交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 販売促進会議を終えてデスクに戻ると、僕宛てに電話が入ってきた。
「もしもし。お電話代わりました。山本です……はい、そうですげど……レイ
コ?……レイコって、あのレイコ!」
 懐かしさよりも先に、言い知れぬ不安と恐怖が僕の脳天を貫いた。この電話、
誰に聞かれているわけでもないが、やたら周囲の目を気にしながら、受話器を
手のひらで覆って声のトーンを落とした。


 レイコというのは、僕が東京の大学時代につき合っていたお嬢様……いや、
女王様といったほうがぴったりのキャラクターだった。ワンレン、ボディコン
に身を包み、ジュリアナ東京のお立ち台で、羽毛とラメに飾られたド派手な扇
子を片手に、ミラーボールに反射するカクテル光線を浴びながら踊りまくり、
バブリーな時代を謳歌していた。
 そんなレイコにとって僕の存在は、アッシー、メッシー、ミツグ君の一人三
役を演じ、風呂に入っていようが、夜中だろうが、レイコの電話一本でどこへ
でも飛んで行くのが務めだった。88・56・90というレイコのナイスなボディに
一目惚れしたのがきっかけで、「君のためなら僕は何だってするよ」なんて口
を滑らせたのが、そもそもの始まだ。男らしくガツンと言ってやろうと思った
ときもある。しかし、僕もブランドのスーツに身を包み、バーボンをやりなが
ら高飛車女を護衛するナイトを気取ってしまったのが運のつき。同じ穴のムジ
ナと言われても、反論の余地もなかった。


 卒業後、僕はUターン就職で米子に戻り、レイコとはそれきりになっていた
が、十数年ぶりに聞く彼女の溌剌とした声に、やおら懐かしさが込み上げてき
た。
 今や彼女も二児の母。そして、ファッションセンスが功を奏してアパレル産
業の企画部長になっていた。新製品開発の糸口として、うちの社が扱っている
化学繊維に目をつけて、はるばる米子まで出向いてきたのだ。
「エー! 今、米子空港にいるって……」
 レイコの次の言葉が予測できた。相手の都合も考えず、いつも速攻で動くあ
いつ。時折カチンとくることもあるが、その行動力は、今の時代に薄れてしま
ったものではなかろうか。
 商売になると直感した。
「いいよ。迎えに行きましょう!」
 珍しく張り上げた声に、黙々と仕事をしていた連中が顔を上げて僕に注目し
た。お立ち台に上がった気がして、なんとなくレイコのパワーが伝わってくる。
受話器を置くと、行き先ボードに“ジュリアナ”と書き込み、うろ覚えのディ
スコミュージックを口ずさみながらオフィスを飛び出した。


                              《おわり》

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