交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 平成24年度「NHK中四国ラジオドラマ脚本コンクール」で佳作を受賞した
『イナナギ』(三井隆)の作品評を掲載します。


*--------------------------------------*
 戦国時代。毛利と尼子の合戦にひとりの百姓・源助(23歳)が、手柄をあげ
て侍に取り立ててもらおうと戦(いくさ)に従軍する。敵の軍勢を兵糧攻めに
するため稲をなぎ払うよう「イナナギ」を命じられる。抵抗する百姓が斬り捨
てられるのを苦渋の思いで見ながらも、これが戦だと納得せざるを得なかった。
やがて仲間とはぐれた源助は野伏に転じ、親玉の羅刹らとともに村を襲うなど
の悪事を重ねていく……。なんとしても生き抜こうとする若者の姿を描いた物
語です。


 時代ものですが、若者が上を目指すどん欲な姿は、いろいろな意味で「さま
よい人」が多い現代とオーバーラップして考えさせられる面があります。この
ドラマのウリといってもいいでしょう。今年ブレイクしたお笑いタレントのス
ギちゃん風に言えば「時代に流されず生き抜いてやったぜぇ、ワイルドだろ~」
の台詞を想像させられました(笑)。


 ストーリー展開にメリハリがあります。当初の侍願望から、意に反しながら
も野伏に転じ、生きるために悪行を重ね、百姓出の遊女(綾女)を絡めて色気
をもたせ、村を守る契約をしておきながら備蓄した米を横取りし、仲間の野伏
や羅刹とも殺し合いになり……二転三転の展開で楽しめます。
 その時代の〝今〟で進行しているので、裏を返していうと〝回想〟がないの
でテンポよく展開しています。回想があると、それまでの流れを一旦脇に置い
て新たに展開するシーンの時代背景や状況などを「どのように知らせるか」と
いう創作上の問題が生じます。安易な手法として用いられるのがナレーション
やモノローグです。台詞やSEを駆使するのが望ましいところですが、時差を
伴った大きな場面転換なのでいすれの手法であっても、脚本を読む人や放送を
聴く人に〝吸収力のリセット〟を強いることには違いありません。回想をなく
すことでそのリスクを回避しており、ひとつの時制を〝今〟として描いた構図
は評価に値します。
 人物像もそれぞれ豊かで「悪の中に見え隠れする善」「善であっても疑わし
い」「善悪より生死」というポリシーを感じます。人間性はどの作品よりも明
確に打ち出されています。そして何よりも原点だった〝百姓の本性〟がクライ
マックスを左右させます。台詞で直接表現されてなくても、全体を通じて「人
として変わっていくものと変わらないもの」というテーマ性が伝わりました。


 もちろん気になるところ(マイナス評価)もあります。


 今回入選となった『紅いハンカチ』が地域性を特に評価されたの考えると、
この作品は「安芸国、毛利と尼子の合戦」と設定はしていますが、実際どの地
方の合戦でも通用する話です。もし仮に「イナナギ」という戦術が中国地方特
有であったり、発祥であったならば、それを織り込んでおけば結果は違ったか
もしれません。しかしながら「その事実はないのでは……」と審査会の議論で
も確信が得られず、結果「イナナギは地域性とはいえず、単に合戦の舞台が安
芸国としているだけ」という指摘もありました。当該コンクールに設定された
〝地域性の壁〟に源助のガムシャラさも阻まれた……といったところでしょう
か。残念です。
 補足ですが……
 仮に「イナナギ=中国地方」の設定を織り込んでも、それが歴史上の事実と
確認できない限り、フィクション(虚構)とは違った意味でウソになります。
「事実認識の誤り・不適切な表現」という解釈です。「もしも毛利元就が女性
だったら」という差し替えの構図による創作意図とは〝ウソの性質が違う〟と
理解してください。


 ストーリーが展開するにつれてモノローグの使用頻度が増えていくのはいた
だけません。特にクライマックスで源助が、仲間だった野伏や羅刹と戦うシー
ンがモノローグ説明になっているのは残念です。台詞とSEを駆使するよう考
えたらスリリングな時代活劇になるでしょう。
*---------------------------------**---------------------------------*


地域性を反映したドラマ創り(平成24年度中四国ラジオドラマ脚本コンクールの結果と総評)

入選『紅いハンカチ』の作品評


AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

坂本 博さんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。