交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


テーマ:

 年の瀬に、自分の部屋の掃除を妻に命じられた俺は、書棚の肥やしと化して
疎遠になった本を整理して、机の上やそこら中で山積みになってる身近な本と
入れ替えるため、一冊一冊取り出しては段ボール詰めにすべきかを思案してい
た。ふと、アメリカの古い雑誌を手にしたとき、ページの間から一枚の写真が
こぼれ落ちた。それは、学生のころアメリカ横断をしたとき、自由の女神の前
で撮った写真だった。
 ──あれ? あのときのアルバムは?
 俺は、掃除を忘れて、青春の思い出探しに耽っていった。そして、書棚やク
ロゼットの中を引っかき回したあげく、見付からない苛立ちに思わず声を上げ
た。
「お~い、美代子……俺のアルバムどこやった? 学生時代の。アメリカ、ぐ
るっと回ったときのやつ」
 隣の部屋の掃除に追われていた妻の美代子が、雑巾をクルクル回しながら顔
を覗かせた。
「知らないわよ。そんなことより、何よこれ! 片づけてるの? それとも散
らかしてるの?」
「片づけようと思ったんだけど……」
「足の踏み場がないんだけど」
「だから、これから片づけるよ」
「あなたがこの部屋の掃除始めて、もう二時間になるのよ」
 腰に手を当てて仁王立ちした美代子の顔に、いつもの穏和な笑みはなかった。
「ちゃんとやってよね、ちゃんと」
「やるよ、ちゃんと」
「ほら、そこ。ステレオの上、ホコリだらけだし、パソコンはタバコのヤニで
真っ茶茶だし……もうッ」
「分かったからさ。でもその前に、俺の青春時代最大の思い出“アメリカ横断
の旅”、一緒に探してよ」
「ゴメンナサーイ、そうしてあげたいだけど、それは結婚前のことでしょう。
あなただけの思い出なわけよねえ。私の最悪の出来事は“あなたの新婚旅行”
よ。何で国内なの!」
「それは、ちょうどそのころ仕事が」
「ああ、そうでしょう。あなたは、私より仕事が大事なのよね」
 雑巾を壁に投げ付けて鬼面を一転させた美代子は、ベソをかきながらエプロ
ンのポケットからハンカチを取り出して、散らかった本やCDを掻き分けて俺
の膝にヨヨと泣き崩れて見せた。それは、美代子が何かをねだるときに決まっ
てとるポーズだ。
「悔しい~ッ」
 俺は、またかと言わんばかりに天を仰いだ。
「ゴメン、俺が悪かった。だからもう機嫌直して、一緒に掃除しよ」
「窓ガラスも拭いてくれる?」
「分かった、やるよ」
「換気扇にこびりついた油も、綺麗にしてくれる?」
「するする。だからもう泣くのやめて」
「もうひとつお願いしてもいい?」
「まだあるの」
「私をアメリカに連れてって。これからは、二人の思い出にするために、私と
一緒にアメリカ横断の旅をしましょう」
「ァ……いや、それは……」
 おもむろに顔を上げた美代子は、大きな瞳をギラギラさせて、ペロっと舌を
出して微笑んだ。そして、色あせた自由の女神の写真を握り締めた。
「アメリカ、行こ」
 俺は、ヘビに睨まれたカエル同然に、身動きがとれなかった。美代子の突き
刺すような視線に応えて、悲壮感いっぱいの作り笑いを上げるしかなかった。


 結局、美代子の泣き落としに押し切られ、アメリカ旅行に行くハメになった。
それにしても、俺のアルバムはいったいどこにあるのだろう……。


                               おわり


----------------------------------------------------------------------
人気Blogランキング ← 鬼嫁ならぬ「泣き落とし妻」に乾杯と思う人は1票を。

AD
いいね!した人  |  コメント(0)  |  リブログ(0)

坂本 博さんの読者になろう

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

AD

ブログをはじめる

たくさんの芸能人・有名人が
書いているAmebaブログを
無料で簡単にはじめることができます。

公式トップブロガーへ応募

多くの方にご紹介したいブログを
執筆する方を「公式トップブロガー」
として認定しております。

芸能人・有名人ブログを開設

Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
ご希望される著名人の方/事務所様を
随時募集しております。