交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 真夜中の高速道路を走る一台の車があります。冷えたアスファルトの上を、
どこまでも立ち並ぶ照明灯の明かりに照らされながら走ります。光の輪が消え
たかと思うと、また現れて、その光の輪を貫いて走り続けます。灰色のフェン
スに、流線型ボディの淡い影を置き去りにして、ただひたすら走ります。
 どこから来たのか、どこへ行くのか、それはハンドルを握る一人の女だけが
知っていることです。密室と化した車内に流れる音楽は、彼女の孤独感を程良
く和らげていきます。薄暗い車内に、車窓から差し込む明かりが、これから訪
れる思い出に、ほのかな希望をかりたてます。
「もう少し待っててね。そしたら、あなたの出番よ」
 言葉の矛先は助手席です。そこには高性能のデジタルカメラが置かれていま
す。彼女のイメージを無限大に増幅させてくれる、その入り口とも言える素材
の撮影に大きな力を発揮してくれることでしょう。
 インターチェンジが近づいたことを知らせる案内板に、彼女の視線がそそが
れました。車はウィンカーを出して、左にスーッと車線を変更していきます。
高速道路を降りて一般道を更に走り続けます。暗く静かな山並みの中、ヘッド
ライトに照らされた部分だけがアンバーイエローに輝き、風に揺らぐ木々が幻
想的にうごめいています。
 まだ山の中だというのに、目的地が近づいたのを女は感じたのでしょうか。
ウィンドウを開けて車内に風を取り込みました。冷たい風に混じって、微かに
潮騒の香りが漂っています。そして間もなく、ゆるやかに打ち寄せる波の音が
聞こえてきました。女は、待ち望んだ瞬間に気持ちを高ぶらせながら、さらに
車を走らせます。そして山並みを抜けたときです。夜の海が一面に広がったの
です。深い紺色の中に打ち寄せる波が、月明かりで銀色に反射しています。
「着いたわよ」
 呟いた女は、車を停めました。車内のデジタル時計に視線を落として、やが
て夜が終わるのを確認すると、助手席に置いたデジタルカメラを手にしました。
車を降りて海が一望できる所に足を運んでいきます。
 カメラを構えてしばらくしたときです。オレンジ色に輝く光が水平線の向こ
うに浮かび上がってきました。朝日です。女は、その感性に身を任せ、シャッ
ターを押し続けました。


                             《おわり》

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