交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 月曜日、雨が降っている。すでに俺の決心を察知した妻は仕事に行くのをた
めらっていた。俺はわざとらしい笑みを浮かべた。
「大丈夫だから」
「やっぱり、今日は休むわ」
「二日酔いで仕事にならないか」
「ウッフフ……少しは吹っ切れたみたいね。分かったわ。仕事に行ってくる」
 優しく俺を見つめた妻の視線が印象に残った。妻を送り出し、娘を幼稚園に
連れて行き、その足で少し歩いた。そして文房具屋で筆ペンを、いや、すずり
と墨と筆を買った。
 辞表を書く……。“辞表”という文字が上手く書けない!
 どことなく気に入らない。納得がいかない。そんなことはどうでもいいのに、
妙に拘ってしまう自分が次第に腹立たしくなってくる。
「これじゃ会社も辞められやしないじゃないか! まだ未練があるのか! 俺
は一体何がやりたいんだ!」
 俺の叫びを制するかのように電話が鳴った。
「もしもし……」
 イライラした声で出ると、会社の同僚からだった。先月号の社内報で職員の
子供から手紙が届いたいう。遠く離れた営業所の、顔も知らない職員の、その
子供が、俺の書いた記事に対し礼状をくれたという。進路に悩んでいたが、そ
の記事を読んで自分の進む道を決心したというのだ。
「ありがとう。伝えてくれて、ありがとう」
 嬉しさが込み上げる。救われた気がした。涙とともに仕事への熱意も溢れて
きた。俺自身はともかく、俺の書いた記事には一エネルギーの価値が残ってい
たと実感した。
 辞表を破り捨てた。髭を剃り、ワイシャツを着てズボンを履きネクタイを締
めスーツに袖を通して、なんのためらいもなく玄関に直行する。靴を履き、傘
を手にして勢いよくドアを開けた。
 雨は上がり、雲の切れ間から陽が差し始めていた。
「傘……持ったんだから、持っとくか!」
 俺は傘を持って会社への一歩を踏み出した。


                             《おわり》


【これまでの展開】
月曜日の一歩(1)~(9)

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