交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 夏。広島県呉市倉橋町鹿老渡──。
 田舎町の外れにある小さな墓地。山道をひとりの男・俊之(45歳)が登って
来る。途中、沿道に咲いた野花を摘み取り、ある墓石の前にたどり着く。俊之
が花を供える。隣の墓に供えてあるたカップ酒がふと目に入る。ポケットから
取り出した小銭から二百円つまんで隣の墓の前に置き、拝借とばかりにカップ
酒をいただく。墓の前にあぐらで座り込み、カップ酒のフタをあける。
 墓石には『中村シゲ子 平成十四年八月二十五日永眠 享年七十歳』と刻ま
れている。
 俊之が深々と頭を下げる。
「すまなかった……何年経っても、俺にはそれしか言えない」
 カップ酒を飲もうとしたとき俊之の携帯電話が鳴る。表示を確認して出る。
「もしもし、トシさん」
「はァい、どしたんかいね、静子さん」
 静子はこの町に住む七十五歳になる老婆である。
「あさっての午前中、広島まで頼めるかいね」
「ちょっと待ってよ」
 俊之はカップ酒を置き、手帳を取り出して見る。手帳には日々の欄に時間と
名前が数々書かれている。
「呉まで仏壇屋の敬三さんの予約が入っちょるけど、一緒でもええかいね」
「敬三かい……好かんのう」
「ホンマ、仲悪いんじゃけえ。別の日にするかいね?」
「いいや、ええッ。その代わりワシはトシさんの横に座らしてもらうけえね。
敬三とは並んで座りとうない」
「分かった分かった、ほいじゃあ朝八時に迎えにいくけえ。支度しときんさい
よ」
 俊之は電話を切るなりため息を吐き出し、シゲ子の墓石に対面する。
「分かってます。安全運転……ですね」


                             《つづく》

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