2017-03-23 13:10:41

<Medical Dynamic Stretchingの実際④肩>

テーマ:医学

 

■予防手段としてのMDS
これまで治療法として紹介してきたMDSであるが、筋肉に生じた弛緩不全を解消するという効果に鑑みれば、MDSは怪我や病気の予防法としても効果が高いということが示唆される。実のところ、スポーツ選手が患う肩腱板損傷や膝前十字靭帯損傷、あるいは半月板損傷は、単なる不運によってもたらされているのではない。怪我に至るお決まりの道筋を辿っている場合がほとんどなのだ。故に、その道筋に変更を加えることができさえすれば、それらは全て回避できる可能性がある。

怪我のきっかけは弛緩不全から
バドミントンという競技を例にとってみよう。バドミントンでは中腰姿勢の反復によって、腸腰筋に疲労が蓄積されやすい。このため、腸腰筋に弛緩不全が生じ、その力学的な負担によって腰痛や股関節痛を患うことになる。仮に、痛みとして腸腰筋の異常を自覚できなかったとしても、腸腰筋にかかる負担を軽減させるべく股関節を軽度屈曲位に保つ姿勢の変化が生じ、その結果、膝関節も軽度屈曲位となって、大腿屈筋群や大腿四頭筋にも過剰な負担がかかることになる。大腿筋群に生じた弛緩不全は、当然ながら膝関節を破壊せしめる力学的な要因となるため、半月板や前十字靭帯損傷の誘因となるわけだ。

肩を壊すメカニズム
一方、腸腰筋は、シャトルを打つ力の源でもあるため、この筋肉が弛緩不全に陥って筋力を失うと、選手は上肢と上半身の力に頼って球を打とうとする。このため、インパクトの際に上体が早く開いてしまい、肩関節における適切な肢位が崩れて、腱板と腱板を構成する筋肉群に不自然な負担が加わるようになる。これが腱板損傷の引き金になるわけだ。もし、選手が肩に障害を抱えるようになれば、遠くない将来、肘関節や手関節をも痛めることになるだろう。肩関節周囲筋の弛緩不全のため、肩関節の十分な可動域が得られない状態で競技を続けることで、今度は前腕の回内外に頼ったプレーを行うことになるからだ。前腕の筋肉群に生じた弛緩不全が、肘関節、手関節に過剰な負担を加えることになるのである。

肩だけを治せば良いわけではない
よって、これらの怪我を未然に防ぐ、あるいは治療する場合、本当に必要であるのは関節周囲筋の筋力強化ではなく、弛緩である。即ち、MDSによる筋肉のメンテナンスこそ有用なのだ。アスリートの場合、上記の理由で症状の直接的な原因となっている筋肉を弛緩させるにとどまらず、腸腰筋のストレッチは必要不可欠だ。腱板損傷の場合、腱板を構成する筋肉群のMDSは従来の肩関節の振り子運動に類するが、基本的な運動は次の三種類である。

肩関節周囲筋のMDS
まず初めに肘関節90度以上の屈曲位で前腕を回外し、手掌を上に向け、脇を開かないように肘を側腹部に固定した状態でワイパーのごとく上腕骨を回旋させる運動を行う。リズムは1ヘルツ、振幅は片側30度程度。最大内旋位から行い、外旋は少なめに取った方が良い。
次に上体を軽度前傾し、上腕骨下垂位から上肢を左右に振る。この際、手掌は内転の運動方向に向ける。これも運動のリズムは1ヘルツで、肘関節及び手関節を象が鼻を振るかの如く柔らかく使うことがポイントだ。
最後に上体を起こし、やや患側に傾けた状態で上肢を前後させる。手掌の向きは前方の運動方向。これも同じく1ヘルツで肘関節を柔らかく使うことがポイントだ。いずれも痛みを伴わない限定的な可動域を用い、最低50回を行う。これを一日に数回以上、競技の前後に集中的に行うと良い。このMDSは五十肩の治療としても有用だが、アスリートの肩痛の治療として、より効果的である。
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