矯正治療はいつしたらいいの? 4 「私は接客業なので…」
前回までは矯正治療を待った方がいい場合と待たない方がいい場合について一般的なお話をしました。今回は実際にあった例をおはなししましょう。
もう随分前の事ですから、もうお話をしてもいいでしょう。
ある日、中年の男性が歯並びの矯正について相談したいと言って来られました。早速お話を聴いてみると、某デパートの外商担当の方でした。叢生(乱杭歯)と八重歯が一緒になって、話始めてすぐに
内心「…これは、ひどい」と思ったくらいですから、御本人も相当に気にされているようです。
うつむき加減で「…ご覧の通りの歯並びで、お得意様と話していても、悪い印象を与えているんじゃなかろうか、不愉快な想いをさせてるんじゃなかろうか、といつも気になって意識が集中しません。
自分の健康にも良くない、と本にも書いてありましたし。この、前歯のガタガタを矯正したいんですが、今度は、矯正装置でお客様に不快な印象を与えないか、と心配で…。このジレンマ、接客業の
つらいとこです…」「接客業なので…」。それまで何十回も、いや、何百回も聴いて来たことばです。
私 「ウ…ン、そうですか。でも仮にお客様が矯正装置を不快と思われたとしても、治療が終わって
装置が外れれば、あなたは以前よりきれいになっているので、お客様はあなたに良い印象を
持ちますね。…あなた自身も長年気になっていた事が解決して幸せ、自信を持って仕事が出来
るでしょう。
…もし矯正をしなかったら、いつまでたってもお客様に対してこれまで通りコンプレックスを
感じながら仕事を続けることになるでしょう?」
Aさん「…そうですね…」
私 「それに、定年までこのまま行ったら、あなたはこれからもこれを引きずりながらずっと
自信なげなセールスを続ける事になるでしょう?」
Aさん「…そうですね…」
私 「そして、定年になったら、もうお客様のことは気にしなくても良いのに、悪い歯並びとコン
プレックスは残ったまま…あの時やってればよかった…と言う事になりません?」
Aさん 「……」
私 「一番大切なのはあなた自身が幸せになる事で、仕事ではありません。それに、今の時代矯正
装置を見て『へーェ、大人でもできるの?』みたいに興味や好奇心を持ってくれる人はい
ても『何だそれは!』と不愉快に思う人はいないと思いますよ。逆に『この歳になって矯正
装置をつけました!』というのをお客様との話の切り口のひとつにしたらどうですか?」
…Aさんの顔が少し明るくなりました
私 「それにあなたの歯並びがきれいになってコンプレックスがなくなって、自信満々のセールス
が出来れば営業成績だって上がるでしょう、会社も幸せになります」
Aさんは装置を着けました。治療の途中で既に笑顔が良くなって、姿勢も前屈みではなくなってきました。歯周病がなければ大人の矯正治療に年齢的な制限はありません。私の所でも60代後半になってスタートされてきれいになった方がいらっしゃいます。装置を着ける事に一番抵抗しているのは、実は自分自身なのです。