2006-08-19 13:21:57

ゆれる

テーマ:映画

ゆうらリと こころゆらゆら たまゆらの 



 ゆれた。何が。心が。どうして。「ゆれる」を観たから。私たちは、毎日吊り橋を渡っているようなものかもしれない。あるいは、吊り橋を渡ってきた記憶が私たちの一人一人の人生をつないでいるのかもしれない。切なく、そう実感させられた映画。
 弟のタケルが職業カメラマンという設定が巧い。ファインダーを覘くように見、シャッターを切るように記憶にとどめる。兄ミノルと親が住む山梨の田舎から逃げるようにして東京で自由に生きてきた。母の死に目にも会えていない。兄ミノルは、彼にとって唯一、故郷と自分をつなぐ心の架け橋。あの吊り橋のように。
 タケル演じるオダギリジョー、ここんとこ役者稼業にお疲れじゃんかのような不作が多かったのだが、ここでは改心の演技。そして、それをも上回るのがミノル役の香川照之が素晴らしい。ここんとこ「明日の記憶」や「花よりもなほ」など、ほんと、いい役者。タケルが智恵チャンを家へ送り狼したあとに戻ってきた時。彼の洗濯物をたたむ後ろ姿が妙にぞくぞくする。「智恵ちゃん、大変だったろう、飲むと・・・」の鎌をかけるような嘯く台詞と静かな笑顔。ぞぞぞっ。なんて役者だ。さらに、留置所での面会シーン、怒鳴りタケルに向かって、いきなり唾吐き。そうして、あの吊り橋での怖がりシーンでの登場。あっ、こわっ。
 この映画には、心が揺さぶられる場面がいっぱいだ。間をあたかも裂くように、いや、兄弟の心を二分するかのように登場する智恵ちゃん演じる真木よう子もよろしい。「ベロニカ」での体当たりもよかったけど、吊り橋の上での「触らないでよ・・・」なんか、いいねえ。心がまた揺れた。吊り橋も大きく揺れた。人生も揺れる。
 その吊り橋でのミノルと智恵ちゃんのシーン、何言っているのかよく分からない、もっとはっきり収録して欲しいという要望もあろうけど、あそこで智恵ちゃんがミノルに自分の母親のことかミノルの母親のことか定かではない言い回し、彼女はかつてタケルに東京へいっしょに行くことに誘われたであろうことが、その前の描写で私たちは理解している。ようは、その田舎での生活にうんざりしていることは確かであり、ミノルと手を取り合って歩むということは、一生何も変わらずに終わってしまう、ということだ。それだけで十分だろうし、ある意味では、その風景を遠方からあたかも望遠レンズで眺めているタケルの視点に近い感覚で私たちがいられるというのも意味が深い。
 むしろ、何言ってかよく分からないのは、父親役の伊武雅刀。まあ、怒鳴って切れるだけで存在感出す役だから急に驚く私たち、だけでいいだろうけどね。ちなみに、こちらの世代、兄の蟹江敬三が故郷出て東京へ行き、弟の伊武雅刀が故郷に残った、という関係だね。
 さて、さらに、裁判の証人喚問でタケルが兄の正直さこそ自分と兄をつなぐ糸であることから、全てを覆すように真実を語る。私たちも、それを真実と思う。ミノルの寂しいながらの笑顔も含めていったんは確証する。しかし、7年後、改めて思い出すように母親の趣味だった八ミリ映像、昔の渓谷の思い出のフィルムを改めて観る、と、そこに来て大きな事に気づく。
 自分の記憶には、子どもの頃その渓谷にいっしょに行ったような思い出はないのに、まざまざと自分がそこに映っている。自分が吊り橋を渡るのに、兄は恐る恐る後ろから縋り付くようにして渡っている。また、兄に手を差し伸べられて岩を登るシーンまでも。そう、心をつないでいたはずの橋から落ちたのは、タケル自身ではなかったのか。
 兄の腕についていた傷を思い出す。智恵ちゃんの腕を掴み、引き上げようとしながらも、落ちてしまった際についた、おそらく智恵ちゃんの爪あと・・・。
 最後まで揺れる。私たちは、この眼で見たとしながらも、それが真実だと言えようか。共に楽しんだ日々の八ミリ映像。自分はその中にいる。しかし、あの吊り橋での出来事、たとえ目撃していたとはいえ、あたかも望遠レンズから盗み見しただけにすぎない傍観の眼。
 最後に「にいちゃん、にいちゃん」と叫ぶタケル。それにようやく気がついたミノルのあの笑顔、そしてすぐにバスが停留所に止まり、ミノルは見えなくなる。はたしてミノルがその後どうしたかは分からない。いや、どうしたかは、この映画を観た観客一人一人の心の中にある。みんな揺れた心の振り子がどちらに寄っているか、それで、その後の行動を自分なりに選べばいいのだと思う。
 ミノルもゆれる、タケルもゆれる。私たちもゆれる。映画館を出ると街の風景がなんとなく揺れて見えた。


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コメント

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24 ■ブリ様

>智恵みたいな女が嫌いという声もありましたがな。

なるほど。

>そのことを書いたのはホンモノ婦女子で同性だけに「女の嫌な部分」もわかるのだそうで(汗)。

いやはや、そういうことからすると、真木よう子の演技秀逸、ということでもありますよね。

23 ■マリ様

素晴らしい指摘ありがとうございます。でも、ほんとに香川照之は、素晴らしかったですねえ。ぞぞっとしましたねえ。

22 ■最高ですた。

トラバありがとうです。

この『ゆれる』って珍しく原作本がないのですよね。すごいやこの監督さん。
オダジョーも演技上手かったけど香川さんが秀逸!真木よう子も良かったですね~。
あれから色んなブログにカキコしてたら智恵みたいな女が嫌いという声もありましたがな。
そのことを書いたのはホンモノ婦女子で同性だけに「女の嫌な部分」もわかるのだそうで(汗)。

更新頑張ってくださいね。でわでわ。

21 ■ゆれるの感想

脚本を何度も修正して、時間をかけたという事をきき、かなり期待していたのですが、そのわりにはあっさりしすぎていて期待はずれでした。兄弟間の感情や、それぞれのドロドロした部分の描写、セリフのえぐりこみが足りないです。
それとは別にしても、香川照之さんは、人の感情を表現することにおいて、素晴らしいですね。このすごさは、筆舌に尽くしがたいです。

20 ■t 様

コメントありがとうございます

>法廷に移って以降。芝居のテンポも落ちてしまった感じ。

確かに、前半の緊張感からすれば、こういう法廷場面は、難しいですね。

19 ■michi様

コメントありがとうございます。

>今回、shisyunサンの鋭い感想を読み、またもや、ゆれてしまいました。

ありがとうございます。自分のゆれを伝えたい一心で書いてみました。

18 ■なし

悪くない出来ではあると思いましたが・・・脚本を物足りなく感じました。兄弟それぞれの屈折した思いをもっと浮き彫りにして欲しかった。浅かった。オダギリ、香川御両所は確かにうまいが、うま過ぎる。特に法廷に移って以降。芝居のテンポも落ちてしまった感じ。蟹江敬三が突出してよかったと想います。伊武雅刀はミスキャストでした。邦画の上半期随一の作品との評判で期待していただけに、残念でした。

17 ■ゆれました!

はじめまして、michiと申します。
TBさせていただきました。

映画を観たとき、猛、稔、つり橋と共に、
私の気持もゆれてました!
映画は試写で3ヶ月くらい前に観たんですが、今回、shisyunサンの鋭い感想を読み、またもや、ゆれてしまいました。
人間があまり見せたくないなって思ってる部分を描いていたような映画でしたね。

16 ■まるみん様

東大出は、たまたま結果論でしょう。
東大出ても、なんじゃ、という人もあれば、高卒だけでも素晴らしい人への気遣いできる人います。下手な学歴、関係ないでしょ。

15 ■悔しい

shisyunへ

映画を観て来て、自分なりの感想を固めてからshisyunのレビューを読み返してみると、いつも悔しい気持ちになる。
普段、黙っておる人は、心の中でいろいろな出来事を繋げておるのじゃね。
見落として来たことをいくつも突きつけられる。

この映画は、映画を観終わったあと、実際に自分の身近で起こった事件のように感じられた。
あと、刑期を終えて出て来た稔の顔、本当に服役が終わった人の表情だった。
東大出てないと、あれくらいの役者さんになれんのかなあ。

同じ映画館で上映されてた『紙屋悦子の青春』も観て来た。
こちらも、shisyunのレビューが読みたいので、観て来て書くべし。
まあ、報酬は払えんけど。

14 ■gourmet-center様

コメント、ありがとうございます。

>その後のミノルはどうなったんだろうと気になってしまう

うん、気になります。直近んでなく、どういう生き方をふるさとでするのだろうかも。

13 ■トラックバックありがとうございました。

とっても、繊細な解説ですね。ひさしぶりに日本映画を見たのですが、日本映画は表現が繊細で、特にこの映画はよかったです。ハリウッド映画って白黒はっきりしすぎ。香川照之の演技は迫真でした。本当にあんな立場になったら、あんな風に心も揺れて、あんなふうな態度をとるのだろうかと思わされてしまった。結局の真相はどうだったんだろうと、気になってしまうし、その後のミノルはどうなったんだろうと気になってしまう。いい映画でした。

12 ■ココ様

>西川監督の映画ははじめてみましたが、違う作品も見たいと思いました。

実は私も初めてなんです。こんな映画が描ける人、もっと増えてくれる、そんな映画界をみんなで育てたいですね。

11 ■無題

こんばんは。ココともうします。
おもしろい映画でしたね。そして何が真実なのか、それは観客の見方によって違うんですね。
いい映画でした。西川監督の映画ははじめてみましたが、違う作品も見たいと思いました。
TBさせていただきますね。

10 ■sora様

ほんとうに考えさせられますね。
脚本・監督、まだ若いのに、何でこんな凄いのが作れるんでしょ。
まいった!

9 ■ok様

>洗濯物をたたむ背中の丸め具合までが完璧でした。

でしょでしょ。あのシーン、もう、いやになるくらいのリアリティ、ですよね。

8 ■ok様

>洗濯物をたたむ背中の丸め具合までが完璧でした。

でしょでしょ。あのシーン、もう、いやになるくらいのリアリティ、ですよね。

7 ■ようこだらけ様

ミノルとタケル・・・、いやあ、人間の性を見せられました。是非見てくださいな。

6 ■rose_chocolat様

そうそう、可哀相かもしれませんが、ミノルの行動に「さわるなよ~」は、いたく分かるだけに、ううむと思いました。

5 ■ありがとうございました

初めまして、TBありがとうございました。
実は当方のブログ『風に吹かれて』の方にTBを頂いたのですが別館よりTBをさせて頂きました。申し訳ございません。
『ゆれる』この作品には本当に揺れさせられました。
色々な事を考えさせられて気持ちがゆらゆらと揺れています。

4 ■TBありがとうございました

こちらからもTBいたしました。
香川照之、ほんとうにすごかった。
役者魂という言葉があるとすれば、まさにカレのがそれなのじゃないかと。
洗濯物をたたむ背中の丸め具合までが完璧でした。

3 ■こんにちは

TBありがとうございました。

ノベライズを読んで、まだ映画の方は観ていないのですが、
内に秘めた、稔のねちっこさ、みたいなのが、
きっと香川さんならビンゴ!と思います。
行くぞ!映画館!

2 ■無題

JOBLOG(ジョブログ)事務局の高橋と申します。
アメーバブログのブログランキングから来ました。
初めての書き込み失礼いたします。

今回は、あなた様のブログに、ぜひJOBLOGに
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突然の書き込み、大変申し訳ございません。
お邪魔でしたら削除していただければと思います。

どうぞよろしくお願いします!

1 ■こんばんは。

TBありがとうございました。

吊り橋の上で、稔が智恵子の服をつかむシーン、
あの、何とも言えないいやらしさが、うまかったです。
うわ~ちょっと、触らないでよ!!って、言いたくなりますね。あれは(笑

オダギリジョーさんの演技はほとんど過去に見ていませんが(ドラマ含めて)、
これはよかったと思います。

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