交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

*---------《ラジオ脚本》---------*
トオル(17歳)「Aはゼロより大きく、直線Y=2AXをLとした
  とき……」
  SE 母親の三枝子(45歳)、ノックはするがすぐにドアを開  ←(B)
     けて入る。
三枝子「トオルちゃん、ココア入ったわよ(机の上に置く)」    ←(D)
トオル「ありがとう」
三枝子「どう? 頑張ってる?」
トオル「来年の今頃は、ママも喜ぶ結果を出したいから」      ←(F)
三枝子「期待してるわよ。ねえ、この部屋寒くない?」       ←(G)
トオル「少し窓開けてるから」
三枝子「暖房入れたほうがいいんじゃない」
トオル「暖ったかいとすぐ眠くなっちゃうし」
三枝子「でも本当に寒いわよ。閉めましょう」
トオル「いいから、ママ。ボクがあとで閉めるよ」         ←(I)
三枝子「よくないわよ。風邪でもひいたらどうするの」
  SE 三枝子が窓を閉める。                 ←(J)
     部屋にある電話の子機が鳴る。
三枝子「(電話に出て)もしもし……はい、ちょっと待って下さい。 ←(K)
  トオルちゃん、あなたに」
トオル「はい」
三枝子「あまり長電話しちゃダメよ」
  SE と三枝子がドアを閉めて出る。
トオル「もしもし……あ、いいけど……志望大学の提出? んー、
  いくつか絞り込んだけど、第一志望をどこにするかは、まだは
  っきりとは。それにママにも相談してみないと何とも言えない
  し……うん……でもあそこは名門だけど、就職率が年々下がっ
  てるって噂だよ(F・O)」                 ←(O)
三枝子「そうよ……トオルちゃんの将来は、ママがちゃんと決めて
  あげるわ」


  タイトル『ノイズの中のトオル』


*---------《テレビ脚本》---------*
○ 佐山家・表(夜)                      ←(A)
  二階の部屋に明かりが点いている。


○ 同・トオルの部屋(二階)
  トオル(17歳)が机で勉強している。
トオル「Aはゼロより大きく、直線Y=2AXをLとしたとき……」
  母親の三枝子(45歳)、ノックはするがすぐにドアを開けて入
  る。手にはカップを載せたおぼんを持っている。        ←(C)
三枝子「トオルちゃん、ココア入ったわよ(机の上に置く)」
トオル「ありがとう」
三枝子「(覗き込んで)どう? 頑張ってる?」          ←(E)
トオル「来年の今頃は、ママも喜ぶ結果を出したいから」
三枝子「期待してるわよ。ねえ、この部屋寒くない?(と見渡す)」 ←(H)
トオル「少し窓開けてるから」
三枝子「暖房入れたほうがいいんじゃない」
トオル「暖ったかいとすぐ眠くなっちゃうし」
三枝子「でも本当に寒いわよ。閉めましょう」
トオル「いいから、ママ。ボクがあとで閉めるよ」
三枝子「よくないわよ。風邪でもひいたらどうするの」
  三枝子が窓を閉める。
  部屋にある電話の子機が鳴る。
三枝子「(電話に出て)もしもし……はい、ちょっと待って下さい。
  トオルちゃん、あなたに(受話器を差し出す)……あまり長電  ←(L)
  話しちゃダメよ(と渡す)
トオル「(受けとって)はい」
  三枝子がトオルを見ながら後退りで部屋を出ていく。      ←(M)
トオル「もしもし……あ、いいけど……志望大学の提出? んー、
  いくつか絞り込んだけど、第一志望をどこにするかは、まだは
  っきりとは」


○ 同・部屋の外                        ←(N)
  三枝子がドアに耳を当てて聞いている。
トオルの声「それにママにも相談してみないと何とも言えないし…
  …うん……でもあそこは名門だけど、就職率が年々下がってる
  って噂だよ(F・O)」
三枝子「そうよ……トオルちゃんの将来は、ママがちゃんと決めて
  あげるわ」


○ タイトル『ノイズの中のトオル』


*--------《ポイント解説》--------*
(A) ドラマの入りですが、テレビでは映像を使って「どこ:佐山家。二階にあ
  るトオルの部屋」と「時間帯:夜」を伝えます。したがってトオルの台詞
  の前にそれらのシーンとト書きをおきました。
  ラジオでこれを伝えるには、ナレーションかモノローグという考えもあり
  ますが、それは安易な手法といえます。台詞やSE(効果音)を使って、
  流れの中で(展開として)伝えるのが巧いやり方です。【(G)参照】
(B) SE(テレビではト書き)「ノックはするがすぐにドアを開けて入る」は
  三枝子のトオルに対する気持ちの表れを含んでいます。普通なら「ノック
  があり、トオルが返事してドアの開閉」が考えられますが、すぐに開ける
  ことで「トオルの状態に関わらずドアを開ける三枝子。つまりトオルは三
  枝子の支配下にある」を表現しました。
  テレビでも観点(カメラ)は部屋の中にありますから、ノックは「音」で
  伝えるものになります。これに関しては、シーンを部屋の外に切り替えて
  「三枝子が二階に上がってきてノックする姿」を見せるまでもありません。
  ムダなシーンを作らないのも技量を上げるひとつの要素です。
(C) テレビ用に、あとの三枝子の台詞「ココア入ったわよ」を踏まえて、ト書
  きに「手にはカップを載せたおぼんを持っている」を追加しました。
(D) 台詞内にある「机の上に置く」のト書きですが、ラジオでは“コトン”と
  カップを置く音で表現できます。行を替えてSEで書いてないのは、台詞
  内のタイミングを意図するのと、ムダな行を費やさない手法です。
  テレビでは、音よりも動作(カップを置く行為)として受けとれます。
(E) 三枝子に動作をつけました。覗き込むことでトオルへの執着心を表現しま
  した。
(F) ふたりの表面的関係(役柄)ですが、ラジオでは声と口調から「男・女」
  としか分かりません。もちろんラジオの場合、人物イメージや年齢に相応
  した「声」の役者を起用しますが、そのほかの印象づけはすべて展開で成
  される世界です。台詞を用いて「ママ」と発することで、いち早く母子で
  あるのを伝えます。単純ですが、人物の関係を伝えるには手っ取り早い方
  法です。
  またトオルについては、(冒頭の)勉強する様子や(シーンの最後辺りの)
  電話の内容から、(来年は)大学受験を控えた高校二年生であることも伝
  えています。
(G) ラジオ(音の世界)で台詞を用いて(ふたりがいる)場所を伝える一例で
  す。冒頭の台詞でトオルが勉強している様子、ドアの開閉、そしてその場
  所に関する話題「寒くない?」の前で「この部屋」と指摘(特定)して、
  そこが「トオルの部屋」であることを表現しました。
(H) 三枝子に動作をつけました。見渡す様子で、トオルに代わって(寒さの)
  原因を見つけようとする(トオルに対する)心配性も表せます。(E) の執
  着心と併せて、ドラマの素材である『盗聴』への発展の動機といえます。
(I) ふたりの精神的関係はドラマ全体に係る重要なものですから、ファースト
  シーンとしてほかにも織り込みました。「トオルの意思に反して窓を閉め
  る三枝子」や、タイトル前の「将来はママが決めてあげる」です。さらに
  トオルの『マザコン性』として「ママも喜ぶ結果」「ママにも相談」で表
  現しています。ただ一点「いいから、ママ。ボクがあとで閉めるよ」の台
  詞は、三枝子に反発(主張)しています。これからの展開(ドラマの趣旨)
  を匂わせる一言です。
(J) SEに「三枝子が」とあります。トオルは「ボクがあとで閉めるよ」と言
  い、三枝子は「よくないわよ」と否定します。流れからして閉めたのは三
  枝子と分かります。特に必要はありませんが、脚本をスムーズに理解して
  もらううえで(主語の意図で)書き添えました。
  しかし次の「部屋にある電話の子機が鳴る」の「部屋にある」は、音の遠
  近の問題があるので必要です。
(K) 台詞内のト書き「電話に出て」は、ラジオでは「動きが見えない世界」な
  ので無意味なようですが、鳴っている電話のベル音(SE)を打ち切るタ
  イミングとして書いたものです。書かなくても「もしもし……」の台詞で
  分かりはしますが、一応書きました。
(L) 受話器の受け渡しのタイミングを考えてみました。「あまり長電話しちゃ
  ダメよ」を間に入れたのは、渡す瞬間に言ったほうがクギを刺す感じが出
  せるからです。
  ラジオでは受け渡しの瞬間は(音では)表現できません。代わりに「あま
  り長電話しちゃダメよ」の台詞をマイクから離れながら言えば、トオルか
  ら遠ざかる(ドアのほうに行く)様子になります。オーディオドラマの特
  徴を出せるわけです。ただしクギ刺しほどの強い印象はなく、さらりと流
  した感じになるでしょう。
(M) 三枝子がトオルを気にする様子として、「トオルを見ながら後退りで」を
  ト書きに追加しました。「気にしながら」でも構いません。その場合、そ
  れはどんな様子(仕草)かを演出家に委ねる書き方になります。
(N) 三枝子が部屋に入るときは不要とした部屋の外でのシーンですが、出てい
  くときは必要(重要)です。理由は、このドラマの素材である『盗聴』を
  匂わす行動「ドアに耳を当てて聞いている」を見せるためです。
  ラジオでは、いかにも聞いていたように「そうよ……」と電話の内容を受
  けての一言が盗み聞きを物語ります。
  またテレビ脚本では、部屋の外ですから台詞の主は「トオルの声」と書き

  ます。
(O) 「F・O」はフェイド・アウト(fade-out)の略で、音を徐々に絞ってい
  く(小さくする)状態です。逆に大きくしていくのは「F・I」フェイド
  ・イン(fade-in)です。次の三枝子の台詞をトオルの台詞(電話の内容)
  に被せて言わせたいので、トオルの台詞を小さくする措置です。


                             《つづく》


*----《これまでの展開と解説》----*
脚本「テレビとラジオの違い」 (2007年12月2日)
『ノイズの中のトオル』について (2007年12月5日)

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