若者達に話しを聞いた後、取りあえず仕事に向かった。
休んでいる場合ではない。
1日でも早く再度の転居資金を貯めなくてはならない。

仕事が引けると幼稚園へ迎えに急いだ。
夜になるわけにはいかない。若者達の話しからすると、陽が暮れるとマンションの外はそこら中に【あれ】が溢れかえるようだ。
冗談じゃない…。香織をそんな目に合わせるわけにはいかない。

「ママ~!」

幼稚園へ迎えに行くと香織が一目散に香澄の元へと駆け寄ってきた。
香織は父親の蛮行の影響も有ってか極端な人見知りをする。
多分香澄の迎えを心待ちにしていたのだろう。

「いい子にしてた?」

「うん、香織、いい子にしてたよ!」

香澄は優しく抱きしめて頭をそっと撫でた。
先生に挨拶を済ますと、とりもなおさず家路を急いだ。
日暮れまで余り時間が無かった。

「ママ、私、お友達が出来たよ~。」

急ぎ足で歩きながら香織が話し掛けた。香澄はそれどころではなく、生返事をしてしまった。

「そう!良かったわね~。何てお名前なの?」

「え~っとね~。あ、しろ~君!」

「へ~!四郎君って云うんだ。仲良くして貰えるといいね!」

人見知りの香織にたった1日で友達が出来る…キチンと考えていれば、危うさに気付いてあげられたかも知れなかった。
香澄は自分が言ってはいけない一言を香織に言ってしまった事に気付かなかった。

… 仲良くね …

誰と…。


何とか日暮れ前にマンションに辿り着いて自宅のドアを開けた。
香澄は違和感を感じ辺りを見回した。

(アイツがいない!)

(確かに、何も感じない。)

その瞬間、香澄の背後をあの気配が襲った。
思わず香織を抱きかかえ全力でドアを閉めた。

(間に合った?…)

間に合わなかった。
既にアイツは部屋の中にいた。
しかも、気配がひとつではなくなっていた。
香澄は香織を抱きかかえ居間へ入り、香織を抱き締めたまま全神経を集中して気配の数を数えた。
3つ…いや4つ…。
どうして、こんな事になったのか。

「ママ、どうしたの?痛いよ~。」

「あ、ゴメンね…。ママ、ちょっと頭が痛いの…。それで香織を強く抱き締めちゃった。痛くしてゴメンね…。」

「ううん…。ママ、大丈夫?」

「大丈夫…。でも、もう少しだけこうしてていい?」

「うん、香織が抱っこしてあげるね。」

香織に頭を抱かれながら香澄は背後の気配が近づくのを感じた。


つづく
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