2006-04-02 20:45:29

サウンド・オブ・サンダー

テーマ:映画

雷の 音に天気を 予感せり 


  

 この映画、ひとえに原作がレイ・ブラッドベリだから、観なあかん、そういう脅迫とは言わないまでもポストイット的観念が働いていたので、足はオートマチックに動いたのでした。レイ・ブラッドベリという人は、年代は違えど、H.G.ウエルズとか(ハード・ゲイではありませぬ)、ジュール・ヴェルヌとか、そういうSF作家と同じウエイトが私ん中にあります。アシモフやハインライン、クラークよりも。
 映画で言えば、クラーク原作の「2001年宇宙の旅」は別格ですけど、それはクラークというよりも、監督のキューブリックに依存してるんですね。だから、トリュフォーが監督したブラッドベリ原作の「華氏451度」は、世間では大傑作と言われておるようですが、映画においては、もうちょっとなんとかなならんかったんかなあ、そう思っている私です。何がいけないとは言えないけど、全体的に牧歌的というか農村的な感じ。それなら、タルコフスキーが監督したスタニスワフ・レムの「惑星ソラリス」の方が数段上じゃなかろうか、なんて。というか、「ソラリス」は、「2001年」よりも上かもしれませんぞ(そういやあ、「2001年」の続編などという恐れ多い偉業を成し遂げた「2010年」つう作品の監督、この「サウンド・オブ・サンダー」の監督さん、ピーター・ハイアムズなのよね)。
 ブラッドベリの小説はよく読みましだ。日本の筒井や安部と同じくらい読みました。だから、「華氏451度」と並び評される「火星年代記」から詩的な「たんぽぽのお酒」、短編集「ウは宇宙のウ」「スはスペースのス」(このふたつ、変。なんで、片方が日本語の宇宙で、もう一方が英語のSpaceなんでしょう。まあ、いいかあ)、あとは・・・、これも、まあ、いいかあ。
 ところで、今回の「サウンド・オブ・サンダー」の原作、実はメチャ短いんす。なんちゅうタイトルの短編集だっけ、とにかく、その中の一ショートコント、失礼、ショートストーリーで、タイムトリップからご帰還したら、あの行く前よりも戻ってきたら増えていた重さの正体が見つかって、おお、やばっ、ってなところで終わっているのです。後は野となれ大和なでしこ七変化、こりゃまた失礼、あとは読者の想像にお任せあれ。当然、映画でも原作通りやられたら、なんの面白みもないのでありまして、その読者の想像に委ねられていた部分が映像化されてくるお楽しみはこれからだ、というわけで、それを見せていただいたんだと思とります。内容はともかく、ふうううん、なるほどなるほど、そのとおりだね、という映画ができたわけ。もちろん、ブラッドベリ・ファンやSFファンなら、過去のものを持ってきてしまったらどうなるか、誰だって想像がつくでしょうから、意表はつけないと思うけど、その細部と言うか、どんな別なる進化が起きてしまったか、その中身に、おお、そうしちゃいましたか、という、いろんな人の想像の一つを見せていただいて、興味深く拝見させてもろうたと思っている次第なのであります。ダーウィンが観たら、何言いはりましょかね。
 あの生物はないだろ、とか、あの時間の波はないだろ、とか、いろいろイチャモンつけられそうなのも面白いですね。かつて手塚治虫が「火の鳥」で、進化のやり直しを主人公にさせたとき、神になった主人公が進化の最終形に登場する霊長類ナメクジ人間に対し嘆くのですが、それもまたありえるだろ、あんた神様、視野狭いねえ、そう思いました。だから、あれはないだろと思う人の両極端(あんなに変わるか という人と、殆ど変わらんじゃないか、という人)の意見が出そうで、こりゃまた映画そのものよりも、いろんな悪評が出そうで、いや面白いと思ったんですなあ。だいたい、水中生物も出したいから、地下鉄トンネルでの水攻めまで物語に仕組んだんでしょう。えらい。しかも、そこで、本来なら主人公と助演女優が恋愛感情なる伏線があってもいいのに全くないもんやから、せめてもの罪滅ぼしでマウストゥーマウス。いやあ、いいですね。
 ところで、この映画での時間旅行、面白いなと思ったのが、普通タイムマシンというと乗り物感覚で運転席や助手席などのシートに座るでしょ。つっ立ったまんま。よく考えれば、長時間運転するわけじゃないから座る必要ないね。そういやあ、かつて、アメリカのSFテレビドラマで「タイム・トンネル」ってのがあったの、思い出しました。今思えば、あれこそ、辻褄全然あわない設定ばかり。時間旅行する主人公二人の時代の情景がトンネルに映し出される映像で確認できちゃう。おいおい、それ誰が撮影してるのよってね。でも、あれは、かなり人気番組でしたねえ。そんなことより、歴史をみんな楽しんで、時代評価を見直したりね。
 それから、未来の都市風景だと、乗り物を「スーパージェッター」の流星号とか、最近では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で見られるタイヤ必要なしのホバー・カー、エア・カーの類を想像するけど、それを見事に裏切っているのもいいです。タイヤですもんね。多分、そういう技術はあるのでしょうけど、庶民はお金がなくて手が出ない、だから、あいかわらず、ホンダやニッサンの軽自動車に近いタイヤ・カーに乗っている。面白いなあ。世の中技術が進んでも、人類の貧富の格差はますます広がっているのです、なあんてね。それにしても、この間「オリバー・ツイスト」で貧富の貧を好演したベン・キン様が、今回富にたかる旅行代理店の社長っつうのは、いいですねえ。
 SFがいつから未来という視点による現在に向けての批評眼としての方法として使われるようになったかは定かではありませんが、最近は、そうした仮説的見地からのモノの見方を喪いつつあるかもしれませんね。単にCGなどの技術やありえるべきリアリズムばかりを頓着するようになって、なんか了見が狭くなっているみたいで、ちょっとつまんない。
 何はともあれ、この映画、製作過程(製作会社の倒産など)も含めて、いろんなこと言いたくなる映画であることは間違いなさそう。でも、面白いことに気がつきました、そのひとつをご披露しましょ。それは、この映画と同じように、私たちの今の世界は、もっと未来に大変なことが起きて、本来なら今ごろ明後日の方角に向かっていたのかもしれません。しかし、今私たちは、まだ取り返しのつく方向へ軌道修正しながら未来へ向かっているんです。本当は、パラレルな世界では、とっくに私もあなたもみんな、えらいことになっているはず。で、その事実を、この映画を観た人だけがまのあたりにしたんですよ。この映画の中の人々も結局は誰も知らない。あの録画映像からただ察するだけしか。
 そして、もうひとつ、その大変な未来での出来事をうまく解決した気になっていても、実は、また新たな別の進化がじわじわ起こっていたのです。ほら、最後の平穏な都市の鳥瞰風景。夕日が見える。その夕日は東に沈み、明日の朝、西から昇って来るのです。なあんちゃって、これは嘘。
 私たちは、ブラッドベリの原作の結末以降のひとつを見せていただきました。さあ、みんなで、こうじゃない、こういう展開があるべきだ、いやそうじゃない、もっとこうだ、そういう想像の世界を自由に膨らませようではありませんか。ほら雷が鳴っています。明日は晴れるかも知れない。でも、明日は二度と太陽が昇ってこないかもしれません。

AD
いいね!した人  |  コメント(2)  |  リブログ(0)

コメント

[コメントをする]

2 ■sabunori様

「バタフライ・エフェクト」という映画は観ていないので詳しくはわからないですが、この映画での蝶々一匹がそんなに生態系を狂わすか? という問いへ応えとして、このバタフライ・エフェクトという象徴的概念が明らかに用いられているのだと思います。

1 ■TBありがとうございました。

この物語の小説がそんなに短いとは知りませんでした。
おまけにラストはそんなところで終わっているとは!
この映画を観た時に思い出したのは「バタフライ・エフェクト」でした。
あれを観た時にもこの「サウンド・オブ・サンダー」のレビューでshisyunさんがおっしゃっている通り「過去に戻って人生をやり直せるならパラレルにいくつもの人生が存在するのではないか」と考えてしまったワケで・・・。
もうわけがわからなくなりそうです、私の頭の小さなキャパでは。(笑)

コメント投稿

AD

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス

      ランキング

      • 総合
      • 新登場
      • 急上昇
      • トレンド

      ブログをはじめる

      たくさんの芸能人・有名人が
      書いているAmebaブログを
      無料で簡単にはじめることができます。

      公式トップブロガーへ応募

      多くの方にご紹介したいブログを
      執筆する方を「公式トップブロガー」
      として認定しております。

      芸能人・有名人ブログを開設

      Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
      ご希望される著名人の方/事務所様を
      随時募集しております。