最近はひらがな表記でも、母音が現れたときその前にある子音、次にあげる
例では「か」「し」「よ」「ね」「と」を長く発音するように長音符号(ー)
を用いているのを目にします。
「おかーさん」「うれしー」「おはよー」「おねーさん」「そのとーりです」
(あ) (い) (う) (え) (お)
『感覚表記』とでも呼びましょうか。書き手からすれば「そのように発声し
てほしい。そんな気持ち。イメージなんです」といいたいのでしょうが、これ
はとんでもない書き手主観で、実に利己的な意識に受けとれます。たとえば次
の文を読んでみてください。
「そーすればそーさもそーとーいーよーになるかもー」
スラスラ読めますか、何を伝えようとしているのか即座に理解できますか。
「読点があれば読めるんじゃないの」という人がいるかもしれませんが、そん
な問題ではありません。仮に読点を打ったところで次のようになります。
「そーすれば、そーさも、そーとー、いーよーになるかもー」
これほど読点が多い文も、ブレーキばかり踏んでいる運転者のようで乗り心
地の悪い車となり、やはり『判読しづらい文』にかわりありません。読点の乱
用については、2006年3月18日掲載の『句読点を考える(3)』の項目(7)を
参照してください。
■句読点を考える(1)
■句読点を考える(2)
■句読点を考える(3)
はっきりいって「大人の言葉」とは思えません。メールやブログで私的に発
信する文なら、それはそれでヨシとしましょう。しかし脚本や小説でこういっ
た表現を、特に台詞でみかけます。「人物の気持ちをリアルに表現するため発
声どおりを書き表した」と主張したいのでしょうが、登場人物の年齢と口調を
踏まえたときには「幼稚さ」も感じます。また、どの人物においても同じよう
にこの口調なら、それは人物ではなく作者自身が言葉を聴覚で受けとったもの
を誤認識したままで、正しい表記を知らないのかと疑いたくなります。
「そうすれば操作も相当いいようになるかも」
or
「そうすれば操作も相当良くなるかも」 ★「いい」を「良く」に推敲
感覚表記の原因は、日本人の言葉の乱れが一番の原因だと思いますが、それ
を助長するテレビや雑誌、マンガなどにも責任の一端はあるでしょう。何年か
前に、辻本清美衆議院議員が国会答弁のときに「総理、総理、総理!」と叫ん
でいたのを、あるテレビ番組では、ひらがなかカタカナかまでは覚えていませ
んが、「そーり」の文字を発声に合わせて画面に三連発表示していたのを記憶
しています。
最近のバラエティー番組でも、出演者の滑舌が悪いのが原因か、文字で視覚
的にも伝える演出かは分かりませんが、出演者の発言を補うかのようにやたら
テロップを流しています。このときの表記が、発声に近いものを伝えようとす
るあまり長音符号を多用、乱用してしまうのかと考えます。
《つづく》