交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 知り合いの結婚式に出席した妻を迎えに、近くの駅まで車を走らせた。駅の
ロータリー、改札口が見える位置に車を停め、妻の姿を待った。降り出した雨
にワイパーを反応させ、ハンドルに頬杖をついて改札口をぼんやりと眺めてい
た。
 そういえば十一年前、俺が二十二歳のときだ。今日と同じように、ひとりの
女性を待ちわびた時間がある。あの日も雨で、こうして車の中から改札口を見
つめていた……。あの時は、大好きな彼女に、ボクの誕生日を一緒に祝ってほ
しいと誘ったのだ。彼女は、ちょっと迷ったそぶりだったが結局OKをもらい、
その日は朝からウキウキ三昧で、雨も街灯に照らされて銀色に輝いていた。


 ──どんな服装でやってくるだろうか。ボクの選んだレストランは気に入る
だろうか。これを切っ掛けに盛り上がったら、ボクたちふたり……。


 まるで、ボクが彼女の誕生日を祝うかのような心境だ。
 列車が駅に入ってきた。乗客がホームに降り、改札口へ向かってくる。乗客
の中に彼女の姿を探す。見失わないよう目を凝らし、意識を彼女だけに集中さ
せた。


 ──どこだ彼女は。約束の時間ならこの列車に乗っているはずだけど。


 ひとり、ふたり……改札を抜けた人たちは思い思いに散らばっていく。


 ──彼女が……いない……。


 結局、降り立った乗客の中に彼女の姿はなかった。それから、十五分おきに
列車は到着したが、どの列車からも彼女が降りることはなかった。
 あれから一時間も過ぎただろうか。フロントガラスに打ちつける雨を払いの
けるワイパーだけが、ボクの脳ミソを支配している。ガクンとシートを倒し、
暗い車内でポカンと口を開けていた。雨足は強くなり、なんの望みもなく時間
だけが流れていた。


 突然、車のドアが開いた。
「ゴメン、遅くなっちゃった」
 女の声がした。
「いいんだ、メグちゃん。予約したレストランもまだ間に合うから」
 ボクは弾んだ声で身体を起こした。
 披露宴の引き出物を持った妻の真由美が、隣のシートに座っていた。そして
妻は、眉間にシワを作って小さく咳払いをした。
 俺はとぼけた顔で、カーラジオのスイッチを入れて車を発進させた。カーラ
ジオからは、あの待ちぼうけの日の帰り道に聞いた、同じ曲が流れていた。想
い出を噛みしめ、口の中で歌いながら妻と家路を急いだ。


                             《おわり》

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