喜び怒り哀しみ楽しむ序破急。

★周兵衛の映像感想忘備録★


40代半ばを過ぎて、今や過去に一体、何本の映画を鑑賞して来たのでしょうか?

基本的に、洋画、邦画、アニメに特撮と、ジャンルは一切問わずの乱観賞で、内容を失念した物も少なくありません。

あぁ、なぜ、ノートにでも観賞した映画の感想を、書き留めて置かなかったのだろう!!との後悔から、自分の為にブログの形で感想を書き留めていこうと思い立ちました。

周辺近くには、映像制作の撮影所が点在し、幼少の頃は、東映ヒーローを演じた名役者の方々との交流も、今は昔…


基本的に新旧再観賞問わず、また、劇場観賞、DVD観賞問わず、観たものを、リアルタイムに語りたいと思います

あと、時々雑感も。。


ネタバレありますのでご注意!!

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映像温泉芸社『デンキネコ』と『クドリャフカ』を考える。

昨年の2010年10月23日、池の上シネマボカンで、映像温泉芸社『デンキネコ検定』に行った。巷では猛烈な人気を誇る、温泉芸社の大看板CGアニメーション自主映画『デンキネコ』に特化した上映会である。
その、映像温泉芸社のイベントについては、素人集団(建前上ね/笑)が創るイベントとは思えない、めちゃくちゃ高度なクオリティを保つイベントで、これぞサブカルチャーの最先端だよ…と思えてしまう訳だが、ソレについてはまた改めて考察したい。

ここでは、『デンキネコ検定』に参加した上で、今まで観た中村犬蔵作品と併せて、作品主体にじっくりと想いを述べたい。コレは僕にとっての忘備録であり自慰的アナライズでもあるので、長文にならざるをえない。
僕の中では、今現在の自分が自分の為にソレをしておかなくちゃいけないと思う。なんたって、中村犬蔵作品はその殆どが、ご家庭のモニターで鑑賞する事が出来ない、とてつもなく稀少な作品群だからだ。
僕が僕の為に書く…というワケで、やたら文字だらけの長いページになるので、読むのはカッタるいだろうから、駄文読むのに時間を費やすのがおしい人は、別に読まなくてもいーからね!
つか、文体もかなり砕いてしまうのでご容赦のほど。


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さて、実は僕はこの中村犬蔵監督作品についてはペーペーの新参ファンである。どのくらい新参かと言うと、「デンキネコ」の原体験は約3年前(2008年)の映像温泉芸社本祭で鑑賞した『ネコマン』で、ま、そのレベルの新参者である。

初めてデンキネコを目撃するまで各方面から色々と噂は耳にしていた。
「映像温泉芸社の上映会は別格。」
「デンキネコ?ああ、ありゃもう、なんつーか、自主映画じゃねぇ。」
「野方の248席は毎回満席。」
「見たくても簡単に見られないから機会があれば死んでも観ておけ!」…
特に僕が敬愛する友人の中でも、容姿端麗な才媛たちが、口を揃えて『デンキネコ大好き♥』って目をハートマークにさせてやがるワケで、どれどれとネットで探してフォトを見ても短編映像を見ても、正直、もう一つピンと来なかった。こりゃ、オンナコドモが喜ぶアレとかコレみたいなタイプな感じなんじゃないか?などと舐めていた。

しかしだ、二年前、野方の芸社本祭で初めて『ネコマン』を観た時の驚きと感動ったら、もう…(泣)
あの日、あの時の、しゃーわせな時間を、多分僕は死ぬまで忘れないと思う。


●『ネコマン』
  2008/3/16 映像温泉芸社上映会その15他にて
 
『ネコマン』は、CGとエフェクト合成で制作された3DCGアニメーションで、看板キャラ;デンキネコが扮する『ウ○トラマン』パロディである。
元ネタから要所抽出、中村犬蔵映画に変換・構成し、極上の75分作品になっていて、色々とパロディ全開ではあっても、これは完全に中村犬蔵ワールド作品だと思う。なんたって、どの作品もシネマスコープなんだからシビレちゃうわな。
面白い事に、デンキネコファンでもある原口智生監督が『ウ○トラマンメビウス』の最終エピソードで、チラリとデンキネコにエールを送ったり
(一説では中村犬蔵監督とコンタクトを取りたかったらしい)してて、『ネコマン』はそれに対するアンサームービーである風に劇中ネタとして宣言したりしている(笑)
そんな小ネタは元より、その圧倒的に作りこまれた映像、ウ○トラシリーズ第一期の主要なテーマや味わいを見事に抽出し、中村イズムで構築するストーリーの見事さに、僕は完全に魂を抜かれちまったのだった。
何と言うか、ウ○トラマンに平成ガ○ラの映像質感とウ○トラセブン最終回のフリカケをパラパラとまぶし、制作時
(きっとメビウス放送時の2007年)の世相(それも中村犬蔵監督の琴線に掛かった諸々)をあくまでリベラルにパロディの範疇で挿入させている…って言えばいいかな。
ま、アレだ。ウ○トラ兄弟は出て来ない
(メビウスのカウンターか?)し、ウ○トラシリーズ第一期世代の僕らが感嘆せずにはいられない、とんでもない作品なのだ。

僕ら世代(昭和30年代後半生まれ)というのは、『ウ○トラマン』から強烈なトラウマを貰っちゃっている。やっと物心つく幼少時は、一連の虫プロア二メと東映アニメと米国製輸入アニメ、映画館で目撃するゴジラ・ガメラの怪獣たちに夢中だった訳だが、突如、TVのブラウン管に毎週登場する怪獣(『ウ○トラQ』ね)に唖然とした。ましてや、その後番組で登場する銀色の巨大宇宙人;ウ○トラマンには、もうしこたま驚いたんだよ。まさに、『ウ○トラマン』をリアルタイムに原体験した、その事の意味は、想像する以上に大きいんだと思う(ま、当時は同時期に『マ○マ大使』もあったけど)

その時期に生まれていなかった、且つ、まだ物心が確立していない乳幼児だった世代の皆さん、或いはその時期に、隣のネーちゃんに魂を捕われ出す青春の入り口にいる妙齢な兄さんだった世代以上の世代の大半の皆さんには、多分、判らない感覚に違いない。その、なんとも説明出来ない(してる人いっぱいいるけど)、同世代だけが共有する心情を、『ネコマン』は的確にキモを押さえ、細部に至るまで拘りつくし、笑いと涙と感動でサラ~ッと僕らに訴求してくるのだ。それは数多あるパロディ系作品の中でも群を抜いて僕らに迫ってくる。
なぜ、僕ら世代より若い中村犬蔵監督はこんな物が創れるんだろう?その謎は、今年の本祭で公開された『人造犬クドリャフカー』で垣間見る事が出来る。って、その話はまた後ほど。

『ウ○トラマン』第23話「故郷は地球」のジャ○ラのエピソードは、あの宇宙に打ち上げられたロシアの宇宙犬クドリャフカを何気に彷彿させたりなんかするわけだが、『ネコマン』ではこの「故郷は地球」を下敷きにしたエピソードもチョロっとあって、ジャ○ラを逆に宇宙犬クドリャフカとして登場させる。そして映画の終盤で宇宙犬クドリャフカは大活躍する訳(この終盤のキャシャーン展開は神!)で、涙無しには見られなかったりするんだが、よもや、次回作から主人公がデンキネコから宇宙犬クドリャフカにシフトするとは夢にも思わす…(笑)

しかし、個人レベルで表現する映像で、街壊滅シーンやら爆発シーンやらをあそこまでリアルに創り上げる事に、驚嘆しないではいられない。「怪獣映画のお約束」はどこに消えちゃったんだ?いやもう、これが自主制作映画だと思うと、なんちゅー時代になったんだよ、おい!と、時代に置き去りにされた自分を確認出来ちゃうよ、マジで。


で、その中村犬蔵監督の創る映像は、あの原口智生監督の『デスカッパ』に使われたそうで、原口監督の慧眼にも畏れ入る次第だったりするのだ。

●『地獄星』
  2009/2/28 映像温泉芸社上映会その16にて

2009年、野方の映像温泉芸社本祭で公開された中村犬蔵監督の新作は『地獄星』。この作品で主人公はデンキネコからクドリャフカにスイッチする。あ、別に『ネコマン』の続編って訳では無い。手塚治虫の「スターシステム」的にキャラクター活用してる訳で各々のキャラクターは中村犬蔵作品のアイデンティティでもあるんだろう。
僕的には原体験の『ネコマン』でのクドリャフカがインパクトマックスであまりに魅力的だったし、『デンキネコ』の過去作を知らず、思い入れも無かったから違和感がない…というより、むしろ大歓迎という立ち位置にいた。

そりゃ、PCのスペックはドッグタイムで進化してるし、フォーマットやメディアも進化するし、それに併せて映像制作系ソフトも進化する訳で、出来る事の範囲は広がっていくし、動きに制限のあるデンキネコの造型よりも自在に動かせるクドリャフカの方が表現の幅は広がるし面白くなるに決まってると思う。つか、中村犬蔵監督は名前もそうだしきっと犬好きだからなんじゃね?という部分もあったりしてww

この『地獄星』という作品は、母体となる既存コンテンツは僕には判らず、中村犬蔵監督のオリジナル色の強い作品だと思っている。とは言え、ゾンビ物を周到に下敷きにしていて、様々なトコロからネタを引っ張って散文的にパロディをも楽しめる作品にしているのは、相変わらずの犬蔵映画である。

プロットというか物語の構造は「東映まんが祭り」時代の東映動画劇場アニメ冒険談風
(『空飛ぶゆうれい船』とか色々思いだしたぞ)で、高畑勲や宮崎駿や大塚康生あたりが見たらニヤリとするんじゃないか?てか、この作品もそういう意味でも僕ら世代の魂を射抜いている事は確かで、そんな憧憬を共有する世代の合言葉なんだよ!って勝手に思うオレって先走ってるかもだが、それはスミマセン許して下さい。
そこにゾンビやらトランスフォーマーやら、若い人も映画ファンもTVドラマファンも誰もがドップリと楽しめる道具仕立てがしてあって多重構造エンターティメントになってる。個人的にはイスズエルフのコンテナ車がトランスフォームしたのが、めちゃくちゃツボに入ったッス(泣)


例えば、知的(思想とか社会構造の歪への風刺とか)な多重構造を仕込まれた作品と言えば、僕には黒澤明とか『もののけ姫』とか作家性の強い映画作品が思い浮かぶけど、『地獄星』(に限らず中村犬蔵作品全般)には、ベクトルの違う遊び的(パロディとかパクリとか)な多重構造が仕込まれていて、でも、それはちゃんと中村犬蔵監督のオリジナリティを持つフレームの上で遊ばしている訳だ。
それを中村イズムと考えれば多重構造の中にもそのオリジナリティは特出していて、何と言うか、表現の権利の難しい隙間でコソコソとイタズラを自分の枠で主張しまくる、ある意味、サブカルチャーの王道を歩いている感じが、なんかとてもカッコいいんだよな。
ハリウッドのちゃんと権利関係をクリアしたパロディ映画より、コソコソやる分、オモシロさ倍増なのは当たり前か。
正に、サブカルチャー…いや、健全な裏カルチャーのお手本なんだと思うんだよね、コレ。

しかし、アレだ。パロディは元ネタを知らない者には面白さが解らない…という硬質な意見を時々耳にするんだけども、中村犬蔵作品においては、その構成や作劇性や造形や演出を楽しめてナンボなんじゃねーの?と思うよ。そもそも元ネタの面白さを再現しているワケで、むしろ元ネタを知らない方が楽しめる一端もあるんじゃないのか?
正に「パロディ」という方法論が持つ面白さの多重構造。
遊びっってヤツは、創る方が楽しんでれば観る方だって圧倒的に面白いんだ。

ま、上映会場じゃ意味不明なトコロで、事情通を気取った変な輩の大笑いが起こったりするから、ついてけない感に襲われたりもするんだけどね。

劇場で鑑賞する映画ってさ、せっかくのスクリーン鑑賞なんだし、回りに影響されないでしっかりと自分の目で観なきゃダメなんじゃねーの?って中々難しいけどね…。ま、だから僕は自宅でじっくりと一人でDVDを楽しむ派なんだな。
ただ、作品のジャンルによっては劇場でその空気感を共有する事で面白さが倍増…てな作品(特に自主映画は)もある訳で、そういう意味では、両刃の剣ではあるのかもしれない。

前述もしたが、この作品はクドリャフカ映画で、本家デンキネコは登場しないのだが、耳を取り目を黒い眼窩にしアチコチがサビ塗れのゾンビとしてブラッシュアップされたデンキネコがワラワラ登場する。それは、雨宮慶太版『ハカ○ダー』に登場するモンスター化したキカ○ダーをチョロッと思い出させたりなんかして、これって、中村犬蔵監督のデンキネコとの決別か?…なーんてほど大袈裟なもんじゃないだろうが、きっとそういう風な気分だったんじゃないか?って勝手に妄想。
ほら、僕ってクドリャフカ派だからww


やはりキャラクターの動きや表情=表現性と考えれば、人間よりも軟体なクドリャフカの方が見ていて面白い、っつう事は、きっと動かしても面白いんじゃないかなぁ?で、きっとその表現に飽きたら、また動きに制限のある故に面白いデンキネコに帰って来るんだろうと勝手に妄想。
ま、アレだよな。手塚治虫の考えた「スターシステム」というキャラクター主義的世界観は、固定ファンにとっては嬉しい手法で、中村犬蔵作品は一作一作が異なる物語(『デンキネコ対メカデンキネコ』と『メカデンキネコの逆襲』と『琴似沈没』は連作らしい)なワケだが、「スターシステム」は守り続けてホシイと切に思う。だって、どのキャラクターもすっげぇ魅力的なんだもん。

●『人造犬クドリャフカー』
  2010/2/21映像温泉芸社その17にて

って訳で今年の映像温泉芸社本祭で公開された『人造犬クドリャフカー』なんだが、この作品にて僕は中村犬蔵監督の、元ネタの解体、分析、再構築が、凄く緻密に成されている事に驚くんだよ。元ネタは言わずと知れた石の森章太郎の『人造△間キカ○ダー』。
で、それって前回の『地獄星』のラストでチラリと予告されたんだが、その予告では、まさに赤と青の二色のキカイダー姿なクドリャフカの姿が登場した訳よ。ちょっとニヤリとしたわさ。で、首を長くして、期待して本祭その17を待ったさ。いよいよ初公開時、なんと40分と45分の前後編に分けて、イベントの最初と最後に上映
(ったく芸社社員も色々と悪知恵が働くよなぁ…なんて思いつつ)するんだが、前編のクドリャフカーを見て、鳥肌がたつ僕だったのだ。

「スイッチオン!ワン!ツー!スリー!」って変身するクドリャフカーは二色じゃない。
全身赤いのだ。これって、もう、キカ○ダーじゃないじゃん。でもキカ○ダーなんだよ。←ここんとこ、とても重要で、キカ○ダー本来のテーマに沿う事で、デザイン意匠が逆に完全に中村犬蔵監督のオリジナルだぜ!って事になっちまうんだよねww


本来、『人造△間キカ○ダー』というのは、不完全な良心回路(ジェミニィ)を完全な物にするという目的を目指す物語である訳よ。良心回路が不完全な為にキカ○ダーは左右に分断され、身体の右側は完全体に成り得ない…という重要なテーゼがあったはずなのだ。コレが週間少年サンデー連載時(TV放送同時進行)、僕らは、最後はキカ○ダーが良心回路を完成させ、全身青いボディになるんだ…なんて、おぼろげに想像してたりなんかした。

石の森センセ自身、キカ○ダーの分断されたデザインを会心の作と公言していたらしいが、当時の僕らにとっては、青い左と、スケルトンでメカむき出しの赤い右側というデザインは、どう考えても、学校の保健室だか理科室だかにあった人体解剖模型なワケよ。当時の石の森センセには、当然ながらアシンメトリーという美術概念の知識もあったろうけど、それを人体解剖模型ヒーローにしちまった事は、かなりのニュースではあったと思う。

ちと、話を逸らします。

石の森章太郎の変身ヒーローって常に孤高と苦悩に満ちているのね。その最初は、国民的大ヒットした『サイボーグ009』だと思うのだけど、009;島村ジョーは9人の仲間(ギルモア博士含む)がいるが故、孤高に成りきれ無い訳よ。苦悩があっても仲間と慰めあっちゃう。その後、本来の孤高を体現するヒーローとして登場したのが『仮面ライダー』で、実は、009島村ジョーと仮面ライダー本郷猛は、全く同じ発端でヒーローになるのね。
どっちも、拉致されて、悪組織にサイボーグにされて、脳改造される前に、謀反科学者に助けられて、悪組織から逃げ出し、人類の平和の為に悪組織と闘う運命を担わされる。
ところで『仮面の忍者赤影』の後番組でもある『仮面ライダー』って、東映から持ち込まれた企画物で「クリストファー・リーの『吸血鬼ドラキュラ』みたいな怪奇映画を意識した、モンスターと闘うダークヒーロー」ってな約束事があったらしい。それこそ、石の森センセにとっては、我が意を得たり!ってなもんで「島村ジョー」を見事に、ダークな運命を背負わされ孤高で悩めるヒーロー「本郷猛」に昇華したんだよな。原作版『仮面ライダー』は正に快作で、本郷猛の孤高と苦悩が漫画とは思えぬ程に深く描写されている。
しかし、残念な事にTVで本郷猛を演じる藤岡弘氏の撮影中の事故により、本郷猛は一文字隼人に変わり、ライダーは別固体たる2号となって登場する。それまで、暗い印象があったTV版『仮面ライダー』の世界観は、方向転換して普通の正義の変身ヒーロー物として、ま、栄華を極めて行く。
東映の企画物な訳だから、石の森センセもそれに合せて原作版で本郷猛を射殺しガラスの器に収まる脳髄(ハカイダーの原点だな)にしてしまう。続く二代目主人公の一文字隼人は、わりとノー天気で二枚目半となり、ヒーローの孤高と苦悩は描き切られる事もなく、というより苦悩と孤高は、むしろショッカーの怪人が直喩する事となり、原作版の重要なテーマが消失しちゃうんだよね。ま、それでも面白いんだけど。

で、東映から『仮面ライダー』の二匹目のドジョウの依頼があって『人造△間キカ○ダー』は生まれた訳で、きっと、石の森センセがライダーでやり切れなかった事をキカ○ダーに託したんじゃないだろうか?キカ○ダーの誕生はそのまま『フランケンシュタインの怪物』だし(そういや永井豪のキューティー・ハニーもそうだよなww)、デザインは人体解剖模型だし、不完全な良心回路は時々キカ○ダーをモンスターにしてしまう。

ところが、キカ○ダーのアシンメトリーがあまりに秀逸で、そのデザイン自体がキカ○ダーのアイデンティティになっていくんだよなぁ…。TV版キカ○ダーは良心回路が完成する事もなく、キカ○ダーの兄貴分『キカ○ダー01』に番組改変する。『01』は確かにカッコいいんだけど、僕らは01の登場で、もうキカ○ダーが青い完全体になるという期待を無くしてしまった訳で…。

驚いたのは、原作版の方で、こっちは『01』にスイッチしなかった。タイトルも『人造△間キカ○ダー』のままで、01;イチローは、脇役として登場するのみ。これは、まさにライダーの二の舞を避けたんだと思うんだが、確かにあそこで物語を転換するのはあまりに中途半端ではあったと思うよ。
で、とにかく驚愕したのは原作版のラストで、なんと良心回路は破壊されてしまう。二分され苦悩と共にいたキカ○ダー;ジローは、「良心」という枷から開放されて、01も00もビジ○ダーもダマシ打ちで破壊し、迷う事なく敵を粉砕する「人間の持つ残酷性」を会得する。…スゴイ(笑)
そうです。原作版キカ○ダーは、なんともはや、大胆な、アイロニー満載なラストで終わるのです。

当初、僕らが期待し予想していた青い完全体ボディのキカ○ダーは、概念的には、むしろ赤いキカ○ダーとなって物語が終わる事になって、かなりトラウマもらうヤツもいたに違いないww

でもさ、青い正義のキカ○ダーは『ロボット刑事』に進化したと思うんだよね。デザイン的にもさ。
「良心を持ったロボット」像という設定を深く構築すると、それってロボット刑事Kの設定に行きつくしかないんだよ。石の森センセのスゴさに改めて敬服しちまう次第…。

閑話休題。

さて、かなり話が逸脱したけど、つまり、中村犬蔵監督が登場させた全身赤い人造犬クドリャフカーは、もう、まさに、原作版キカ○ダーの後日談的なイメージを彷彿する訳で、それでも、このデザインは過去にまるで登場しなかった訳で、これほど意匠の隙間を突いた見事なパロディは比類ない!と僕は思う。

しかしながら、映画の冒頭、まさにオープニングで、キカ○ダーのテーマソングはそのまま活用。
エライ!逃げてないよ!これはキカ○ダーのパロディなんだよ!と宣言しちゃってるよ!これぞ温泉芸社!
オマケに、そのオープニングが、もう、メチャクチャかっこいいんだ(泣)
二重三重で驚かされちゃって、もうね、鳥肌たちまくり。それは正に『ネコマン』で受け止めた物に限りなく近い。あの頃の「憧憬を伴うカッコいい映像」になる理由を、きっと中村犬蔵監督は論理的にアナライズしてるんだと思う。その解析されたパーツ一つ一つに納得する理由があるに違いない。僕なんぞにはとても解らない部分ではあるけれど。


さて、このクドリャフカ、後半はハチャメチャな展開で、クドちゃんは選挙に立候補して総理大臣になってしまうという予想も付かない方向に話が進む。アレだよな。ちょうど衆院選挙の頃に創った展開なんだろうなぁww。しかし、選挙を舞台にする物語って実に面白い。面白いんだがこれって、ちゃんと物語は収束するのかおい?と思いきや、これまた、お見事に正しい「キカ○ダーの物語」として決着するのだ・・・。

本家キカ○ダーに登場するハカ○ダーは、良心回路を完成させる博士(ある意味キカ○ダーの父)の脳髄がその頭部のガラスの器に収納されている。これってさ、本当なら物語のカナメとも言える、凄まじく重要な設定なんじゃねーの?って思うんだよ。ドラマツルギーの観点から考えれば、ハカ○ダーはもっと物語の中枢に絡むべき大事なポジションなんじゃねーの?と。キカ○ダーを倒す事を本懐とする孤高のライバルをやってる場合じゃねーだろ?とか思っちゃう側面もあるんだよね。ま、TV版は後半の脚本を担当した長坂秀佳氏が好き勝手やっちゃったらしいけど(笑)
でだ、ま、その辺をものの見事にスッキリと、中村犬蔵監督はラストを盛り上げてくれちゃう訳よ。って、ここはジブリ版『ゲド戦記』のアレンの父殺しに対するアイロニーも感じたりするんだけどねww

散々、ヒネって、曲げて、読者を驚かせる展開を目指したに違いない石の森センセだが、本当は『人造犬クドリャフカー』みたいな、正道な物語の収束の方向こそが、キカ○ダーのあるべき物語の様な気もする僕なのだ。だって感動出来るし満足行くのだから。

ま、そういうワケで、僕は今年の映像温泉芸社本祭は、その他作品も含めて大満足した訳だ。
もう、本年4月の本祭その18も、今から楽しみだったりする。

さて、その後、驚く事に、アウトマンラボの上映会で、デンキネコの旧作を観る事が叶う。

映像温泉芸社専属女優;河野亜紀嬢の特集上映会だ。河野さんは、アウトマンの作品にも多数出演している。本祭その17でのリクルート案内を模した河野さんのMCがメチャクチャ良くて強烈な印象を残した訳だが、そこでアウトマンラボの河野亜紀特集上映会はあまりに狙いがタイムリーで、行かない訳には行かないじゃないか!
ましてや、声の出演をしているデンキネコ旧作の上映もするのだから尚更だ。


●『恋のユラユラ大作戦改め琴似沈没』
  2010/5/22カルト女優・河野亜紀の軌跡をたどる上映会にて

この作品、2007年2月24日に映像温泉芸社本祭で公開されたらしい。で、今回のアウトマン主催の上映会で何回目の上映になるのかは不明なのだが、当時は『デンキネコ 恋のユラユラ大作戦(仮)』というタイトルだった様で、今回は『琴似沈没』というタイトルに変わった様だ。本編まで手直しをしているのかどうかは分らないが今作は『日本沈没』パロディで、まさに『ネコマン』の前作に当たる訳だ。
結局、僕はデンキネコシリーズの進化を逆回転で体験する事になる。でだな、この『琴似沈没』だが『ネコマン』の完成度に負けてないんだよ。ま、同じ作家の作品だから当たり前なんだけどww
沈没するのは日本ではなく北海道の琴似商店街で、登場する中村犬蔵スターキャラクターの進化過程や誕生を垣間見ることになる。

コレ、樋口版『日本沈没』に対する強烈なカウンターになっている。それでも、中村犬蔵監督のパロディは元ネタを決して揶揄はしていない。主幹の元ネタ以外にあちこちから持ち込んだネタを挿入して視線を逸らされるのだが、全てのパロディでオリジナルに対する敬意はちゃんと表現していると思う。ってことはパロディというよりオマージュと言うべきか?
いや、やっぱりコレはパロディと言いたい。

石黒って名前のモノリスには大笑いさせて頂きましたww

でだ、この『琴似沈没』『ネコマン』『地獄星』『人造犬クドリャフカー』は、声をアテレコしてるのね。どうやら、映像温泉芸社社員総勢と、中村犬蔵監督の友人関係らしいのだが、その声がメチャクチャ上手いんだよ~!なんなんだ芸社員!密かに隠れてメソッドとかインプロとか猛稽古してるんじゃねーのか?なんて事をツラツラと自分勝手に思ったりしてゴメン!

『デンキネコ対メカデンキネコ』『メカデンキネコの逆襲』
  2010/10/23映像温泉芸社上映会『デンキネコ検定』より

このイベントは正に映像温泉芸社のカラーで創られたイベントで、謎の組織:ダー機関が主催している。
検定試験という名目で開催され、入場時に解答用紙が手渡されるのね。幕間に問題が発表され、3択から答えを選ぶのだが、なんつーか、出題と同時に回答も発表されるお笑いMCで会場を沸かす芸社らしいナマモノだったのでしたww
いや~~~面白かったよ!

サプライスとしては、なんとデンキネコファンだという原口智生氏が来場してて、『デスカッパ』の宣伝も兼ねて挨拶があったんだが、これまた面白かったなぁ。こういうサブカルチックな場所だから、ハナシに遠慮がない(笑)
思った事、言いたい事をズバズバと語ってくれたんだが、メチャクチャハナシが上手くて驚いたよ。

さて、本編の話に戻ります。
まずはこのメカデンキネコの素晴らしさを語りたい。
こりゃ、もちろんメカゴジラのオマージュなんだが、その元ネタは平成ゴジラに登場したメカゴジラじゃないのね。昭和ゴジラの『ゴジラ対メカゴジラ』『メカゴジラの逆襲』から、デザインをインスパイアしてるのだ。そうだよ。そうなんだよ。無骨でボルトがバスバス埋め込まれたメカゴジラにこそ、機械化されたゴジラのカッコよさを感じてしまうんだよ。あぁ、それは当然ながらジェネレーションの問題であって、平成メカゴジラが悪いって訳じゃない。
そもそもデンキネコが機械っぽいのに、それをメカ化するという発想が中村イズムなんだよな。デンキネコシリーズっていうのは、あえて、画像にノイズ入れてフィルム風にブラッシュアップしてる訳で、そりゃ昭和メカゴジラの方が馴染むわな。
この頃は、まだアフレコじゃなくて、ニャーニャー鳴くだけで、台詞は字幕で語られる。それがまた面白い!
とは言え、器用な芸社社員が声を充てるアテレコ版もとても見てみたいと思う僕だったのでした。
それにしても、CGだから故なのか、細かい部分の作り込み方がハンパないよ。これだけ作り込んでいながら、徹底的に遊んでる。それがスゴイ。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


今や、映像コンテンツは大概の物は見たい時に見られる時代である。レア物で無い限り、ウ○トラマンだってジブリだって仁義なき戦いだってスターウォースだってレンタルビデオ屋に行けば借りる事が出来る。いや行かなくったってネットレンタルで届けてくれる。繰り返し見たければ、ビデオでもDVDでもBDでも買えばいい。もっと簡単なのは、TVで放送したら録画しておけばいい。でも、映像のプレーヤーもレコーダーも無かった昔はそうじゃなかった。映画は上映期間を過ぎればリバイバルを待つしか無かったし、TV番組は見逃せば再放送を期待するしかなかったのだ。それ故に、一つの映像コンテンツの持つ価値は、大きかった。

中村犬蔵監督の作品は、そういう一つのコンテンツが本来持つべき価値観までもを僕らに思い出させる。
そうだ、中村犬蔵作品は、映像温泉芸社の本祭と、たまに行われる芸社系上映会にて犬蔵監督のOKが出た上映会でしか観る事が出来ないのである。まるで裕次郎の『黒部の太陽』だ。もちろん、様々な既存コンテンツを微妙に変えて流用する建前上趣味的性格を持つ作品なので、そう安々と簡単に公開する事は出来ないし、当然ながら商売の要素はカケラも無い。で、商売っ気のカケラも無い事が、簡単には公開しねーよ!という重要でお見事なエクスキューズになるわけで、この作品群の価値を高める相乗効果となるのは、あちこちで宮崎駿が書いてる『映画はお祭りたるべき』という話と同じだ。ファン心理として残念ながらも、賛同しない訳には行かない。
「自主映画上映会」というイベントの意味や価値を改めて深く自認する事になるし、温泉芸社の皆様に感謝する僕なのだ。

何か思い着いた事をダラダラと書き留めたんだが、まだまだ言いたい事はある感じがする。でも、それはこの作品群をじっくりと二度三度と鑑賞・確認してからじゃないと、言っちゃいけない気もする。
以前にDVDで発売された『デンキネコ 日本列島改造計画』についても語りたいが、それはまたの機会に。

何にせよ、2011年の今年の本祭は4月30日土曜日に「映像温泉芸社上映会その18」として野方区民ホールで、開催される事が決まっているらしい。全て新作だ。クドリャフカも新作が観られるんだ。これは、これだけは、何があっても行かねばなるまい!だ。


ダラダラと長えぇ駄文を、最後まで読んでくれたなら感謝します。色々と思う事、言いたい事はあるでしょうが、ここはあくまで僕の忘備録という事でご容赦下さいまし。内容的にかなりネタばれがあるので、しばらくしたらこの記事は、アメンバー限定公開に切り替えます。

最後に朗報。

4月30日の本祭に先がけて、来る1月29日に再び『ネコマン』を観る事が出来ちゃうぞ!

『映像温泉芸社上映会特別編 ~この上映会には、まだ名前はない~』
日時 1月29日(土)  開場13:45 開演14:00 (終了予定時間 16:40頃)
会場 野方区民ホール(西武新宿線野方駅下車徒歩5分)
入場料 1,000円
上映作品 『ネコマン』接触編&発動編(合計75分)他
詳細は公式サイトで。 http://geisya.web.fc2.com/

あえて言わせて頂きます。
「観たくても簡単に観られないから、
 この機会に絶対に観ておけ!」



フッと思ったんだけど…
犬蔵監督って、実写ならどんな作品を撮るんだろう?

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幸福のスイッチ (2006)
7月24日通りのクリスマス (2006)
シュガー&スパイス 風味絶佳 (2007)
スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ (2006)
それでもボクはやってない (2007)
【た行】
椿山課長の七日間 (2007)
手紙 (2007)
どろろ (2007)
【な行】
日本沈没 (2006)
猫目小僧 (2006)
【は行】
バックダンサーズ! (2006)
バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 (2007)
武士の一分 (2007)
FRIENDS (2007)
【ま行】
マン・ハンティング (2010)
地下鉄(メトロ)に乗って (2006)
メゾン・ド・ヒミコ (2005)
DVD日本名画(過去名作)
【あ行】
【か行】
蒲田行進曲 (1982)
幸福の黄色いハンカチ (1977)
【さ行】
素晴しき日曜日 (1947)
【た行】
椿三十郎 (1962)
椿三十郎 (2007)
【な行】
【は行】
【ま行】
問題のない私たち (2004)
【や行】
用心棒 (1961)
DVD外国映画
【あ行】
硫黄島からの手紙 (2006)
アンダーワールド2:レボリューション (2006)
イルマーレ (米国版2006)(韓国版2000)
【か行】
カーズ (2006)
ゴーストライダー (2007)
【さ行】
Gガール 破壊的な彼女 (2006)
守護神 (2007)
シン・シティ (2005)
ステイ (2006)
スパイダーマン3 (2007)
【た行】
トンマッコルへようこそ (2006)
ドリームガールズ (2006)
【な行】
【は行】
ハイジ (2006)
アン・ハサウェイ/裸の天使 (2005)
パヒューム~ある人殺しの物語~(2007)
ハンニバル・ライジング (2007)
「変態村」と「変態男」で変態三昧
ブラック・ダリア (2007)
パンズ・ラビリンス(2006)
【ま行】
【や行】
【ら行】
ロッキー・ザ・ファイナル (2007)
DVD外国名画(過去名作)
【あ行】
アメリカン・スナッフ (2003)
アンダーワールド (2003)
エクソシスト (1973)
オーロラの彼方へ (2001)
【か行】
【さ行】
【た行】
小さな恋のメロディ (1971)
トランスアメリカ (2005)
【な行】
【は行】
バタフライ・エフェクト (2005)
羊たちの沈黙 (1991)
【ま行】
マッハ!!!!!!!! (2004)
【や行】
【ら行】
ロッキー1,2,3,4,5 (1976~90)
TVドラマ作品
刑事一代 平塚八兵衛の事件史(2009/6./20.21)テレビ朝日
DVDカルチャー映像作品
フリーアナウンサーが教える"売れる話し方"とイメージアップ術(2009)
劇場観賞映画
【2007年】
「椿三十郎」2007版初見感想
「愛に飢えた獣たち」+「コンテナ」コラボシアター 2007
ヱヴァンゲリヲン新劇場版~序~」初見感想。
「ピアノの森」原作考察と映画感想。2007
「ハンニバル・ライジング」 2007
【2009年】
「湖(うみ)の中の観覧車」(富士山・河口湖映画祭)2009
宇宙戦艦ヤマト 復活篇(2009)
自主制作映画
「B-SHOT PICTURES 怪奇劇場Ⅲ」(2007)8/11・9/16《感想改訂版》
「アイノエイガ」電丼企画自主映画上映会(2009)1/18
「チャリティ映画祭 グランド・ムービー・カーニバル2009」DRAGONMovie企画上映会(2009)2/1
映像温泉芸社上映会その16「私は芸社をゆるさない」(2009)2/28
「BLACK・WINGS」ウィングス・電丼自主映画上映会(2009)6/20
マシュ~こと立花修一氏を偲ぶ。
マシュ~こと立花修一氏を偲ぶ(2)

マシュ~こと立花修一氏 一周忌追悼上映会のお知らせ

(この上映会は終了致しました。)

ここ最近、日々、胸がギュッと締め付けられる様な思いがつのっている。

間も無く、マシュ~さんが亡くなって一年になる。
この一年、当ブログもSNSもあまり書けない心情にいた事は、容易にご高察頂ける事と思う。

何にせよ、一年が経つ。

という訳で、一周忌命日に追悼上映会を開催させて頂きます。

昨年の今頃を思い出すと、いまだに色んな想いが頭の中を巡っていく。
僕の中には、相変わらずマシュ~さんがアグラをかいて居座ってやがるし。

マシュ~監督の遺作『アネモネ』は、結局は色々と止むを得ない事情が交錯し、制作は止まっている。
本来なら、遅くともこの一周忌の時期までに、『アネモネ』を完成させて、追悼上映を行なうつもりでいた。
マシュ~さんの一周忌をタイムリミットと決めていた。
しかしながら、本当に止むを得ない事情が重なりに重なって、完成させる事は出来なかった。

色々と思う所もあって、色んな方々に色んな意見を伺った。
自主映画監督としてのマシュ~さんに敬意を払うなら、追撮は行なわず、撮られた映像だけで編集して未完作として作品化するべきじゃないのか?という意見が圧倒的に多い。
なるほど、まさに正論。

でも、マシュ~さんの遺志は、この作品を未完作品として発表する事を是とするのだろうか?

自作について、編集が終盤にかかり完成の目処が立つまでは、一切作品についての情報を洩らさなかったマシュ~監督である。
どのクリエイターも持ち得る、自作に対するある種のプライドがあるとするなら、マシュ~監督は作品を完成させるというその一点にこそ、プライドを持ち得ていたのではないだろうか?
ましてや、撮影自体はその9割方を撮り終えている。

残り、数シーン。

その追撮の行方は迷走しそうだ…。

いずれにしても『アネモネ』は必ず作品(未完作品となっても)にして、いずれ皆様にご披露させて頂くつもりだ。
今回の上映会では、『アネモネ』予告編だけ上映する。
多忙な折に、何とか時間を作ってくれた神宮司氏の手によって、2分10秒の予告編が完成した。
この作品の為に書き下ろされた神宮司氏の曲が映像を良くしている。

この予告編、本編の制作進行が再開されるまで、多分、今回限りの上映になると思う。

さて、彼の故郷・松山では、去る6月19日に一周忌の法要が執り行われた。
我ら、自主映画仲間の間は、あくまでマシュ~さんの命日に彼を偲ぼうよって上映会にするつもりだ。
なので、もし、お運び頂けるなら、かしこまらずに普段着でお気楽にご参加頂きたい。
明るく楽しい上映会にしようと思っている。

「マシュ~監督ってよく知らないけど、一体どんな作品を創ってたんだ?」と、ご興味をお持ちになった方も是非、足を運んでいただければ嬉しい。


『マシュ~こと立花修一氏一周忌追悼上映会』

日時: 2010年7月10日(土)

開場:13時30分

開映:14時00分

場所:高田馬場
   「BABACHOPシアター」 
http://www.babachop.com/
   (東京都新宿区下落合1-7-11 栄新ビル1F)
    地図 http://www.babachop.net/theater/map.html

料金: 800円

上映予定作品(上映順未定)
『Concerto (コンチェルト)』 (28分)
自主映画の撮影途中で交通事故で亡くなってしまったはずの主演の女の子が、監督の覗くビデオカメラのファインダーの中に突然現れて、作品を完成させようと持ち掛ける。
監督と共演者はファインダーの中だけに登場する彼女と共に撮影を続行していく…というアイディア溢れるファンタジー。
今、改めて観賞すると「マシュ~監督も一度、ファインダーの中だけでいいから出て来いよ!」と願わずいられないかも知れない(笑)
マシュ~監督が「僕の初監督作品・・・。という事にしておいて下さい。この作品以前の監督作品は封印したい(笑)」と冗談っぽく言っていたが、マシュ~監督らしい完成度を持つ力作。

『紅葉』 (30分)
神宮司聖氏との共同制作ながら、マシュ~監督の「姉妹物」の代表作。
映像クォリティの高さは見事で、風景自然描写の美しさは圧巻の一言。
恋人の死によって姉妹の内包していたインモラルな感情が顕在化する…という、それはそれはとても深くてヤバい話なのだが、時間経過を前後させる構成が、インモラル描写を凄まじく上品に仕上ている。
マシュ~監督にとって『姉妹』というのは、ある種のキーワードだったのかも知れない。

『夏の終わり1 ~幻影~』 (5分)
某渓谷にバーベキューに行った時に、ついでに何か撮ろうって事で出来た作品だそうだ。
いよいよ夏が終わり、去ってゆく夏の妖精を目撃する少年…。
マシュ~監督自身が「映像ポエム」と言っていたが、映しこまれる晩夏の渓谷の自然の美しさは、マシュ~監督ならではの映像。

『夏の終わり2 ~初恋~』 (7分)
この作品は、まさに直球の映像ポエムで、自然風景と姉妹を美しく表現する方法論として、マシュ~監督には一番感性に合うスタイルだったのかも知れない。
詩に併せて台詞は字幕で表現されるが、最後に実声で台詞が語られる。
そこには『紅葉』に近い、姉妹の内包するインモラルがさらりと含まれていて、美しい映像と音楽で語られるテーマの奥底に、マシュ~さんのリビドーを感じたりなんかして…(笑)

『夏の終わり3 ~星の約束~』 (16分)
「遺作」の本来の意味から言えば、この作品がマシュ~監督の遺作である。
姉妹、死、風景、ファンタジーと、マシュ~監督の得意技連発作品だが、夏の終わりシリーズのシメとして中々良い作品になっている。
『Concerto (コンチェルト)』でも描かれる、マシュ~監督が持つファンタジックな死生観が、今作では心地よい観賞後感を創り上げている。
マシュ~監督が良く言っていた「女の子を可愛く撮る」という嗜好的表現煥発作品。
ま、どの作品もそうなんだけど(笑)

『アネモネ 予告編』 (2分10秒)
諸事情で帰郷中の神宮司聖氏が7月2日に上京した折に、半日かけて編集・制作してくれた。
作品に合せて書き下ろされた新曲「ANEMONE」がメチャクチャ良い曲で、映像と相まって素晴らしい予告編になっている。
この予告編を見て、完成作品を観たいと願うのは僕だけなのだろうか?

この他、インプロモーティブに密着して撮りあげたドキュメンタリー
『ドロー ザ カーテン』 (約20分) も、上映予定。

どの作品も「B-DASH」をはじめ、色んな上映会で何度となく上映されているが、マシュ~監督が亡くなって一年、改めてこれらの作品をスクリーンで鑑賞しつつ、マシュ~さんを偲びたいと思うのだ。
皆様、どうぞご無理なさらず、お時間が合いましたら、是非是非、高田馬場までお運び下さい。

上映会終了後、近くの居酒屋で打ち上げもあるので、どうぞお気楽にご参加下さい。

(この上映会は終了致しました。)

マン・ハンティング(2010)

$喜び怒り哀しみ楽しむ序破急。

越坂康史監督の骨太な新作がやっと登場した。
骨太と言っても、意図的なエクスプロイテーションムービーとして制作されている事はミエミエだったり(つかご本人が公言してるし)するのだが、越坂監督の事だからタダでは終わらないだろうと期待満々(笑)

いやはや、待ってましたよ、僕はww
わくわくして、近くのGEOに行くも、いつも貸し出し中で中々借りられず…。
しかし、キワモノを定価で購入するのは何ともクヤシイww

で、何とか、やっと観る事が出来ました。

いやはや、僕の期待に十分に応えてくれてました、ハイ。
タダのエクスプロテイションムービーで終わっていません、ハイ。


越坂さんの膨大な映像制作実績を顧みれば、個性を噴出させる作家的な映像作りはしない監督だが、その制作手法は堅実にして確実でとても安定している。
どの作品も根拠に基づく映像作りが成されていてプロの映像作品として安心して堪能出来る。

で、たくさん引き出しを持ってるんだよね・・・。
まったく、映画学校の先生みたいだ。

越坂監督のブログ「俺ならこう撮る」は作り手側から客観的に考察する映画批評ブログで、目からウロコな話もあってとても面白い。

さて、この「マン・ハンティング」なんだが、アルバトロス売れ線の「NAKED」シリーズの日本版として制作されたらしいが、僕はオリジナルの「NAKED」シリーズは全くの未見で相対出来ず、そういう立ち位置でこの作品を語りたい。

ガールズムービー作家をご自身で標榜する越坂監督は、満身創痍で人間狩りから逃げ惑うセーラー服の女子高校生…という、やはりガールズムービーの一端としてこの作品を創ってたりなんかする
突き刺さる矢、噴出す血飛沫、剥き出されるオッパイ…。
って、もう、頭からつま先までエクスプロイテーション感満々じゃん(笑)

人間狩りというベタなプロット自体は最初からネタバレしている訳で、鑑賞側はどうしても残酷な映像表現を期待してしまうトコロなんだが、そこだけに期待集中すると、せっかくの映画のテーマを読み取る事は出来ないので注意が必要。

主演は、AKB48の元研究生でもあった金子さとみさん。
割と実年齢より大人びた印象の女の子だが、メイクさんの腕が良いのか、見事に黒髪の似合う普通の女子高校生になっている。
演技的にはまだまだ荒削りながら、関係者の話によると現場は相当に過酷だったそうで、彼女のガンバリは並大抵の物ではなかったらしい。救急車を呼ぶ事になるほどの体当たりの仕事は十分に見ごたえを作っている。
もちっと緩急のある演技が出来れば、とても良かったと思う。

19歳の金子さんが考え、解釈し、表現する「高校生」像は、客観的に考えると中々面白い。
今の高校生が極限の状況に追い込まれたらどうなってしまうのか?その辺の演技とリアリティの狭間で苦労したんじゃなかろうか?
何より、スッピンに近いナチュラルな高校生メイクは彼女本来の美しさを見せてくれている。
知人の某監督が言う「映像で『人間』を表現する」とは、こういう事なんだろうと妙に納得。

おまけに彼女が胸をさらけ出し苦悶に喘ぐ姿は十分にニュースなのかもしれない。
人間狩りという極限の状況故のナチュラルにパンツ丸見せなトコロは素直にオイシイです、ハイ。

いや、若く美しい女子の裸体が、この手のホラーにどうしても欲しい絵である事は、一鑑賞者の僕でも期待しないではいられない。
本家「NAKED」シリーズでも評価の高い第一作はその辺の渇望にちゃんと応えた作品なんだそうで…。
(ま、本家では、ある種のメタファーとして裸体が存在したらしいが…)

さて、この作品、冒頭いきなりヒロイン:ノゾミの妊娠のゴタゴタからスタートする。
ノゾミのたった一人の肉親でもある兄:トシヒロは激怒し堕胎させノゾミと恋人:アツシを引き離してしまう。

ノゾミの囁く「嫌いよ…大嫌い!」はどこに向けられた思いなのか?

堕胎手術の最中、夢想か現実か、仕切られたカーテンに映し出される手術中の医師のシルエットをノゾミは目撃するんだが、このシーン、リアリティは無いがリアル…というまさに夢想と現実の混在を上手く表現していて、この作品の象徴的なシーンだと言える。そして、術式が終了し、血塗れのグローブを脱ぎ捨てる医師。
ここが、この作品のラストに繋がる重要な伏線にして要となるんだよね。


日常に戻った(と思われる)ノゾミのケータイに、彼から送られてくる独りよがりで異様な違和感を感じさせるストーカーチックなメール。
それを見て再び「嫌いよ…大嫌い。」と囁くノゾミ。

妄想か現実か、時間や空間を超越する冒頭シーンの流れは、鑑賞者をミスリードさせる為のレトリックな映像が仕組まれていて、それは作品のラストに結実する。

この辺をチャラっと流して観ると、この作品の面白さは半減するから注意。

さり気ない日常から画面が転換し、どこだか解らない山小屋の中でノゾミは眠りから覚める。
瞬間、ヤバい空気を感じてパニック状態になるノゾミ。
『罰が必要だ』とか『ノゾミは恐怖に震え泣くだろう』なんてヤバいメールが日々散々来てて、ある日目覚めたら知らない山小屋だった…なんて状況になりゃ、誰でもパニくるだろうよ。

そこで、いきなり登場するレインコート姿にボウガンを持つハンター。
いきなりボウガンで矢を射られる(外れるけど)ノゾミ。
ボイスチェンジャーによる人工的な声でハンターが言う。
「逃げるか?ここで死ぬか?・・・・・決めろ。」

「なんでー?」自問しながら必死に逃げるノゾミ。

ここから、深い森の中で、ハンターとノゾミの狩猟ゲームが始まる。
まさにマン・ハンティング。





■■■ここからネタバレ要注意!■■■


で、「day1」「day2」と日にちをカウントしながら4日間で、ノゾミはとことん傷めつけられる。
身体のあちこちに矢を射られ、ナイフで切られ、血塗れになる。
裸足で疾走する左足に木が突き刺さり貫通したりとかね。

ま、足を貫通した木がブラブラしてるのは愛嬌か(笑)
監督によると、小さいモニターで編集したので気がつかなかったそうですw

直線的な移動、スピード感のあるカメラワークとカッティングが素晴らしい
恐怖感を醸すホラーというよりは、アクション映画のそれに近い。
日中が舞台だからそう感じるのか?
逃げる者と追う者の追跡劇を映像表現するならこうだよ!っていう教科書みたいだ。
で、こういう演出が越坂監督の真骨頂とも言える。


鬱蒼とした森を抜けて穏やかな渓谷に抜け出た時とか、アスファルトの一般道に抜け出た時なんて、映像の空気感の変化に、僕はある種のカタルシスを感じたけどなぁ・・・。

いや、金子さとみさん、キレイだわ。
がっつり目メイクしなくても十分に目ヂカラあると思う。

2日目の夜に、ハンターが懐中電灯でノゾミを殴りつけでノゾミが気を失うんだが、その倒れ方なんかリアルでいい演技してると思うよ。
ただ、このシーンはBGMが無い方が恐怖感が倍増したんじゃないだろうか?


さて、ノゾミが気を失うとハンターは、いそいそとノゾミの怪我を治療するんだよね。

つまり、ハンターの目的はノゾミを殺す事ではなく、単純にノゾミを獲物に見立てた狩猟ゲームである事を理解させられるんだが、ハンターは別にそれを楽しみでやっている様には思えない。

ここで冒頭のメールの内容から、ハンターの正体は元彼のアツシか?なんて思わせるワケよ。兄のトシヒロも写真付のメールでハンターに呼び出されるし、こりゃアツシの復讐劇なのか?と思わせる。
って、実はどれもコレもミスリードさせる為のレトリックだったりするんだけどねww

「day3」になって、ノゾミを助けようとする通りすがりのカップルの状況は、ハンターの意図が混乱して狂人化していくヤバさを感じさせるんだが、ここで物語のベクトルが迷走しだす(様に感じさせる)。
それまでに感じてた、ある種の秩序感というか、ルールのある人間狩りゲームという安心感が粉砕されちゃう。

正に救い様がないじゃん!って状況に堕ちて行くんだが、ここ、本当に上手いと思う。

「day4」で、やっと兄:トシヒロがノゾミ救出の為に登場。
救い様の無い状況の中で、兄の登場は一つのカードとしてフラグが立つ思いになる。でも、結局はハンターの前じゃ兄貴もカタナシ。
つか、ここで兄がボウガンを置いて行くシーンに、ドリフのコントみたいなツッコミを入れたくなるんだが、ちゃんと伏線になっているから意地悪な演出だよww

ここから、一気にクライマックスに突き進む。

ハンターの正体と思っていたアツシは、拉致られて捕まっている。

ノゾミ、アツシ、トシヒロ、ハンターと、登場人物総登場のクライマックスで、事の真相が二転三転しつつベールを脱いでゆく。
ノゾミを救う為に始まる、兄;トシヒロと、元彼;アツシの死を掛けたゲーム。

黒幕は○○だったんだが、もう、ミもフタもない最後が待っている。

あぁ~この辺はさすがにネタバレは出来ないよなぁ~!

結局ね、ハンターの正体は最後まで明かされない。つか、ハンターは本来の使命を途中で捨ててしまって、矛先を自らの興味の欲求を満たす事にシフトしちゃったって事なんだろうなぁ。
「私は痛みを感じない。だから見たい。ヒトの痛みを…」とハンターは狩猟の目的を語るんだが、ハンターの正体にはちゃんと裏設定がある事は明白だよな。

最後に、ヒロイン:ノゾミはズタズタのナマスに切り刻まれます。
切り刻まれて、命の途絶える最後に彼女が見た物は、ハンターが脱ぎ捨てる血塗れのグローブ。

ノゾミは、自ら絶ってしまった自分の胎児と同じ運命を辿ってしまったワケね。

人工中絶の方法は、掻杷術が一般的で子宮内の胎児を掻き出すらしい。
これが22週以降の後期堕胎になると、胎児の頭蓋を粉砕し胎児を切り刻んで掻杷するそうで…。

思想、宗教、医学、倫理、あらゆる観点で人工中絶は是非両論に分かれ議論は尽きない。
ただ、確実に言える事は、如何な理由があろうと堕胎は合法的な殺人である…という考え方を否定は出来ない。


そう考えるとハンターは、殺された胎児の代弁者であり復讐者…という見方も出来ないではない。
そこから遡ると、この作品、中々深かったりするのだ。

とは言え、堕胎の是非というのは難しい問題で、安易に主張しづらい事を、越坂さんはこの作品でさりげなく謳っている。

作品自体は、サラリと見流せば、全く持って救い様の無い、後味の悪いサスペンスホラーで、B級C級と言われれば、正にそれは越坂さんの狙い通りなんだろう。
でも単に、エクスプロイテーションムービーとしての一本…という一言では片付かない仕掛けが施されていて、むしろ見る側の鑑賞力を試す一端も感じる問題作と思う。

星星星星

「小さな大きな富士山と」第3回富士山河口湖映画祭(2010)2/20

昨年に続き、富士山河口湖映画祭に行ってきた。
もう、あれから1年経ったのか…。

前回はマシュ~こと故・立花修一氏と盟友のイチバミホ嬢と三人で馳せ参じたが、今回は、茨城の龍ヶ崎で自主映画制作活動に邁進している「BLACK WINGS」主宰の小菅氏と二人で向かった。
小菅氏はクルマでわざわざ僕の住む川崎まで来訪し、僕を拾って河口湖まで走り抜いた。
ドライブというにはかなりの距離を走破した。
いやはや、大変お世話になりました。

突き抜ける様な晴天で富士山がえらく綺麗だった。そんな吉日の映画祭ながらオヤジ二人の富士山ドライブとは侘びも寂びも花もなく…二人で残念がってた事はここだけの話…。
いやはや、小菅氏には本当にお世話になりました。
来年は女性も誘って大人数で行こう(笑)

さて、この映画祭の最大の目玉はシナリオコンクールとそのグランプリ作品の映像化である。今年も3回目になるがグランプリシナリオが映像化されるのは前年の受賞作品である。つまり前回第2回のグランプリ作品が、今回の第3回映画祭で映像作品となってお披露目される。

今回の映画作品は、第2回でグランプリを勝ち取った、
石田晶子さんの『小さな大きな富士山と』。

前回の審査委員長ジェームス三木氏イチオシのシナリオで、グランプリと審査委員長賞のダブル受賞を果たしている。
メガホンは、前回に続いて、DRAGONMovie事務所の阿部誠監督。

阿部監督は、自主制作映画ではかなり多くの作品を残している。
ここ数年、自主映画を観る機会の多い僕は、そちらの方で阿部氏とは仲良くさせて頂いてるが、ある意味この河口湖映画祭は、阿部監督にとっても桧舞台であると思う僕がいる。

今年も阿部監督が撮ると聞いて河口湖に向かう決心をした。

ちょっと心配だったのは、作品が完成するといつもポジティブに自作を語る阿部監督なのだが、今回に限ってはかなり弱気な話をしていた事だ。
「この作品、面白くなっているのだろうか…?」
阿部さんにしては珍しく、相当に弱気発言がこぼれたりしていたのだった。

確かにタイトルから想像しても、阿部監督が得意とする分野ではない様に思っていた。
孤高な独身が旗印の阿部誠監督が、家族ドラマ…。おいおい大丈夫か?
な~んて思ったりした。
そういう事もあって、僕も小菅氏もかなりハードルを下げて鑑賞したのだった(笑)

で、まずは一言。

面白かった。
鑑賞後感が爽やかでとても良い作品になっていたと思う。


相変わらずの阿部流は色々と突っ込む所は健在なんだが、見終わった後に「良い作品だった」と思ったのはハードルの高さ云々に関わらず率直な気持ちである。

鑑賞後しばらくしてから作品集でオリジナルのシナリオを読んでみたのだが、阿部監督はやはり今回も僅かに改変を行っていて、それが作品に深みを醸していた様に思った。

オリジナルのシナリオは、老人ホームモノのベタな展開にちょっとヒネリを加えたホームドラマである。
伏線がとても気持ち良く収束するし、現代に合った秀逸なヒネリがオチになっている。
しかし正直なところ、昨今の若者に媚びてる印象もあり、ヒネリに予定調和な強引さを感じないでもない。
だが、それを凌駕する程に、家族愛が溢れる爽やかな物語になっている。
作品集の中の他入賞作品と比べても、このシナリオがグランプリを取る事は、素人の僕でも理解出来た。

ただ、このシナリオをそのまま映像化すると、バラエティ番組の再現ドラマの様な軽い作品になってしまいそうな印象もあった。
阿部さんは、そのテレビ的なシナリオをあえて映画的と撮ろうと思ったらしい。

シナリオでは、帰省するヒロイン「奈緒」がいきなり実家の玄関を開ける所がスタートするが、映画では電車の中から河口湖駅、そして河口湖の町の帰路を歩く「奈緒」のシーンを河口湖の風景を織り交ぜながらプロローグとして加えている。
このシーンが加わる事で、僕ら鑑賞者は奈緒の心の底にある迷いや自省を何気に予感する事になる。
それによってその後の展開に期待が高まるし、何より河口湖を舞台とする映像作品として訴求力を持つと思えたのは僕だけだろうか。

驚いたのは、HV映像が16mmフィルムの質感に加工されている事だった。
また、全般的にオレンジ色の映像に色調整されていた。

北野ブルーに対する阿部オレンジか?(笑)
そう言えば、NHK大河「龍馬伝」もそうじゃないか?

阿部監督曰く、昭和のホームドラマをイメージするシナリオだったので、あえてフィルムの質感にしてみたとの事。
この辺は、鑑賞者が同調出来るか否かで好みの問題とも思えるが、最初は違和感を感じつつも、見ている内に気にならなくなる。
ただ、それまでに公開されていた予告編がストレートなHV映像だったので、序盤の違和感はかなり大きい。

しかしながら、今作に出演した村野武範さんや剛たつひとさんは「飛び出せ!青春」世代にとっては、確かにフィルム質感の方が映える様にも思う(笑)
案外、その辺が阿部監督の狙いか?

割とワンシーンワンカットもあって画角も引いた絵が多く、確かに映画的な映像作りをしている。
ただ、カメラワークの不安定さや雑さを感じる部分も少なく無い。
おばあちゃんが富士山を愛でる伏線ももっと印象的に描写するべきと思ったりもした。
そのあたりは阿部監督も自覚していて今後の課題なのだろうと思う。

オリジナルでは単に登場人物の一人にすぎない施設長が、映画では人物像がしっかりと構築されている。
母親も良くも悪くも人間的な深みが付け加えられている。
僕としては、その部分はとても成功していると思えたが…。

このオリジナルシナリオがライターの石田さんの経験則から書かれたものなら、その辺の改変に落胆があったかも知れない。
コンクールで受賞したシナリオを映像化するなら、それはそのまま映像化するべきだ…と考える人もいるだろう。

でも、僕はどんな出自の作品であろうと、面白い映像作品を見たいと思う。

今作では、キャスティングも大変に力が入っている。
大御所な実力派演技陣がしっかりと役作りをしている。
この作品が良い作品になったのは、演技陣の力量が多いに貢献した事は間違いない。

父親役の村野武範さんは、最近TVで見るCMを彷彿したりもするが、時代を超えたステロタイプな父親像をしっかりと感じさせられた。
剛たつひとさんの登場は、施設側の立場を落とさずにきちんと立たせている。
母親役の土屋貴子さんは、母親の明朗なキャラを確実に膨らませていた。
花原照子さんはこれ以上ない程に適役と思わされる。

施設職員役の松下千佳さんや奥村友美さんは、施設の明るい世界観を作っている。
初っ端で、しーとんさんは本業のMC力を遺憾なく発揮しているし…(笑)

そして主演「奈緒」役の天野芽衣子さんは、驚く程に良かった。
大御所との共演は、否応にも緊張を強いられる現場だったろうに、しっかりと「奈緒」になっていた。
彼女の引き出しの多さは驚くばかりだ。
インディーズ映像作家;木野吉晴監督の傑作自主映画『X-REPORT』で主演した天野芽衣子さんのコミカルな演技が秀逸で、それを見た阿部監督が彼女を抜擢したのであろう事は今更ながら納得だ。
阿部組での天野さんは『小さな大きな富士山と』の前に撮った『SINSENGUMI』の沖田総司役が良いインターバルになったのだろうと勝手に想像。
『SINSENGUMI』は当映画祭で招待作品として上映された。
この作品については良くも悪くも自主制作映画なのだが、阿部監督の情念は噴出してる力作。

結局、この日の映画祭は天野芽衣子大会となった(笑)

さて河口湖映画祭シナリオコンクールだが、応募されたシナリオ作品は第1回が184点編、第2回が174点編、そして今回は266編もあったらしい。
今回も、受賞者と関係者の為の授賞式は、とてもアットホームに執り行われていた。

授賞式後に第3回の入賞作品集が販売されて入手したがまだ読んでいない。
というのも、河口湖までドライブして、映像化作品を鑑賞し、その後にシナリオを読んでみるという作業は、かなり楽しい作業だったりするからだ。
来年の映画祭で、今年のグランプリシナリオの映像化作品を鑑賞してから読んだ方が、楽しさは大きいに違いない。

第1回審査委員長は岡田恵和氏、第2回審査委員長がジェームス三木氏、そして今回第3回は山本むつみさんが審査委員長を務めた。
前回、前々回の大御所脚本家と相対して、僕は山本むつみさんを知らなかったが、今年のNHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』を担当されているらしい。
この日、山本さんが書いたドラマ「慶次郎縁側日記」第5話と第9話の2本が上映され鑑賞したが、構成力抜群のドラマで滅茶苦茶面白かった。

はてさて、山本むつみさんが選んだ富士山河口湖映画祭第3回シナリオコンクールグランプリ作品、永田健氏の『雨の日の富士山』はどんな作品だろう?

『小さな大きな富士山と』は前回作『湖の中の観覧車』とリンクしていて、冒頭で前作の主演;塩野勝美氏が登場した。
今回第3回グランプリ作品は来年に映像化作品を鑑賞出来る訳だが、それを合せて三部作とし、その三作はリンクさせるらしい。

来年の映画祭を楽しみに待ちたいと思う。

第3回富士山河口湖映画祭は、イベント総体として昨年よりも充実していた様に感じた。
今年は富士山の日(2月23日)に拘らず、20,21日の土日で開催。
規模自体が拡大している様には思えなかったが、場内展示物も中々の見せどころで、アイディアと手作り感はとても好感を持てた。
ロゴをキチンとデザインしていて、コーポレートアイデンティティ戦略の一環か?などと思ったりもしたが、どうやらそこまでは考えていないようだ(笑)
しかしながら、お金を掛ける所がとても正しいと感じた。
映像制作予算はかなり低いらしいが、地元の惜しみない協力で映画は制作されているらしい。
地域が一体となっていて、それだけでも意義のある映画祭だと思える。

プログラム進行も良く練られていて、来場者を飽きさせない構成になっていた。

夜はホテルで、阿部監督、小菅氏、そして楽生曾シネマDEりんりんを代表する林氏他お三方と混じって深夜2時まで酒宴歓談。
色々な制作裏話も聞けて、大変に楽しく有意義な夜を過ごす事が出来た。

翌21日は、『おくりびと』はじめ傑作佳作の無料上映や阿部作品一挙上映など、興味深いイベント目白押しだったのだが、東京は野方で年に一度の映像温泉芸社本祭(これだけは見逃せない)があるので、河口湖からそちらに向かうオヤジ二人なのだった。

この度、阿部監督には大変にお世話になりました。
心より御礼申し上げます。
今年のグランプリ作品も良い映像作品になります様、祈っております。
来年も楽しみにしています。
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