ドリームガールズ | 空想俳人日記

ドリームガールズ

魂を 抜けと言うのか ソウルから 



 まずは一言言っておきましょう。正直、期待はしてなかったのに、いたく感動してしまいました。ストーリーはいたくシンプルです。でも、もしアメリカ映画の真髄がエンターテイメントだとすれば、これこそ真のエンターテイメントではないか、そう思えました。
 そして、思い出したのが、ミュージカルというジャンルの映画の数々。私は、淀長さん世代から相当外れているので、著名なミュージカルといえば、「シェルブールの雨傘」とか「ウエストサイド物語」とか「サウンド・オブ・ミュージック」なんかを知っておりますが、これらは全くリアルタイムでもなければ、映画の歴史を紐解く、なんて感覚のが大きいですね。そう言えば最近、「オペラ座の怪人」なる作品の映画化がありましたが、これなんかとは異質です。私が思い出したのは、ボブ・フォッシー監督でロイ・シャイダーとジェシカ・ラングが出演していた「オール・ザット・ジャズ」(1979)、それから、同じボブ・フォッシー監督でライザ・ミネリとマイケル・ヨークが出演していた「キャバレー」(1971)、そして、同じくライザ・ミネリ出演で共演がなんとロバート・デ・ニーロ、監督がまたなんとマーティン・スコセッシの「ニューヨーク・ニューヨーク」(1977)。はたして、何が近いのかな。
 そういえば最近観た「プロデューサーズ」の感慨は、これとは異質ですね。では、何が「オール・ザット・ジャズ」や「キャバレー」「ニューヨーク・ニューヨーク」なんでしょう。明らかに間違いないのは、音楽ですね。あたりまえじゃん、ミュージカルは音楽仕立てだもの。いや、そりゃそうだけど、話のネタも音楽。いわゆる音楽シーン。モータウンによってブラック・ミュージックが白人文化へと広く浸透していった60年代から70年代のアメリカ音楽シーンが背景。あれ、ジャクソン・ファイブ?ってグループも登場する。
 昨今、エンターテイメント性を勝ち取るために何故か映像的インパクトに走る手法の殆どがCGとかデジタルエフェクトとか技術に支えられている分が多いのに対し、生々しいライヴ感、さらには、ソウルフルでハートフル、そんな人間性とでもいう部分が映像では極めてまやかしになりつつあるのに対し、音楽、特に歌は本当にエンターテイメントの真髄、私たちに、瞬時の感動を与えてくれます。
 この映画は、そんな歌の魂の宝庫ではないでしょうか。しかも、実際に映像とともに間のあたりにする歌声への感動を頂きながら、音楽業界の中で感動の魂を売り物にする輩の商品化という過程、それは本来の音楽を創造する人間性を台無しにすることにもなる、そんなビジネス業界こそアメリカのエンターテイメント社会だ、という二重性が面白いんですね。
 そのエンターテイメントの根底で、歌を魂とする人たちが、いくつも重要な場面を演じますね。エフィー、ローレル、ディーナの3人からなる“ドリームメッツ”というグループは新人オーディションへの挑戦を繰り返す中、中古車会社のカーティスは彼女たちに大きな可能性を見出し、マネジメントを買って出ますね。そんな夢に向かってのスタート。いやあ、オーディションで3人の歌が始まるや、いきなりビビッちゃいましたね。「ムーヴ」っていう歌、カッコいいじゃないですか。そして、地元で抜群の人気を誇るジェームズ・アーリーのバック・コーラスに抜擢、その名もジミー・アーリー&ドリームメッツ。このジミーがなんと、あのエディ・マーフィですぞ。業界でまかり通っていたラジオ局などへの裏工作なども手伝ってデトロイトのみならず全米の注目を集めるまでになっていくのですが・・・。
 ドリームメッツの登場に対する業界の策略やその後の逆手にとっての知名度アップ、リードボーカルのヴィジュアル重視のチェンジなど、今でもありえるシーン。まあ、個人的にも、ドリームメッツの3人を見て私も直感的には、ビヨンセ・ノウルズ演じるディーナをリードに出したくなるでしょが。あはは、すみません。そういえば、日本の歌謡界でもかつて某3人娘のリードチェンジ、ありましたねえ。この映画の場合どちらも歌は上手いのに対し、某3人娘、どっちもどっちだったように思いましたけれど。
 しかし、新人ジェニファー・ハドソン演じるエフィーの熱唱は、さらに凄い。ジェイミー・フォックス演じるカーティスに、首にさせられる際に歌うナンバーは秀逸じゃないですか。
 でも、また個人的ではありますが、彼女を外しても3人メンバーを保持するために新メンバーが加わりますね、その新メンバーのシャロン・リールが演じるミシェル、彼女、はじめタイプライター打ちという事務員として勤めたんですよね、でも私は彼女、いいなあ。ディーナよりもいいな。はい、あくまで個人的。
 さてさて、メッセージが込められた曲(時はベトナム戦争、無駄な戦いで送られた兵士が無駄死にする)に対し、メッセージが強すぎる、などとか、ソウルフルよりもリズムだ、というような商業ベースがどんどん強まるシーン。みんな、魂のある歌が好きな者たちのファミリーなはずなのに、どんどんポップス化の路線、踊れる音楽ディスコ化の波に流されていく。誰が波を作り誰がその波に押し流されていくのか。
 そんな中、エフィーの再起第一発に歌われる魂溢れる歌「アイ・アム・チェンジング」は素晴らしい。いや、個人的に、彼女をないがしろにするコメントも書いたけど、彼女がアカデミー賞で助演女優賞に輝いたのは正解。いやあ、彼女、ほんとにいいですよ。
 作曲担当であるC.C.も会社の路線に疑問を持ち、エフィーのために「ワン・ナイト・オンリー」という楽曲をプレゼントする。ところが、このオリジナルを叩き潰すように、同じ楽曲のディスコ調バージョンをドリームメッツ改めザ・ドリームズに歌わせちゃうカーティス。メジャー側に立った者の悲しい宿命か。C.C.も離れ、最後には、ディーナもカーティスのもとを去る。ディーナが朗々と歌う楽曲が胸に染みる。心の奥に閉じ込めていた魂が溢れ出る。グループ“シュープリームス”でなくソロで歌うダイアナ・ロスを思い出させますね。そりゃ、そうですよ、口先だけの歌なんか魅力がない、心から泉の如く沸き起こる魂があるからこそ、歌は私たちを感動させてくれるんですね。
 そして、ザ・ドリームズ解散コンサート。「私たち普通の女の子に戻ります」とは言わないけど、「ほんとうは4人のメンバーです」と言って、ステージにはエフィーも登場。ザッツ・エンターテイメント。魂溢れる歌の数々に感動の涙も溢れ出る。そして歌ばかりではない、演出もよろしいです。すべての役者が光り輝く見せ場、そして映像編集。
 ちなみに第79回アカデミー賞ですが、このジェニファー・ハドソンの助演女優賞は納得できるし、ついでに「ディパーテッド」のマーティン・スコセッシの監督賞もよろしいでしょうが、作品賞は「ディパーテッド」よりも、この「ドリームガールズ」でしょうが。これも、ちょっと個人的でしょうかねえ。