「♪悩んでたことが嘘みたいで、♪だってもう自由よなんでもできる、♪どこまでやれるか自分を試したいの♪~」
棟上げが終わったばかりの現場で、大工さんとサッシの打合せの帰り道だった。
その打合せで、入隅に取付けるサッシの開口部分に内柱を足してもらうように頼んだ。
そうしないと、サッシを取付けるとき、サッシのフィンが、入隅部分の柱に当たって、開口部分に建て込めないからだ。
「これで一週間後のサッシ施工はばっちりだ。」
その打合せ内容にとても満足した僕は、娘たちにしょっちゅう聞かされている歌を歌いながら、田舎道を軽快に軽トラック走らせていた。
チャラリン、チャラリン♪
“多村組社長 着信”
「うあぁ、また、このおっさんか。」
“多村組社長 着信”この着信表示が、僕の胸を軽く締め付け、僕の下手くそな鼻歌を止めさせた。
息苦しい。
しかし、かかってきた電話には当然でる。
うるさい携帯電話の着信音を、着信ボタンで黙らせた。
「はい、株式会社 江藤です。」
「あんたぁ、どこかね?ヒマかね?」
フーー。
いつもの決まりきったしゃがれ声の決まりきった台詞だ。
僕がどこにいるとか、ヒマとかではなく、頼むから用件を教えて欲しい。
しかし、この社長は、電話での会話をめんどくさがって、実際に会わないと用件を言いたがらない。
話しの内容が固まる前、何を伝えるのか?疑問点はなんだ?付け加えて話すことはあるか?
などを自分の頭の中で整理する前に、携帯の発信ボタンを押してしまう。
相手の顔色を伺いながら、身振りと手振りを駆使して話さないと打合せ内容が伝わらないのを無意識に自覚しているのだ。
この社長との電話での思い出には、枚挙の暇がない。