交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

「ゥゥ……寒」
 陽介と千明がすっかり冷え切って部屋の中に入ってくる。
「室内の温度を上げましょうか?」
 セナが聞いた。
「ああ、頼むよ、セナ」
 陽介が身震いしながらが返した。
「分かりました。室温を二度上昇します」
 温度計が“22℃”から“24℃”に変化して、天井の空調機から温風が吹き出
す。千明が自分の両腕をさすりながら陽介の傍に寄ってきた。
「ね、気分は? 直った?」
「え?」
「もう大丈夫かって聞いてるの」
「どっちだよ、それは」
「私? 私は一汗かいたから、へっちゃらに決まってるわよ」
「よく言うよ」
 プイとそっぽを向いてみせた千明は、セナの前に行き、ディスプレイ画面を
覗き込んだ。セナは相変わらずグラフィック映像を繰り返している。
「ごめんねェ、セナ、一人ぼっちにして。ちょーっと陽介がセンチになったか
ら、ヨシヨシしてたの。解る?」
「難しいことですが、学習します」
「あなたも陽介の傍にいたかったら、ちゃーんと彼の気持ちを理解して、面倒
見てあげなきゃ、ポイされちゃうんだから」
「その心配はありません。私と陽介さんはひとつですから」
「ふーん、自信あるんだ」
「そういう意識は何の保障にもなりません。必要なのは事実です」
「フン……可愛くないの」と投げ捨てる。
 セナが、ディスプレイ画面を女性の口に変えて、あかんべーをする。目を丸
くした千明は、歯を剥き出しにして威嚇する。あかんべーの口が、獣の牙を剥
いた口になり、千明に襲いかかる。今にも飛び出しそうな口に、思わず千明が
驚いて後ずさりする。ムッとした千明が拳を振りかざす。
「まァまァ、二人とも……仲良くやろうよ、仲良く」
 少し離れて暖を取っていた陽介が、千明の上げた手を掴む。千明は、何もし
やしないわよ、とばかりに陽介の手を振りほどいたものの、唇を噛みしめて企
み顔でセナを見続けた。

*---------------------< 短編小説『ミッドナイト・ロジカル』の一節 >---*


 この作品の発想は「深夜の一室で繰り広げる男女三人のやりとり。しかしそ
のうちのひとりセナは、人間ではなく人工知能を備えたコンピュータだとした
ら……」です。人のように振る舞いながらも、どこか無機質な思考を有するこ
とで、人でない姿を表現しました。一節にある「難しいことですが、学習しま
す」「そういう意識は何の保障にもなりません。必要なのは事実です」などが
それらです。
 物語は、セナに依存して生きる陽介に、以前のように人間らしさを取り戻し
てほしいと願う恋人の千明が、セナに翻弄(ほんろう)され嫉妬しながらも人
として愛情を注ぎ込んでいきます。コンピュータを人に見立てた、一夜一室の
一幕ドラマを堪能してください。


『ミッドナイト・ロジカル』の冒頭


*--------------------------------------------------------------------*
短編小説集『背中の男』 著・坂本 博  (Amazon.co.jp/文芸社発刊)


 クライマックスは日常の中に潜んでいます。どこをどう通ってきたのか、ふ
と見回すと、それが自分にとって重要な岐路であると気づいたとき、あなたは
どうしますか。多彩に絡む男女の綾……。心に染みる人間模様を4編収録。

*---------------------------------*
◆背中の男
  私は背中のミュージシャンにVサインを送った。
  「売れ残ったら、あなたが引き取ってくれる?」
     結婚を考えないわけじゃない。五年振りに遇った男友達。その関係
     は恋人以上、結婚未満……。相変わらず女はプログラム開発に、男
     は音楽に執着する姿がもどかしく展開します。五年の歳月が二人を
     大人にし、理屈ではなくコジツケでもなく、ガムシャラに走る姿が
     胸のつかえを取り除いてくれます。
     男と女のフランクな関係にふれてください!
*---------------------------------*
◆バグな夜
  雪の舞い散るクリスマス・イヴ。
  仕事のトラブルと離婚の危機……。
  男の元へ現れたのは雪の精だった。
  「あの頃の、純粋なあなたに戻って」
     閃きは突然やってきます。それは微かで一瞬のことです。掴み取っ
     たとき、人は窮地を抜け出せるのかも知れません。バグ探しと離婚
     の危機を雪の精の助けにより切り抜ける男。それは子供のころの優
     しさがもたらした幻影だったのかも……。
     クリスマス・イヴです。こんな夜があってもいいじゃないですか!
*---------------------------------*
◆ミッドナイト・ロジカル
  冷たい風の中、陽介が千明を背後から包み込んだ。
  「もう充分働いた。脳ミソが水分を欲しがってる」
     いつの日か、セナのように優秀な知能をもったコンピュータが現れ
     るかも知れません。いや、既にどこかで開発され、デビューする日
     を待っているのかも。知能、知恵、ユーモア、アイディア、感情を
     セールスポイントに様々な分野に進出するのでしょうか……。
     論理の世界に浸った陽介を救ったのは、千明の愛の強さでした!
*---------------------------------*
◆25時のメール
  こうして24等分された時界を越えて、
  1時間と制限された25時の交心は始まった。
  今、背中に感じているのは温もりか不安か。
  私の中の天秤は大きく揺れていた……。
     自分を変えたい人は決して少なくないでしょう。新しい出逢いを望
     む人も多く、電子メールの社会浸透は加速度的です。意思表示やコ
     ミュニケーションが苦手な有希が、自分自身から一歩踏み出す姿を
     スリリングに見せます。
     有希が最後に投じた言葉は、新たな自分の始まりになるでしょう!

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