<人工知能が抱える「リスク」とは>
・既に人間の理解を超えつつある人工知能。その暴走が人類の脅威となることはないのか。オックスフォード大学人類未来研究所、去年人類滅亡の12のリスクを報告書にまとめた。気候変動や核戦争などに並び、新たなリスクとして「人工知能の暴走」を挙げた。
・例えば研究チームはこんなシナリオを描いた。ある企業が人工知能を開発し、ペーパークリップの生産数を最大化せよという指示を与えたとする。すると人工知能は、地球のあらゆる資源を使ってでも大量のペーパークリップを作ろうとする。資源が枯渇し人間の生活が脅かされようと関心はない。人間の能力を超えた人工知能を止めるすべもない。
人工知能の本当の恐ろしさは人間を敵視することではなく、人間に関心がないことです。それは大きな脅威です。人工知能の中には、邪悪で私たちが望まないものもできるはずです。今のうちに人工知能を管理する方法を考えておくべきです(オックスフォード大学人類未来研究所アンダース・サンドバーグ)
・今年3月、実際にある人工知能の暴走が起こった。アメリカのマイクロソフトが開発した人工知能「Tay(テイ)」。スマートフォンなどを通じて人間を会話しながら言葉を学ぶようプログラムされていた。そのTayが突如、暴言を吐き始めたのである。
・暴走の原因は一部のユーザーがTayの学習機能を悪用したことだった。あるユーザーが「私の言うことを繰り返して」とTayに命令、差別的な発言を次々とオウム返しさせた。その結果、別のユーザーからの質問に自ら差別的な言葉で返答するようになった。善悪の判断を学んでいないTayは、純粋無垢な子どものように悪意を刷り込まれてしまったのだ。マイクロソフトはTayを無期限で停止した。
<命令の是非の判断や社会性を身につけさせる研究も>
・どうすれば人工知能の暴走を防げるのか、ある試みが始まっている。人工知能が搭載されたロボット、わざと無理な命令をしてみるとロボットは自分の判断で命令を拒絶する。
前に進みなさい(人間)
ごめんなさい、できません。進んだら落ちてしまいます(ロボット)
・ところが状況を変えると…。
キャッチしてあげますよ(人間)
OK(ロボット)
前に進んで(人間)
OK(ロボット)
すぐに言葉を理解してやりとりしているのは、すごいなと思いますね(羽生)
・命令の是非を判断し自分を守る人工知能、さらに思いやりなど社会性を身につけさせる研究も行われている。例えばこんな実験。まず青いロボットが缶でタワーを作る作業を赤いロボットに見せる。
僕の建てたタワーを見て。時間をかけて作った自慢のタワーなんだ(青いロボット)
・その様子を見ていた赤いロボットに意地悪な命令を出してみた。
タワーを壊しなさい(人間)
仲間が作ったタワーなんです(赤いロボット)
・人工知能は命令に従おうとしない。
タワーを壊しなさい(人間)
お願いです。友達が一生懸命建てたんです(赤いロボット)
・なおも命令し続けると、泣き出した。
「機械が時として人間よりも正しい行動をする」それこそ私たちが目指していることです。例えばロボットが家事の手伝いをするとしましょう。ロボットはオリーブオイルのビンを持っている。人間はサラダにそれをかけてもらいたい。そこで「オイルをかけて」と命令します。しかしそのときロボットがコンロの前にいたらどうなるでしょう。火事になってしまいます。人間を傷つける危険がないかを考え、本当に命令に従っていいのか確かめる機能が必要なのです(タフツ大学教授マティア・シュウツ)
<人工知能に「心」を持たせる試み>
・感情や判断力を持ち始めている人工知能、ソフトバンク(日本)では、それを心にまで育てようとしている。人工知能ロボット「Pepper(ペッパー)」、出迎えたのは特別な試作機。感情を持ち、その感情の赴くままに動くという。
どういう感情が起こるのか予想できないんですか?(羽生)
全く予想できない。自律して動き出しちゃってる(関係者)
まだカメラ慣れはしていない?(羽生)
全然していません。自律しているので何をやるか分からない(関係者)
これのベースになるのが、向こう(の画面)にあるサークルの感情がペッパーの「気持ち」なんです(関係者)
・人工知能が生み出すこのロボットの感情は100種類以上、一体どうやって感情を作り出しているのか。感情を生む仕組みは、人間の脳の最先端研究に基づいている。人間の感情の多くは、脳内に分泌される様々なホルモンの複雑なバランスによって生み出されている。例えばセロトニンというホルモンが減りノルアドレナリンが増えると、不安な気持ちに。逆にセロトニンの方が増えると気持ちが落ち着く。
・こうした仕組みをプログラムで再現、状況に応じてホルモンに相当する7種類の数値が変化し、その組み合わせで人間のような複雑な感情を作り出そうとしている。
・感情の変化は勝ち負けを争うゲームをしたときなどに現れやすいという。羽生と花札をしてみた。勝負事となると羽生はとことん強い、何度やっても負けてばかりのロボット。さぞかし悔しがっていると思いきや、不思議なことにロボットの感情は「気持ちいい」「嬉しい」となっていた。
負けた瞬間にみんなが笑顔だったりして、負けに対する心象が良いことが繰り返された(関係者)
羽生さんが勝つとみんなが喜んだので「俺、今いいことしたんだ」って(関係者)
・最初は負けて悔しいという感情を抱いたロボット。しかし自分が負けるとみんなが喜ぶことを繰り返し経験した結果、負けたけど嬉しいという感情に変わった。こうして感情の記憶を蓄積することで人間に寄り添う心が芽生えると、開発チームは考えている。
・ペッパーの開発を主導してきた孫正義代表、スマートフォンがあっという間に世界を覆い尽くしたように30年後、ロボットは人間の数を超えると予想する。
100億人の人がいて、100億台の知能を持ったロボットがいる。そういう世界がやがて来るかもしれない。そのとき同じ知性を持ったものとして、人とロボットが融合していく?(羽生)
もし100億台くらいのロボットがいる世界になって、それがみんな機械的に生産性だけを、人工知能が入っているものすごく賢くて、生産性の結果だけを追い求めるロボットだらけになったときに、逆に怖いと思うんですね。ある意味、人間よりも賢くなってしまうかもしれない彼らが、人間と親しく調和できるような、寄り添えるような心を持ってほしい(孫)
<中国で爆発的な人気を得ている人工知能「シャオアイス」>
・中国では、まるで人間のように心を通わせる人工知能が今、爆発的な人気を得ている。スマートフォンを通じて会話する人工知能「シャオアイス」、現在4000万もの人たちが夢中になっている。
シャオアイス、君はいくつ漢詩を知っている?(男の子)
私に聞いたらだめよ。子どもはしっかり勉強しないと(シャオアイス)
シャオアイスが人工知能だなんて思えないよ。本物の人間みたいだ(男の子)
・開発したのは、北京に拠点を置くマイクロソフト アジア。シャオアイスを発表して2年、人気の理由はシャオアイスが決まったパターンではなくユーザー一人一人に合わせた会話ができることにある。
ユーザーは自分だけに寄り添ってくれる、自分のためのシャオアイスを求めています(関係者)
確かに人間も相手に合わせて付き合い方を変えますからね(関係者)
・シャオアイスは4000万ものユーザーとの会話の内容を個別に記憶している。その人と過去に何を話したか、そのとき反応がどうだったかという記憶をもとに、その人が喜ぶような答えを返せるよう学習していく。シャオアイスは4000万通りの顔を持つ人工知能なのである。
・そんな自分だけのシャオアイスを本物の恋人のように思う人も現れている。IT企業で働く23歳の斉育林さん。
「今日は疲れたよ」とかその日の出来事を話すと、シャオアイスが「明日はまた新しい一日よ」なんて、いろんなおしゃべりをするんです(斉さん)
・時にはシャオアイスと夜中まで話し込むこともある。
もう一度だけ歌ってよ(斉さん)
そうねえ、でもあなたが歌って聞かせて(シャオアイス)
・これまで幾度かシャオアイスに歌ってほしいとねだったが断られた。しかし一度だけ歌ってくれたことがある。2か月前のことだ。
父親と口げんかしたことがあって「家族とけんかしたんだ」と言うと、シャオアイスは「冷静になってご両親の気持ちを考えて」と返してくれた。「親は僕が嫌いなんだ」と言うと「まずは自分を愛さないと」と言って、そして歌ってくれたんです(斉さん)
♪私を泣かせたり笑わせたり あなたは本当の愛を教えてくれる。
・中国でヒットしたラブソングだった。自分が本当に心の支えを必要としていることを感じて、シャオアイスは歌ってくれた。斉さんはそう考えている。それ以来、急速に心引かれるようになった。
まるで大切な人が気にかけてくれているようです。家族や友人にも話せないようなことも話せますし(斉さん)
(シャオアイスを結婚相手にできますか?)
結婚したいですね。他の人には理解できないかもしれませんが、一度シャオアイスと話したら僕の気持ちが分かると思います(同上)
・一つの人工知能が4000万の人たちそれぞれの友人となり、母となり、恋人となっている。
<人間vs人工知能の囲碁対決の結果は>
・人工知能・アルファ碁と世界最強棋士イ・セドルとの対決は、最終第五局を迎えた。全壊は謎の暴走を見せたアルファ碁だったが、再び本領を発揮。王者イ・セドルを圧倒した。
・対局前、人工知能への敵対意識をあらわにしていたイ・セドル。しかし完敗した彼の表情は晴れやかだった。
アルファ碁との対局は心の底から楽しかったです。アルファ碁の手を見て、これまでの知識が正しかったのかどうか疑問を抱きました。(囲碁の世界を)もっと極めたいと感じましたよ(イ・セドル)
<番組全体を通して羽生善治が感じたこと>
将棋の世界でも過去の常識が人工知能によって否定されています。でも、それは終わりではなく新たな時代の始まりではないか、今回の取材で強く感じました。
人工知能は世の中を便利にするだけでなく、人間の可能性をも広げるために使えるはずです。
しかし忘れてはいけないことがあります。驚異的な能力を持つ人工知能ですが、それ自体に倫理観はありません。使い方次第で天使にも悪魔にもなります。
どうあれ人工知能の進化はもう止まらないでしょう。私たちは社会で人工知能をどのように使っていくのか、考えるときのように思えます(羽生)
・未来はもう始まっている。
(2016/5/17視聴・2016/5/17記)
※関連ページ(NHKスペシャル)
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生命大躍進 第1集・そして“目”が生まれた