交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 ドラマの構成でストーリーの組み立てを勉強したい人は、「こんな組み立て
方もある」という観点で映画『バベル』を観ると参考になるでしょう。同作品
はモロッコ、アメリカ(メキシコ)、日本の三箇所で繰り広げるそれぞれの出
来事、しかも時間(日にち)差のあるものを、時系列を組み替えて見せていま
す。一見「同一時間」あるいは「その展開が時間経過」に思えるが、最後あた
りになると「どの出来事が先にあったか」が分かる組み立てです。
 それぞれの出来事についてモロッコをA群(A1~AX・AZ)、アメリカとメキ
シコをB群(B1~BX)、日本をC群(C0・C1~CX)とした場合、物語内で見せ
ている出来事の時間差は次のように考えられます。


◆モロッコ  A1→A2→A3→ … →AX                (AZ)
◆アメリカ(メキシコ)          B1→B2→B3→ … →BX
◆日  本        (C0)          C1→C2→C3→ … →CX


 これが冒頭の組み立てでは「A2(加害者観点)→B1→A1→A2(被害者観点)→
C1→A3……」と流れていきます。goo映画で『バベル』特集をとりあげたと
きのストーリー紹介が流れ(ストーリー構成)に沿っているので、これに照ら
し合わせてみましょう。


*--------------------------------------*
『バベル』 特集よりストーリー紹介 【goo映画】(★印は坂本の捕捉)

 今、モロッコで放たれた一発の銃弾が、アメリカ、メキシコ、そして日本の
孤独な魂をつなぎあわせる。LISTEN、聴いてほしい。初めて世界に響く魂の声
を……。


★A2の出来事(加害者観点)★
 モロッコの険しい山間の村で暮らすアブドゥラはその朝、知り合いから一挺
のライフルを買った。ライフルは2人の息子、アフメッド(サイード・タルカ
ーニ)とユセフ(ブブケ・アイト・エル・カイド)に手渡される。生活の糧で
あるヤギを襲うジャッカルを撃ち殺すのだ。兄弟には、争いがあった。兄のア
フメッドは弟のユセフが姉の裸を覗くのが許せなかった。さらにアフメッドを
苛立たせたのは、ユセフの射撃の腕前だった。試し撃が全く当たらない兄に代
わって、ユセフは眼下の山道を走るバスを狙い、一発の銃弾を放った。


★A1とA2の出来事(被害者観点)★
 アメリカ人夫婦はその時、ユセフが狙った観光バスに乗っていた。夫のリチ
ャード(ブラッド・ピット)に誘われて気乗りしない旅にやって来たスーザン
(ケイト・ブランシェット)は、揺れる想いを抱えていた。夫婦には、葛藤が
あった。まだ赤ん坊だった3人目の子供が突然亡くなり、その悲しみと罪悪感
に正面から向き合えずにいたのだ。なんとかこの旅で、夫婦の絆を取り戻した
い、そう願うリチャードの隣で、スーザンの体に衝撃が走る。銃弾が彼女の鎖
骨の上を撃ち抜いたのだ。リチャードは血まみれのスーザンを抱え、医者がい
るというガイドの男の村へと走る。


★B1の出来事★
 アメリカに残されたリチャードとスーザンの子供たちにも事件の影響が及ぶ。
兄のマイク(ネイサン・ギャンブル)と、まだ幼い妹のデビー(エル・ファニ
ング)は、メキシコ人の乳母アメリア(アドリアナ・バラッザ)に連れられ、
彼女の甥サンチャゴ(ガエル・ガルシア・ベルナル)が運転する車で、メキシ
コへ向かう。その日は息子の結婚式だと、かねてから子供たちの両親に伝えて
あったが、彼らは戻れない。アメリアには、責任があった。知らない人に預け
るくらいなら、連れて行く方が安全だと思ったのだ。初めて見るメキシコの風
景に目を丸くする子供たちを優しく見守るアメリア。


★C0の事実とC1の出来事★
 捜査の結果、ライフルの書類上の所有者は、日本人の会社員のヤスジロー
(役所広司)だと判明する。ヤスジローには心労があった。最近妻が自殺し、
そのことで警察による事情徴収を受けていた。更に、それが原因でたった一人
の家族である高校生の娘チエコ(菊地凛子)との心の溝が大きくなりつつあっ
た。聾唖(ろうあ)であるチエコは母親の喪失によるショックから立ち直れず、
何かにつけて父親に反抗するのだった。誰かに強く抱きしめられることでしか、
この寂しさを埋められない。チエコはそう感じていたが、障害を持つ彼女には
好意や欲望を伝えるのも簡単なことではなかった。


★A後半の出来事とC0の事実★
 アメリカのメディアはテロだと騒ぐが、モロッコ警察はライフルの流れを突
き止めていた。息子たちに真相を打ち明けられたアブドゥラは、激怒しながら
も2人を連れて山へ逃げる。追いかける警察の発砲、思わず迎え撃つユセフ。


★B後半の出来事★
 息子の結婚式は大成功に終わり、アメリアは再びサンチャゴの運転で子供た
ちと国境へ向かう。ところが、飲酒運転がバレたサンチャゴは国境を突破、ア
メリアと子供たちを砂漠に置き去りにして逃走してしまう。翌朝、灼熱の太陽
に意識が薄れていくデビー。


★C・A(加害者)・B・A(被害者)のクライマックス★
 孤独の縁へと追いやられるチエコ。撃たれた兄を抱いて泣き叫ぶ父を見て、
ライフルを叩き壊すユセフ。子供たちを置いて、汗と涙に濡れながら助けを求
めるアメリア。衰弱していくスーザンと、子供が死んだ時のことを初めて語り
合うリチャード。


 ……見つめたい。抱きしめたい。この想いを伝えたい。世界は、ひとつにな
ろうともがき始めていた。
                          【goo映画より】
               *--------------------------------------*


映画『BABEL(バベル)』 (公式ホームページ)
    アカデミー賞 作曲賞受賞
    ゴールデーングローブ賞 作品賞受賞
    カンヌ国際映画祭 最優秀監督賞受賞


 A2は物語の切っ掛けである銃撃が起こる出来事です。加害者と被害者の両観
点から二度描いています。A1は主人公のアメリカ人夫婦の前提状況を描いたも
のです。そして勇気をもった驚きの展開(構成)といえるのが、この間に見せ
ているB1のアメリカでの出来事です。夫婦の子どもたちと子守りをするメキシ
コ人女性が、モロッコで銃撃を受けた夫(子どもの父親)からの電話を受ける
姿です。つまりその電話は、時間的にいえば銃撃を受けた妻が生死をさまよい、
やっとの思いで病院に担ぎ込まれたあと、とりあえず安堵する夫がかけてきた
ものです。モロッコ側(観点)のシーンはAXで描いています。これも二度伝え
ることで時間経過(組み立て)を明確にする意図でしょう。
 A2(被害者観点)のあと、シーンが突然日本に移ります。時間的には、日本で
の出来事C1~CXも数日のことです。しかしラストあたりのCXで、モロッコで銃
撃を受けたアメリカ人の妻が退院する姿をニュースで報じるシーン(AZ)があ
ります。逆算するとA群やB群のあとに起こったといえるでしょう。
 日本の出来事がどんな関係があるかは、A群の後半にライフルの所有者が日
本人であると判明します。C0です。しかしここではモロッコの出来事として描
いており、写真で日本人男性(ヤスジロー)の姿が見せられるだけです。


 その後も物語は時間差のある三箇所の出来事が並行しているかのように見せ
ながら展開します。確かに、観る側に「どんな繋がりなの」と混乱を招く組み
立てですが、これを時間軸に沿った見せ方をするとオムニバス三話仕立ての印
象になり、「言葉や気持ちが伝わらないジレンマ」というテーマ・メッセージ
は半減するでしょう。
 とにかく時間の概念に囚われず、逆にそれが「全体の繋がりを魅せる」結果
となるユニークなストーリー構成であることに違いないでしょう。

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