わんわんわん

イヌが吠える、泣きながら鳴きながら、ここは安全だと知っているから、ネットに向かってホエている。吠える色がいのは私が嘘つきだからだろう。

   ○○○○○○


 イヌが吠えるので、メールを開いてみた、レジュメが送られてきていた。

ひとり夜話だな、それは」と赤く吠えるイヌは独り言のように私に言った。

私はみなしごハッチの着ぐるみでそれに答えた。

おうーーい、もしもーし、無視?ねえ、無視?それ虫とカケてんのか、ちっとも上手くねえぞ

白い柴犬はこれだからいけない、かまってほしくてしょうがないのだ。

この馬鹿イヌは今、吠えたら涙を流してしまうほどに孤独なのだ。

 レジュメを使う上での注意事項的な内容が本文の前につけてある。

要するにネタばれは駄目、そのまんまをブログに書いてもいけない、ということらしい。

むずかしいなあ。


 ロフトプラスワンでのライブ冒頭ではいつも岡田斗司夫のひとり夜話とタイトルを言ってから

話が始まっていたのだが、今回はそれがなく、ブルータスの記事からだ。

あーなんだ、あれだよな、ここでさ、タイトルを言わないってのは水戸黄門で印籠を出さない暴挙に匹敵するよな、な、おい、なって

と尻尾を激しく振って私の顔を覗き込みながらイヌは言った。

 次にオタキング岡田斗司夫の本棚がどの様な歴史を辿ったのかというくだりで後ろ斜めの男が

『斗司夫氏の姉ちゃんって美人かな』と隣の連れらしき男に聞いていた。

普通人様の前で姉ちゃんの話をする奴って何故だか知らんが美人だったらそう言うものだぞ、まあブス

でも面白エピソード添えて笑いを取るね、そうじゃないって事は十人並みなのさ、おい、お前、聞いてい

るのか

馬鹿柴犬は私の右手を甘噛みしてきた、じゃれているつもりらしい、生憎吠える色が赤い奴なんて

可愛いと思えない、だから、左手で眉間の辺りを殴った。きゃいんきゃいんと赤く吠える馬鹿柴を見

て少しだけ気分が良くなった。

気分がよくなった?なぜだ。それはたぶん何かを、人は何かを、柴犬だからとか白いからとか赤いから

とか溺れて沈んで川底を必死に蹴り上に、息のできる上に上がろうとする人みたいに差別しなければ

苦しくて生きていられないんだ、「自殺者っていうのは、死のうとする瞬間にはおそらくだが何者をも差別

しない」とパソコンのモニターに向かって私は言ってみた。

イヌのくせに喋りやがって・・・人のくせに蜂のなりをしている私はどうだ・・・・。


 レジュメは若いころの本に関する話に移っている。事務所で借りた資料専用の部屋の事などはあまり

たいした内容ではない、次の本のスリム化に対する前振りだからだ。

*本をため込んでいるのは借金を抱え込んでいるのと同じだ*伝えたい内容はたぶんこれだろう。

別に借金していても生きていければOKと考えるなら、次に続くスリム化の具体策は見聞きする必要は

ない、聞かず読まず飛ばそう。

ゲームのマリオブラザース、ドラクエ、その他どこでもいっしょ以前の話は笑いを誘おうと頑張った感が

ある、だとしたら、ライブでは失敗していた。

いやあ、俺はどこでもいっしょ最後は泣いたね、お前はゲームいっさいやらないから解らないだろうけ

どな、やっぱりあれだ、岡田氏も人の親だ、娘がトロを待っていた話のときには泣いてたしね、お前が

ゲームをやるやつだったら貰い泣きしてたぜきっと」

イヌは私に殴られたのにニコニコ笑いながら話しかけてきた、机の端に転がっているゴムボールを気に

しながらも、私の返事を待っている。

イヌなのだからボール遊びがしたいのか、赤く吠えるくせに・・・。

なあ、そろそろ、俺と口をきいてくれないか、ライブ見てさ、お前これから自分のやりたい事を

どうやって行けばいいのかヒントっぽいものを手に入れたんじゃないのかい

と言い終わるとイヌは私の住む狭い部屋を走り始めた、天井も床も関係なしに嬉しそうに走り始めた。

その姿を見ているとなんだか話かけたくなってきた、馬鹿にしている犬なのになんだかいい奴に見え

てきた。

「柴犬」私の呼びかけと同時に天井でピタリとイヌは動きを止めた。

「名前はなんていうんだ」「レジュメってプラナリアの様だこれが俺の名前さ

「訳がわかんないよ」「お前の本質から生まれたのが俺だから

まるで話がかみ合わない、少し話しかけたことを後悔した。

「こっちから話しかけたのに悪いがもう喋らないでくれるか、赤い色で吠えないでくれるかい」

イヌは私が座る椅子の下まで走り寄り、色のない透明な声でワンと一声吠えた。

私は机の上のゴムボールをイヌの前で振った。

「さあ、取ってこい」勢いよく壁に向けてボールを投げた。イヌは全速力で追いかけてゆく、イヌの体は

急速に透明になってゆき、ボールもイヌも見えなくなってしまった。



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