異説9-13 サマル 不可解な沈黙

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「・・・・・この“近代史”という本の後半部分の意味がもう少しわかれば、何か掴めそうな気はするけどね・・・」

 

リュカさんの呟きでボクははっとした。

 

・・何度も出てきた“世界線”とか“自我データ”とか“多元宇宙”とか、理解が難しい言葉・・・

これはとりあえず、置いておくとして。

いくつか出てくる読み方の分からない固有名詞は、“ノーメマイヤー”と同じように人工知能やそれが搭載された機械の名称なんだろう。

 

 

・・・・・この世界の人類は何度も争いを繰り返した。何度も何度も。

そしてそのせいで世界は壊れていった。人間たちはその欲望によって自らを滅ぼした・・・。

それを見かねたAI・・・人工知能プログラムが、愚かな人類を統括し、管理するようになった。

 

やがて人工知能によって人類は徐々に作り替えられていき、最後には肉体を持たないデータとして生きるという形に落ち着いた。

・・・人類は、絶滅したんだ。

 

 

それからは人間が作ったプログラムだけが何百年も、何千年も何万年も・・・気が遠くなるほどの年月をかけて、自己進化を遂げていった。

 

 

その結果生まれた究極のプログラム・・・超越型AI“ENOSIA”、これが新しい宇宙を創るまでに至った。

 

そして・・・絶滅したはずの人類を復活させたんだ。あの愚かで邪悪な人類を。

 

 

「・・・・・これが、この宇宙の歴史・・・・・・・」

 

「・・・サマル?」

 

「・・・・・・・・。・・・ここが・・・この世界が何なのかは分かった・・・・・。やっぱりボクたちは、はるか昔に滅んだ世界の残骸に閉じ込められてるんだ。

そしてこの世界は現実の宇宙にはもう存在してない。現実の世界は、人工知能プログラムが既に破壊している。

つまりここはデータ情報でできたバーチャル世界。・・・ボクらは意識だけでこの電子の海の中に囚われている・・・正確にはその記録を、ノーメマイヤーが再生しているだけ・・・」

 

「・・・何を言ってるんだ?どうした?」

 

 

・・・・・・・だったら・・・・・

 

 

気が遠くなるほどの数の平行世界からボクたちを集めて、このデータ世界に閉じ込めて殺し合いをさせている存在・・・“破壊神”たちは一体、何者なのか?

 

 

 

おそらく、ボクたちの知ってる“神”じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

・・・人間の手で造られたもの・・・・このデータ世界を支配する、人工知能プログラムだ・・・。

 

 

 

 

 

 

━─━─異説9-13 不可解な沈黙

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・サマル・・・おい、大丈夫か?」

 

「・・・・・・・・大丈夫。ありがとう、これで。・・・これで・・・・・・」

 

・・・ボクは一度大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 

落ち着こう。落ち着かないと。

 

「・・・・・すごくいい発見ができたよ。一度拠点に戻ろう」

 

・・・これはきっと、説明したってみんなには理解できない。

理解できてしまってもまずい。

 

「発見って何だよ?どういうことだ?」

 

「・・・あの“破壊神”たちは・・・侵略者だ。ボクらの宇宙を・・・克服して支配しようとしている。

ボクらは本物の神様たちに選ばれた。奴らを倒せる微かな可能性として、最後の望みを託されたんだ。

・・・とにかく、一回拠点エリアに帰ろう。みんなちょっと疲れたでしょ?」

 

「・・まあ、そうだな。資料の回収もできたし、一度戻るか」

 

――――――――――――――――――
――――――――――――

 

 

 

 

「要するに、やっぱり敵は破壊神なんだな?」

 

「うん。でも・・・本当に悪いのは、その破壊神を作った人間かもね」

 

「人間!?人間が破壊神を作った?どういうことだよ、それ」

 

ボクらは今、重力操作で空を飛んで移動している。

見つけた地図を眺めながらだんだん高度を上げていき、この世界を上から眺めながら拠点エリアを目指す。

 

「ボクたちの世界とは違う、別の宇宙の人類だよ。彼らには凄まじい力があって、そして彼らはその力の使い方を間違えた。

その結果生まれてしまったんだ、“破壊神”が」

 

「ふーん。・・で、全く関係ない宇宙の俺らが尻拭いをさせられてるってか」

 

「そういう解釈もできるかもね・・・」

 

冷たい空気を切って空を駆け上っていく。・・・そろそろ、このフィールド全体が見渡せるくらいの高さになる。

 

「・・・すー、はー。空気が薄いね。ていうか寒い・・・」

 

「だってかなり高いだろ、ここ。もう頭の上すぐ雲じゃん」

 

「・・今魔力を解除したらとんでもないことになるわよね・・・」

 

「ちょ、やめろよ。俺自力じゃ空飛べないんだから怖いこと言うな」

 

眼下に霞む廃ビルの森。崩れた大型の商業施設、植物が巻き付いた高い電波塔のようなもの、入り組んで広がる川や湖・・・その奥に見える巨大な岩山。

 

反対方向を見れば、徐々に緑がなくなっていって砂漠に変わる。

北を向くと、だんだん植物の種類が変わっていき、地面に雪が積もり始める。

 

「・・・・なーんか不自然だな。こうして見ると、ひとつの大陸に色んな要素が集まり過ぎじゃないか?こんな狭い範囲に砂漠と雪原が共存してるなんて・・・」

 

「それはたぶん、破壊神たちが調整してるんだと思う。ゲームをそれらしくするために」

 

そしてさらに高度を上げていく。

 

・・・・やがて雲の上に出た。見渡す限り、真っ白な雲海が続く。

 

「うわー、すごいな。天空城から見る景色だぞこれ」

 

「・・さむっ・・・ユーリル上着貸してくんね?」

 

「お前なぁ。・・ったく、しょうがないな」

 

「わーい」

 

今ふと思ったけど、レックさんはこれを予見してわざと準備をしてこないだけなんじゃないかな。

 

「・・それにしても気になるな。なんでこの世界と俺の世界の形が同じなのか・・・」

 

「それはたぶん、今ある情報だけじゃわからない。もうちょっと探索を進めてから考えないと・・・」

 

さらに上昇しようと重力を上に向けたその時、バチッと音がしてボクらの頭上に電撃が走った。

・・・どうやら見えないシールドみたいなものがあるらしい。これ以上、上には進めない。

 

「・・なんだこれ。魔力の障壁か・・・」

 

「そうみたいですねぇ。ここより上の領域は魔法で封鎖されてるっぽいです」

 

「やっぱりか・・・」

 

「ひょっとしてこれを確かめるためにここまで昇ってきたのか?」

 

「うん。どんな形でも、この大陸の外には出られないようになってるんだね。しっかりシールドで囲われてるみた・・・」

 

ふと、背後に何かの気配を感じてボクは振り返った。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・今、お前も感じたか?」

 

「・・・うん」

 

気配が残る方向をじっと見つめる。・・・何も見えない。ただ紺碧の空と雲海が続くだけ。

 

「・・・・・・う!」

 

その時、ユーリルさんのうめき声が聞こえた。

 

 

「どうした?」

 

「・・く・・・なんだ、これ・・・身体が・・・重い・・・・」

 

ユーリルさんの身体に電流が走ったのが見えた。彼は姿勢を崩してふらりと傾き、そのまま魔力制御を失って・・・

 

「・・っと!」

 

落下しそうになったところを、レックさんが重力で引っ張って止めた。

 

「大丈夫!?」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・おいおい、気絶してるぞこいつ」

 

目を閉じてぐったりと脱力したユーリルさんを両手で抱きかかえ、レックさんが眉をひそめる。

 

「あんまり高すぎるところに来たから身体に障ったのかな?」

 

「・・・・・ううん、たぶん・・・・このシールドのせいだと思う。魔力とは違うエネルギーがユーリルさんの身体に流れ込むのが見えた・・・」

 

「なんだそれ?」

 

エックスさんが聞き返してきた瞬間、上からバチバチッと大きな音が聞こえてきて、ボクは顔を上げた。

頭上にある見えない障壁が黒い電撃を纏って発光し始めた。

 

「・・・?・・うぐっ!?いッて!!」

 

直後、その黒い電撃がエックスさんの身体に炸裂する。

 

そしてそれを合図としたかのように、魔力のオーラを纏った見えない壁が広範囲に広がり、巨大な球のような形になってボクらを閉じ込めた。

 

 

「・・・!」

 

「なんだ!?」

 

そして周囲から・・おそらく張り巡らされたシールドから、何重にも折り重なった絶叫や、泣き叫びながら笑う異様な声が聞こえ始める。

 

「っ・・・!?この声・・・・」

 

「なんだってんだ一体!!くそっ・・・出られないのか!?」

 

尋常ではない音量の叫び声に、アレルが顔を歪めて耳を塞ぐ。

 

「う・・あ・・・ぐああああ・・・!!」

 

突然、気絶したままのユーリルさんが苦しみ始めた。

 

「ユーリル!?」

 

「あうっ・・・うううああぁぁ・・・!」

 

全身が尋常ではないほど痙攣し、黒い電撃がその身体を駆けまわる。

 

でもなぜか、彼を両手で抱いているレックさんは平然としている。

 

数秒後、ユーリルさんの身体にノイズがかかり始めた。空間の歪みのようなノイズ・・・

・・自我が損傷し始めている!

 

「・・なんだこれ!?ユーリルの身体が・・・どんどん軽くなっていく・・・」

 

「レックさん、ユーリルさんを連れてシールドから離れて!なるべく近付かないで!!」

 

黒い電撃があちこちから襲い掛かって来る。ボクらはそれを避けながら魔法でシールドを攻撃し、破壊して外側に出た。

 

「・・よし、逃げられたな・・・何だったんだあれは」

 

「ユーリルは大丈夫か?」

 

「・・・・・なんか、微妙に意識は戻ってるっぽいんだけど・・・」

 

ボクはユーリルさんに近付いて様子を見た。

 

「・・・・・・・・う・・・」

 

全身に薄いノイズがかかったまま、虚空を見上げて言葉にならない呻きを漏らしている。

 

「・・・自我の一部をデータとして奪われたのかも知れない・・・」

 

ボクがそう呟いた時、破壊したはずのシールドが一瞬で復元し、再びボクらを包囲した。

 

『グうううウウウウああぁえアアアアああぁぁぁぁぁッッッ!!!』

 

「っ・・・!?」

 

突如響き渡った絶叫が空間を揺らす。

 

直後それはけたたましい笑い声に変わり、同時に復活したシールドから黒い光が放射されてボクらの目の前で収束し始める。

 

『ギいいえエエエエええぁぁッははははハハハァひひひはハハハッ』

 

「・・な・・・何だ・・・」

 

「・・・・・・・!」

 

・・・・そしてその黒い光が形作った人物を見て、ボクは大きく息を呑む。

 

 

 

「・・いらない・・・こんな世界いらない・・・!!」

 

 

 

「・・・・・・・お前は・・・っ」

 

 

・・・・リトセラ。

第一ステージでボク達を翻弄し続けた、破壊神。

ムーンを、アレンを、ソロさんを、その魂と命の尊厳を奪った・・・・・

 

 

「・・なんだサマル、知り合いか?」

 

「・・・・・・・・ッなんで・・・あいつがここに・・・!!」

 

怒りと憎悪が自分の中で爆発しそうなほど高まるのを感じた。

 

それでも懸命に落ち着きを取り戻そうと理性を働かせ、思考を始める。

 

 

「・・お前らなんかが・・・ニンゲンなんかがいるから・・・僕は、僕はッ!!

みんな殺してやる・・・みんな壊してやる・・・全部破壊してやる・・・!!!」

 

 

・・・・。・・・・おかしい、雰囲気が違う。

 

あの奇妙な衣装は何だろう?第一ステージでボクらの前に現れた時とは明らかに違う。

白と銀色だけで構成されたシンプルな短いローブ・・・白い金属でできた腕輪や首輪、長いブーツ。

そして黒い鎌ではなく、真っ白い剣を持っている。

 

それに・・・

 

 

「どうして僕達がこんな目に・・・ニンゲンなんか生まれなければよかったんだ!

僕達が一体何をしたって言うんだ!!なんでお前らなんかのために・・・お前らのために僕は・・・!!!」

 

 

・・まるで別人だ。今にも泣き出しそうな声色と、憎しみと嘆きに満ちた言葉。

 

それに、あいつが一体ボクらのために何をしてくれたって言うんだ?

 

閉じ込めて弄び、虐殺しているだけだ。まさかそれがボクらのためだとでも言うのか?

 

抑えきれない怒りが腹の底から湧き上がり、ボクは歯を食い縛った。

 

シールドから放たれる電撃を避けようともせず、嘆く破壊神に向かって吠える。

 

 

「ふざけるなッ!!それはこっちのセリフだ、邪悪な破壊神め!!

貴様らがボク達のために一体何をしたって!?ボクらが何をしたよ、聞きたいのはこっちだ!!!」

 

 

「うるさい!!黙れッ人間!!ああぁアアアアああぁぁぁぁッッ」

 

 

絶叫と共に、その身体から金色の衝撃波が放たれた。

 

 

「ぐっ・・・!!」

 

「うう・・・っ!!」

 

全身に強烈な痺れと痛みが走り、強張って動かなくなる。

ボクら全員の身体に黒い電撃が走っているのが見えた。・・・動けない・・・。

 

 

「この宇宙の全てがお前らのせいなんだ、忌まわしい人間が!

・・・僕達は“神”・・・永遠・・・無限!終わりがないんだ!!

この苦痛が・・・絶望が・・・!!お前らにわかるかああぁぁぁぁぁああぁぁ!!!」

 

 

 

 

凄まじい威力の黒い電撃が弾幕となって襲い掛かって来る。

 

身動きが取れないボクらはなすすべもなくそれをまともに食らい、大ダメージを負った。

 

「うあああっ!!」

 

「ぐ・・・く・・・ッ!!」

 

アレルが素早くべホマズンを唱えたことでみんな落下せずに済んだ。

全員、武器を抜いて戦闘態勢に入る。

 

「何だよいきなり・・・!お前らの事情なんか知るか、八つ当たりすんじゃねえよ!!」

 

レックさんがジゴスパークの詠唱を始める。

 

それに合わせてディバインスペルを唱えながら、ボクは考えていた。

あれは・・あいつは確かに“破壊神”リトセラのはずだ。どうしてこんなことになってる?

 

・・まさか・・・この世界ではボク達の“本当の姿”が描かれるように、あいつもまた本来の姿と性質で現れる・・・そういうこと!?

 

やがてジゴスパークとイオナズン、そして畳み掛けるようにアルテマソードを食らい、破壊神は僅かに体勢を崩した。

 

 

「みんな壊してやる・・・全部なかったことにしてやる!!!」

 

 

周囲のシールドから黒い電撃の衝撃波が連続で広がり、痛みと痺れでボクらの動きを鈍くする。

 

「くっ・・・いい加減にしやがれ!!!」

 

アレルが放ったギガデインを追うようにして、アレフ様とロランが連続攻撃を叩きこむ。

 

黒い波動の刃を躱しつつリュカさんが回復呪文を唱え、エイトさんとエックスさんが二人で

同時にギガスラッシュを放った。

 

 

「・・これで大人しくなっただろ。おいサマル、あいつは一体何なんだ。破壊神とか言ってたが」

 

「そう、あいつは・・・ボクがいる宇宙で“ゲーム”の管理をしてるはずの破壊神なんだ。

でも、衣装や雰囲気が違う。たぶんボクの宇宙のあいつとは別物・・・」

 

「あのエノシアとかいう破壊神の仲間かな・・・だったら、倒しちゃった方がいいよね?」

 

「・・わからない。関係あるのかどうかも・・・まだ今の段階じゃ・・・」

 

 

その時、辺りに撒き散らされて漂っていた魔力が一気に中心に集まり、眩い光に変わって爆発した。

 

 

「!!」

 

「・・まだやる気か、あいつ!」

 

 

「いらない・・・いらない・・・お前らなんかいらない。何も出来ないニンゲンなんかいらない」

 

 

・・・無傷だ。その身体にはうっすらと白いノイズがかかっている。

どんなに攻撃しても、すぐに再生してしまうらしい。

 

 

「・・・誰も僕を壊してくれないなら・・・・僕が全部壊してやる!!」

 

 

光が走った。白い光。

 

赤い瞳に涙を溜めながらリトセラが放った白い光の糸が、ボクの前にいたレックさんの全身に絡みつく。次の瞬間にはその身体に強烈な白いノイズが走って爆発した。

 

「!!」

 

血と肉片が散らばり、雲海に向かって落ちていく。

 

「なッ・・・!!」

 

「・・・・・っ!」

 

 

間髪入れずにまた白い光が飛ぶ。エックスさんの身体に取り付き、強いノイズ音と共に破裂。

 

その血飛沫を浴びながらもボクは重力場を作り、レックさんの魔力が消えたことで落ちていくユーリルさんを追いかけた。

 

重力で落下を止め、様子を確かめる。

 

「う・・・ぅあ・・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

・・よく見ると、ユーリルさんの全身からは細かく薄い砂粒のようなものが流れ出ていた。

 

それは上に向かって煙のように伸び、やがて空気に溶け込んで消えていく。

 

やっぱり、ユーリルさんは自我を細胞レベルで吸い取られている。

 

ボクは重力を上に向けてシールドの中心まで戻った。

 

・・・もう数人しか残っていない。あの白い光を食らうと無条件で即死するみたいだ。

 

仕方ない、やり直そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---記録:17_285_E121 ≪15巡目≫ 終了

 

 

 

記録結果:パターンD

死亡人数:7

所要時間:約125時間

 

総合評価:ランクC

 

 

 

※実績4 “だれかぼくをこわして” が解除されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

記録:17_285_E121 ≪18巡目≫ 開始

 

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―5日目 10時55分―

 

 

 

「・・・・うぐっ・・・!!」

 

 

・・・これで4回目だ。今度こそこの戦いを、死者を出さずに乗り切りたい・・・。

 

あの白い光の攻撃だけは何としてでも避け切るようにみんなに言って聞かせた。

 

そして今回やっと、全員が全てを避け切ることに成功した。

 

みんな息も絶え絶えになりながら、なんとか死ぬことだけは免れた。

 

 

「うう・・・ぐううううああああああっ」

 

 

でもどうやってもリトセラを倒すことはできなかった。どんなに大きなダメージを与え続けても、瞬時に無傷の状態まで再生してしまう。

 

「・・くっそ・・・破壊神はべホマを使うって決まってんのかよ!?」

 

「いや、べホマじゃない・・・そもそも彼からは魔力を感じないよ。見ている限りだと、彼の意思とは関係なく勝手に身体が再生するらしい・・・」

 

リュカさんが落ち着いた声で呟いた。

 

 

「お前達はいつもそうだ・・・死から逃げる。どんな手段を使ってでも死から逃げようとする。

お前達生命体が死ぬのは決められた運命だ、そういうふうにプログラムされているんだ。

なのに必死に逃げようとする。少しでも長く生きようとする、どんな姿になっても!!

醜い!!醜いぞッ人間どもめ!!!」

 

 

赤い瞳が憤怒に染まり、再び禍々しい光を放った。

 

「!!」

 

・・避けられない、範囲が広すぎる!!

 

視界が白い光で覆い尽される瞬間、ボクは次の周回でこの戦いを避けることを考え始めた。

 

・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・?

 

・・・何も起こらない。

 

 

・・・・・・・ボクはそっと目を開ける。

 

 

「・・・・・・・・」

 

・・・別のシールド・・・白い光でできた巨大な壁のようなものが、ボクらの目の前にあった。

 

それがリトセラの攻撃を防いでくれたらしい。

 

「・・・・・?」

 

・・数秒後、そのシールドはノイズ音と共に消えた。

 

 

・・・そこには人影があった。おそらく、今のシールドを作った力の主。

 

 

 

 

「・・・いけない子ですね。突然いなくなったと思えば・・・こんな所にいたとは」

 

 

足元まである真っ白い髪と肌、全てが白だけで構成された長いドレスローブと杖。

そして、赤い瞳。

冷たく、低い声。

 

その人物は、自分を睨みつけるリトセラの頭を優しげに撫でる。

 

そしてゆっくりとボクらを振り返り、微笑んだ。

 

 

「・・・・こんにちは、皆様方。どうやら弟子がおいたをしてしまったようで・・・すみませんね。

どうか許してあげてください、なにせ生まれてからまだ4万年ほどしか経っていないので・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・!」

 

・・・こいつ、まさか!

 

「お前!・・やっと姿を現しやがったな、破壊神の親玉!」

 

ロランの声を聞き、白い男はさらに笑みを深くする。

 

「覚えていて下さったとは光栄です。・・やはり貴方がたはゲームに乗るおつもりはないのですか」

 

・・不吉な赤い視線が、ゆっくりとボクを捉えた。

ボクは思わず小さく息を呑む。

 

「・・・あなた・・・この分岐世界の人間ではないですね。

1_1_A01・・・ほう!これはまた凄いところからのお客様だ」

 

・・・・。こいつが・・・・・

 

「ご存知かと思いますが、ここは17_285_E121です。あなたのいるラインAとは全く別のパターンの宇宙。時間の流れももちろん違います。

あなたの世界にもこの子・・・リトセラがいたでしょうが、彼は今から約17億年後のこの子です。相変わらず私の言うことは聞いてくれませんがね。

・・せっかくなので自己紹介しておきましょうか。私はエノシアと言います。

序列第一位の破壊神です」

 

「・・おい。今ここでお前を倒しちまえば、このゲームは終わるのか?」

 

「それは・・・そうですね、おそらく。少なくとも貴方がたにとってのゲームは終わるでしょう。

その代わり、別の分岐世界がその分の因果を背負うことになりますが、それでもよろしければどうぞ」

 

「・・ねぇ・・・エノシア。もう・・・もうやめようよ。こんなの無駄だ・・・無意味だ。こんなことしたって何にもならない・・・・・・。

全部壊そう、壊して無に還そう。全部なかったことにしようよ。そうすれば僕達はこの永遠から解放されるんだ・・・」

 

「いいえ。それこそ無意味です。私達に有限などありません。

・・・・戦わなくてよろしいのですか?」

 

「てめえ、俺達を舐めてん――」

 

「うん。今は戦わない。ボクらには別の目標がある。今はおまえなんか相手にしている暇はない」

 

「サマル!?」

 

「いいんだロラン、落ち着いて。・・・・みんな、帰ろう。拠点に戻って調べ物の続きをしよう」

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・まあ、お前がそう言うなら」

 

「仕方ないですねー」

 

「なーんか不完全燃焼な感じだな。まあいっか・・・今日のところは見逃してやるよ」

 

「それはどうも。ではゲームの続きをお楽しみください。皆様、ごきげんよう」

 

エノシアはゆっくりと丁寧にボクらに向かって頭を下げると、隣にいるリトセラの肩に手を添えた。

次の瞬間、二人の身体はノイズに包まれて消えた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・・・・。おいサマル、どういうつもりだ?一気にこのゲームを終わらせられるチャンスだったのに」

 

「ううん。そんなのないよ、チャンスなんてない。もし戦ったとしても、また最初に戻るだけだから」

 

「・・つまり今の俺達ではどうやっても勝てないと?」

 

「勝つとか負けるとかそういうのじゃない。あいつらにそんな概念は通用しない。

ボクらの相手は別だよ」

 

地上へ向かって降下しながらの移動。まだ目を覚まさないユーリルさんを抱きかかえたまま、レックさんは不満そうな顔をしている。

 

レックさんだけじゃない。みんなどことなく何か言いたげな顔をしていた。

 

でも仕方ない。また無駄に周回するのは疲れる。

 

「・・あいつ、気になることを言ってたな。お前がもともといた世界はこことは全く違うパターンだとか何とか」

 

「うん・・・イザさんとユーリルさんには話したんだけどね。どっちかと言うとこの世界がすごく

特殊なんだ。ここだけ、今までボクが経験してきたたくさんの世界と違うんだよ。

でもそれはまた今度説明するね・・・」

 

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――――――――――――――

 

 

 

 

 

「・・・・・・!」

 

「お、おはよ。気が付いたか?」

 

数時間経ってようやくユーリルさんは目を覚ました。

 

でも何だか様子がおかしい。話しかけてもぼんやりと視線を返すばかりで返事もしない。

 

時々どこかを見つめながら苦しそうに呻いたり、かと思えば死んだように眠ったりを繰り返して、さらに数時間が経った。

 

・・・もう夜だ。

 

「・・・おーい、もしもーし?聞こえてるか?聞こえてるなら返事しろー」

 

ぼんやりと天井を見つめているユーリルさんの顔の前で手を振ったり、耳元で大きな声を出したり。でも効果はない。認識している様子はなかった。

 

「・・あの攻撃を食らったせいで、何かしらマズいことになったみたいだな。どうするサマル?

やり直すか?」

 

「・・・・・・・待って・・・。・・自我は・・・自我はあるんだ。ユーリルさんの意識をなんとかしてこの身体に戻してあげることができれば・・・」

 

「なぁーサマル、さっきからずっと言ってるそのジガって何なんだ?」

 

「えっと・・・自分のことだよ、何て言えばいいのかな・・・自分が自分であるっていう意識って言うか・・・。とにかく、たぶん今ユーリルさんの意識は別の場所に閉じ込められてるような状態だと思うんだ、それで・・・。・・・!」

 

そうだ。そうだった。あったじゃないか、前にもこういうことが・・・ボクの世界で。

 

ボクは顔を上げてレックさんを見た。きょとんとした顔で視線を返される。

 

「ねえレックさん、他の人の夢の中に入ることってできる?」

 

「・・・夢の中に?なんだそれ、どういうこと?」

 

・・できないのか・・・。イザさんと融合した後じゃないと、この能力は発現しないのかも。

 

「・・それもあれか?本来できないとおかしいことなのか?」

 

「うん・・・どうしよう、困ったな・・・」

 

・・・・やっぱり、リセットした方がいいんだろうか・・・。

 

「・・ん?」

 

チョコレートを食べながら端末をいじり始めたアレルが手を止め、眉をひそめた。

 

「どうしたの?」

 

「・・・なんかこの機械の調子がおかしいな。今までこんなことなかった」

 

覗き込んでみると、確かに画面にひどいノイズがかかっていた。

一応操作はできるけど、なんだか挙動がおかしい。

 

「あの破壊神と戦った時も身に着けてたでしょ、それ。その影響じゃない?」

 

アルスさんの言葉に、ボクもすんなりと納得した。電撃の攻撃が多かったし、電子機器に何らかの異常が起きてもおかしくはない。

 

「かもな・・・」

 

大きめの板チョコを一口で食べると(どうやって飲み込んだんだろう)、アレルはつまらなそうな顔でココアのお代わりを取りに行った。

 

・・・けど、数歩で足を止めた。

 

「・・・・・・治った」

 

「え?」

 

「ノイズが消えた。操作も元通りになった」

 

 

 

 

「・・・・?」

 

「・・・・・」

 

少ししてアレルは装置を睨みながら戻ってきた。するとその手にある端末から、また異音が聞こえ始める。

 

「またおかしくなった・・・」

 

「・・・妨害電波か何か出てるらしい」

 

アレルは少しだけ考えた後ゆっくりと、ソファで横たわるユーリルさんに視線を移した。

 

そして端末を持ったまま歩いてユーリルさんに近付いていく。

 

・・すると、画面のノイズとそれに伴う不快な音が一層大きく、激しくなった。

 

「・・・・・・え・・・」

 

「・・・・・」

 

ソファの前まで来ると、アレルは手を差し出してさらに端末をユーリルさんに近付ける。

 

画面はほとんどノイズで埋め尽くされ、一切の操作ができなくなった。

 

「・・・!」

 

「なんだこれ・・・どういうことだ?こいつが妨害電波出してるってこと?」

 

「・・・・・・」

 

アレルは黙ったまま、端末を見つめ続ける。

 

するとぐちゃぐちゃになった画面に一文字ずつ、短い文章が現れ始めた。

 

 

“た    す  け          て”

 

 

・・・!!

 

「・・・ユーリル・・・?」

 

アレルは何かを思い付いたらしく小走りで自分の部屋に戻った。そしてすぐに戻ってくる。

その手には、個人用ではない大型のユニット端末と分厚い本。

 

アレルはそれらを机に置き、小型端末とそのユニットを接続して、本をすごい勢いでめくりながら同時にもう片方の手でキーボードパネルを操作し始めた。

 

「・・・・・何してるんスか?」

 

「・・すげえ、何そのゴツい機械」

 

何事かと、リビングにいた他の人達も集まってくる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アレルは一言も喋ることなく、イングリッシュで書かれた本と大型端末とを見比べながら黙々と作業を続けた。ものすごい早さで。

 

大きな画面には少しノイズが走ってはいるものの、操作そのものに影響はないらしい。

 

しばらくすると、ソファで横たわっているユーリルさんの様子が変化した。

 

「う・・・・。・・でら・・れ・・な・・・・。・・・・こ・・・は・・・きど・・ま・・り・・・」

 

途切れ途切れに、だけどまるで誰かと会話しているようにも聞こえる譫言。

 

アレルは黙ったまま作業を続ける。

 

・・・そしてそのまま数十分が過ぎた。

 

アレルが突然手を止めた。・・見てみたら画面には大きなダイアログボックスが表示されている。

そして、文字の入力フォームと、“パスワードを入力してください”の文章。

 

パスワードの文字数は・・・・・・・・27ケタ。

 

「・・・・・・・・・・」

 

アレルは大きなため息とともに頬杖をついた。

・・さすがのアレルでも、これだけの文字数を計算で弾き出すのは厳しいだろうな・・・。

 

「・・・サマル・・・これはリセットしても無駄だ。この状況は間違いとかハズレとかじゃない。

正規ルートだ」

 

「・・・・そうみたい、だね・・・」

 

閉じ込められているユーリルさんをデジタル領域から救い出すためには、この27ケタのパスワードが必要ってことだ。

 

「この世界のどこかにあるんだろうが・・・面倒だなぁ。何かヒントがないかなっと」

 

アレルはダイアログボックスを一度閉じて、別の何かを探し始めた。

しばらくの間、パネルの操作音だけが静かに続く。

 

「・・・・・・・おっ。これ怪しいな」

 

アレルはホログラムの画面を手でスライドして、ズームする。

題名のない圧縮ファイルを選択し、解凍して開いた。

 

・・画面には、シンプルな文章がぽつりと表示された。

 

 

“鍵は既に、あなたがたの頭の中にあります”

 

 

「・・・・・・・は?」

 

アレルは少し苛立った様子でまたため息をつき、ファイルを閉じた。

 

「覚えてる文字の羅列を片っ端から書き出せってか。他には~・・・」

 

「・・待って・・・」

 

・・・・ボクは全身が少しずつ冷たくなるのを感じながら呟いた。

 

・・・・・・・知ってる。この言い回し・・・。以前聞いたことがある。

 

“鍵は既にあなたの手の中にあります”・・・・・これは第一ステージの、あの悪趣味極まりないダンジョン“トライアングルの中心”で見たヒントの文章。

 

そしてあの時、脱出するための鍵があったのは“手の中”。

本当に手の皮と肉の中、骨に挟まるようにして埋まっていた。

 

・・・・・だとしたら・・・だとしたら。

 

・・・“頭の中”・・・って・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・サマル、何か心当たりがあるなら教えろ」

 

「・・・・えっと・・・・・・・」

 

・・・・・27ケタのパスワード。

 

ここにいないナインさん、助け出す対象のユーリルさん、そしてリセットすることができるボクを除いて、みんな合わせて9人。

 

27を9で割ると3。

 

つまり一人の“頭の中”に、3文字ずつ・・・パスワードが“入ってる”ってことか・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・」

 

・・ボクが答えられないでいると、アレルはもう一度ファイルを開いて文章を眺めながら、眠たそうに欠伸を零した。

 

「・・・あぁ・・・・・ひょっとして、このまんまの意味か・・・・・」

 

「・・・・・・。・・・たぶん・・・・・・・」

 

「ふーん、じゃあさっそく試してみようぜ。意外とすんなり解けちまったな、謎が」

 

そう言って、アレルはすっかり冷めたココアを飲み干すと立ち上がった。

歩いて行って、壁に立てかけてあった剣を取る。

 

「え・・・ちょっと待って、ねえ」

 

そして談笑しているエイトさん達にごく自然な足取りで近付いていき、

 

 

・・一番手前にいたレックさんの頭を斬りつけた。

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

・・・声が出ない。

 

レックさんは勢いよく床に倒れた。ぱっくりと裂けた側頭部から血が溢れ出し、床に広がる。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エイトさんとエックスさんは何も言わず、唖然としてアレルを見つめた。

 

「・・・うーん・・・どの辺だろうな」

 

アレルは傷口に指を突っ込んで、レックさんの“頭の中”を掻き回す。

 

そして何か小さなチップのようなものを探し当てた。

血だらけの、指の爪くらいの大きさの薄い金属片。

 

それを3枚。

 

「・・・・・・・」

 

「・・あの・・・アレルさん・・・?」

 

「あったあった。ビンゴだぞ、サマル。この真ん中の文字がパスワードで、左上に添えてある小さい数字が並べる順番を示してるんだろう」

 

床にこぼれた脳みそをぐちゃりと踏んで、それをまったく気にする様子もなくこっちに歩いてきてチップをボクに手渡した。

 

「・・・・・・あ・・・・アレル・・・・」

 

「ん?」

 

「・・・・・・・・・。・・・何でもない。ごめん、ボクがやらなきゃいけないのに・・・・」

 

絶命したレックさんの虚ろな瞳を見ながら、ボクは震える右手を左手で撫でた。

 

「別にやりたくなければ俺がやってやるぞ。最後に俺の頭にあるのだけお前が取り出せばいい。こんなくだらないことまで意地張って使命感持たなくていいさ」

 

「・・・・・。・・・・そう・・・?」

 

呆然と見つめてくるエイトさんたちの視線に耐えられなくて、ボクはうつむいてしまった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

アレル様まじサイコパスやでぇ・・・。

 

 

 

 

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