交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 ドラマ脚本のモノローグとナレーションについて、水本爽涼さんから次のよ
うな質問をいただきました。


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水本爽涼さんからの質問 (2011年7月14日記事内)


 坂本さん、お久しぶりです。ひとつ、見解をお訊ねしたいことが出来ました
ので、今日、久々に寄らせて戴きました。といいますのは、いつやら云ってお
られた大山さんの放送された「モモと見た夢」でしたか? 確か。富田靖子さ
んのキャストだったと思うのですが、M(モノローグ)で書かず、会話で表現
して欲しかった・・とかのご見解でしたが、今日の質問は、MとN(ナレーシ
ョン)についてです。


(1) M=人物心理の主体的、N=全体の作品を総じて語る客体的
  との某プロ作家さんのご見解は?


(2) MとN(ナレーション)の違いと、その使い分けへのご見解は?


※これは余談ですが、今年のNHK大河「江」の田淵久美子さんのN(お市役
 の鈴木保奈美さん)ですが、お市死後も鈴木さんが語っておられます。某プ
 ロ作家さん見解によりますと、客体の第三者が語った方がいいということに
 なると思いますが…。失礼の段、田淵さん、平にご容赦を…。
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 質問の冒頭にある見解とは次のものです。


モノローグと台詞の違い (2008年2月17日記事)


 さて……。
 (1) の「M=人物心理の主体的、N=全体の作品を総じて語る客体的」の見
解ですが、脚本用語の定義づけとして異論はありません。同意です。
 要するに台詞が「生の声」であるのに対して、モノローグはその人物自身の
「心の声」で、ナレーションはドラマの流れや状況などを案内する「天の声」
といった感じでしょうか。ドラマでは、それらを(あえて)音声として表現す
る手法です。
 台詞とモノローグはその人物自身の声になります。つまり人物Aが人物Bの
モノローグを語るという設定は考えられません。一方ナレーションは、それだ
けを担当する人物(俳優であったりアナウンサーであったり)を立てますが、
登場人物が兼ねる場合もあります。兼ねる場合、演じる人物として語るか、全
く別人と割り切った位置づけなのか、認識したうえで書き手も演出者も「ナレ
ーションの表現方法」を考える必要があるでしょう。


 次に……。
 (2) の「MとNの違い」ですが、その作家さんが用いた「主体と客体」でい
いと思います。つまり「観点の置き場が違う」ということです。モノローグは、
その人物が自身のことを伝えるわけですから、書くうえでも「一人称で、その
人物のみが知り得る範囲」になります。一方ナレーションは、人物について語
る場合でも「三人称で、あくまでも客観的」に伝える形になります。これを逸
脱すると、観点不明瞭で脚本不成立といわざるをえません。
 それから口調というか、聞く人の受け取りから違いをいえば「台詞はしゃべ
っている」「モノローグはつぶやいている、語っている」「ナレーションは語
っている、読んでいる」といった印象でしょう。また感情移入の面からみても
「台詞 > モノローグ > ナレーション」の順でトーンダウンします。ナレー
ションにいたっては「感情はゼロ」といっていいでしょう。


 最後に……。
 モノローグやナレーションを「どう使い分けるか」ですが、大前提は「台詞
のみのドラマ」が一番望まれます。つまり脚本を書く人には「脱モノローグ、
脱ナレーション」の意気込みをもってもらいたいのが本意です。しかしながら
やむを得ず使用する場合は、以下の点に留意してもらえたらと切望します。


長くしない、多用しない
  使用する場合に一番気をつけてほしいことです。モノローグにしてもナレ
 ーションにしても、長ければ長いほど読み手は退屈します。さらに使用頻度
 が多いほど読む意欲が薄れると認識しておいても、間違いではありません。


モノローグとナレーションを混在させない
  ひとつの作品で「モノローグとナレーションを使用してはいけない」とい
 う決まりはありません。だからといって両方を使う書き手は、往々にして多
 用の傾向を辿るものです。性質的にはどちらも「語り」の類ですから、近い
 タイミングで現れないよう十分注意しましょう。(ドラマが展開していくう
 えで、前にいつ出たか忘れたころに使うようにしましょう)
  「混在させないために」と、たとえば“M(モノローグ)”と記述して一
 本化したとしても、内容がその人物以外のことまで書いていたのでは、それ
 こそ混在のなにものでもありません。モノローグなのに「なぜ他人の心境や
 出来事まで知っているか」という疑問が浮かびます。この時点で(先に述べ
 たように)脚本不成立を感じる要因になります。
  モノローグにしても、複数の人物で使用するのもどうかと思います。人物
 がしゃべる(口を動かす)ことなく言葉が飛び交う様子を想像してください。
 作者のご都合主義としかいわざるをえません。


ラジオドラマにおけるMとN
  モノローグが人物の心理だけを語るかというと、特にラジオドラマではそ
 の人物の行動や、その人物が見聞きするものまで語る場合もあります。延々
 とモノローグが続きます。書き手は「一人称で書いた小説感覚」なのでしょ
 うが、それはラジオドラマではなく「朗読劇」です。ナレーションにしても
 同様です。一人称が三人称に変わっただけです。「脱M、脱N」でないにし
 ても「減M、減N」を目指してほしいものです。


モノローグか、ナレーションかを検討する
  「混在させない」を前提に考えると、作品の構成を考える段階で「モノロ
 ーグにするか、ナレーションにするか」を決めるべきです。ポイントは「何
 を伝えたいか」です。その人物の心境を台詞では表現できない、しかしなん
 としても伝えたいならモノローグになります。ドラマの展開や状況をナビゲ
 ートしたいならナレーションが適切です。


台詞とモノローグの言い回しに注意する
  モノローグを書くときに「その人物の気持ちだから」と、台詞と同じ口調
 で書いていると、それこそ台詞と勘違いされてしまいます。映像系ドラマの
 場合でも、その人物の口元が映った状態で台詞やモノローグが流れるとは限
 りません。どんな言い回し(表現)がモノローグかというと、これといった
 決めごとはありませんが、一般的には「感情を抑えた語り形式」が多いよう
 です。ときには「感情を織り込んだしゃべり口調」のモノローグもあるよう
 ですが、いずれにしても台詞と区別できるよう工夫する必要があるでしょう。


ナレーションか、テロップか
  ほんのひと言のナレーションならば、それに代えてテロップという手法も
 あります。たとえば「日時や場所」「短めの文章」を伝えるくらいなら、テ
 ロップのほうが有効です。


      ※          ※          ※


 余談……。
 創作に限界はありません。脚本(ドラマ)も同じです。モノローグやナレー
ションが使われていても大きな賞を受けている作品もあります。眉をひそめる
くらいの使用頻度でも受賞しています……。おそらくそのリスクを上回る“何
か”があるか、モノローグやナレーション自体を巧く作品に溶け込ませて、逆
に“それ独自の魅力”に変えるくらいになっているのでしょう。


 2007年度中四国ラジオドラマ脚本コンクールで佳作を受賞した『モモと見た
夢』(作・大山淳子)もモノローグ作品です。記事『モノローグと台詞の違い』
(2008年2月17日)でも書いたように“発想のユニークさと構成力”が際だっ
たので評価しました。
 さらに今週土曜日(8月6日)のNHK-FMシアターで放送の『蝶が燃え
た日』(作・柳光博)も、同コンクール2010年度の入選作品です。他審査員の
評価を得ましたが、残念ながら私は評価できませんでした。どのくらいナレー
ションが改訂されたか、そして作品自体として“どれだけ魅惑的”に仕上がっ
たか、放送が楽しみです。その願いを込めて、昨年12月に受賞発表されたとき
の作品評の一部(ナレーションに関する評価部分)を載せておきます。


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◆『蝶が燃えた日』の作品評より一部掲載(坂本 博)


 直哉が遺稿(回顧録)を翻訳する過程が、直哉のナレーションに始まり老人
のナレーションに替わって描かれていますが、原稿用紙で3枚も費やしていま
す。その間、これといった惹きつけあるSE(効果音)もなく、淡々とした語
りにすぎず、これでは聞いていて退屈になりかねません。
 このほかにもナレーションが「直哉と老人の二者」で書かれています。現在
は直哉で原爆当時は老人と分けているのでしょうが、結局ドラマ展開の主導権
が「直哉から老人へ移行した」と受け取れます。これでは主人公である直哉の
存在が薄くなり、直哉は「老人の回顧録を聞くだけ」の受け身な存在になり、
主人公として浮き上がるものが感じられません。
 ラストのナレーションも原稿用紙1枚に及ぶもので、駆け込みで強引にまと
めた印象が残ります。全体を通して「どう書くか」を再検討する必要があるで
しょう。
 これらはナレーションに頼った結果といえます。ナレーションを使うにして
も人物ひとりに限定し、使用頻度を減らして短く語るほうがいいでしょう。
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