川原香澄は夫のDVが理由で離婚し、5歳になる娘、香織を連れて函館にやって来た。

函館は香澄が子供の頃、今は亡き両親と最後に旅行に来た思い出の地だ。

香澄はその両親からある能力を受け継いでいる。
霊感と呼ばれる類いの物だが、両親ほどの強さはなく、感じられる程度であった。

しかし、それでもその能力のおかげで香澄は何度も救われている。

オウム真理教の地下鉄テロ、秋葉原無差別殺傷事件、本当であれば香澄は両方の現場に居合わせた筈であった。
いずれの日も朝の夢見が悪く体調不良で出掛ける予定を取り止めた。

勿論、周りには内緒の話しだ。そんな話しは偶然で片付けられてしまう筈だし、逆に信じる人には、気味悪がられて付き合いに支障をきたしかねない。


函館に転居する為、香澄は転居先の物件を入念に選んだ。
以前住んだマンションで怖い思いを味わった経験から住居選びには慎重になったからだ。
何軒もの不動産屋を歩いて回った。
予算に限りがあった為、新築物件は諦めざるを得ず苦労したのである。

中古の物件は、玄関に入った瞬間に背筋がゾッとするものが多かった。
不動産屋が如何に隠そうとも香澄には通用しない。


「川原さん、ここで最後です…。
この物件は賃料がかなりお得ですよ。」

そう言われて連れて来られたマンションは、見るからにかなりの築年数が見てとれる古びた物件だった。

「見た目は悪いですが、内装はリフォーム済みで新築同様になってますし、4階建てでエレベーター付は珍しいですよ。
まあ、賃料がお安い理由はただ一つ、裏に墓地があるからなんですが…。
それ以外は、近所にスーパー、コンビニ、学校、全てありますし立地として文句なしです。」

香澄は墓地と云う言葉に微かな不安を感じたが、マンションの外でも、案内された部屋でも、嫌な感じは感じられなかった。
逆に眼前に広がる墓地の為、ベランダ側の日当たりは最高で、墓地を除けば眺望も遠方まで見渡せてこちらも最高だった。
掘り出し物だ。

「ここに決めます。すぐに越したいんですけど、大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます!
勿論大丈夫です。明日からでもお住まいになれますよ。」

少々大袈裟な位、不動産屋の案内人が喜ぶので香澄は苦笑した。
しかし、案内人がこれほど喜ぶ理由には、無念にも気付く事が出来なかった。

香澄と香織、恐怖の日々が始まろうとしていた。


つづく
AD