クワドと芸術性の両立。スイス紙によるフィギュア再興賛歌 | siennaのブログ 〜羽生君応援ブログ〜

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羽生結弦選手の現役時代をリアルタイムで体験できる幸運に心から感謝しつつ、彼のスケートのここが好きあそこが好きと書き連ね、ついでにフィギュアにも詳しくなろうと頑張る欧州住まいのブログ主です。

二つ前の記事でご紹介したスイス高級紙のワールドレポ。総括記事もとても興味深いのでご紹介します。高難度ジャンプと優れた表現の両立という、まさに羽生選手が先頭に立って切り開いてきた今のトレンドこそが、フィギュアというスポーツの魅力を高め、人気回復に繋がるだろうという論旨です。元記事のリンクはこちら



フィギュアスケート世界選手権

フィギュアスケートがまた面白くなった

フィギュアスケートが変わった。とても良い方向に。現在のトップ選手たちは表現とジャンプの両立を実現するオールラウンダーだ。

by Doris Henkel, 4.4.2016, Neue Zuercher Zeitung

 ボストンで開かれていたフィギュアスケート世界選手権は、うら若きロシア人少女、エフゲニア・メドヴェデワへのアメリカ人のスタンディングオベーションをもって幕を閉じた。昨年のジュニア世界選手権を制した16歳が披露した演技は、最高難度を軽々とこなすと同時に、成熟した女性のエレガンスと深い感情を感じさせるもので、この二つが両立するのは夢のようだと言っていい。彼女のフリーは、1万7千人の観客を湧かせたその夜のクライマックスであった 。少なくともこの夜は、アメリカやその他の地域においてフィギュア人気が落ち込んでいるという定説が覆されたと言える。

 この優雅なスポーツは何年ものあいだ難しい局面にあったが、ここに来て復活の兆しが著しい。13年前に導入された新採点システムには様々な長所があるが、ショートプログラムで4位か5位の選手でもフリーを完璧に滑れば優勝可能だというのはその顕著な例だろう。もっとも、ハビエル・フェルナンデスは旧採点システムでも優勝していたはずだ。優勝候補の羽生結弦が大幅なリードにもかかわらず期待というプレッシャーのもとフリーで精彩を欠いた一方で、彼は生涯最高のフリーを滑り、タイトルを防衛した。

 2010年の五輪では、4回転ジャンプを跳ばなかったライサチェクがその他を完璧にこなし優勝したが、そんな時代は今や完全に終わっている。ボストンで3位となり、中国に初のメダルの栄誉をもたらしたボーヤン・ジン。彼は4本の4回転ジャンプをプログラムに入れている。3本、いや2本でも例外と言えるが、1本は標準だ。今大会のフリーで4回転を入れなかったのは24選手中6人だが、長らく最高峰とされてきたトリプルアクセルは、全員がプログラムに入れている。

 以前と違い、ジュベールのようなジャンパーと、ランビエールのようなアーティストの間にあった差が今は小さくなった。トップ選手はすべてを備えている。シナトラの音楽を使い、ユーモアと魅力、リラックスした雰囲気に溢れたフェルナンデスのフリーは、ショーナンバーとしても通用するプログラムだ。ヴォーカル入りの音楽が全てのカテゴリーで使用できるようになったことも、フィギュアスケートにプラスに作用した。アダム・リッポンがビートルズメドレーで滑ると、会場全体が「ゲットバック」や「ロンリーハーツクラブバンド」に合わせて揺れた。

 フェルナンデスの成功とは矛盾するようだが、シングル競技における欧州勢の劣勢は今後ますます進むだろう。上位10名のうちアジア勢が3名、北米勢が4名で欧州勢は3名だったが、これは欧州勢にとってはまずまずの成功と言える結果だ。新しい覇権はとうの昔にアジアに移っている。ボストンには日本から4千人のファンが訪れ、休憩中には天井の大型スクリーンに日本語のCMが流れた。

 欧州希望の星はやはりアイスダンスだ。このカテゴリーを代表する素晴らしいチームが、タイトル防衛を果たしたフランスのパパダキス・シズロン組だ。およそ10年前、アイスダンスは五輪競技から除外される瀬戸際にあった。演技力先行で客観的採点基準に欠けているというのがその理由だ。そこで、一定の要素の数や種類が課されるようになったが、それに対し専門家のあいだからは、芸術的自由の喪失やアイスダンスのワンパターン化に繋がるという声が多く聞かれた。今回の世界選手権に出場したチームの質と個性を見れば、そのような主張はもはや通用しないということがわかる。

 しかし、ルール変更についていけないと感じるフィギュアファンもまだ多い。昔はスクリーンに6.0が出れば、完璧な演技だったのだと誰もが理解できた。導入後10年以上が経つが、複雑なベースを元に算出される点数の並びには、元選手すら未だに違和感を覚えると言う。「スコアを見ると、うーんとなるね」と、1988年五輪王者のブライアン・ボイタノ。「どういう意味があるんだろうって考えるんだ」


以上。