この愛に生きて







中村有里調査報告書



平成元年7月24日生まれ。

川端圭佑、和子夫婦の次女。

平成10年父圭佑が経営する川端物産が経営破綻。家族で失踪(夜逃げ)

平成17年5月父圭佑が交通事故で死亡。8月母和子が自殺。

平成18年都立西麻布高校卒業。

同年(株)へリエモン入社。

平成19年中村咲蔵(なかむら さくら)と結婚。

平成21年長女咲美(えみ)誕生。

平成25年春、両親共に留守中に咲美が殺害される。



娘に多額の保険金が掛かっていた為、保険金殺人の疑いで警察による捜査・マスコミによる報道が広く行われた。


また、この多額の保険金を掛けた理由などは警察からの発表は無く、(当事者達も口を噤んだ為)それが報道の過熱に拍車を掛ける事となった。


しかし入念な捜査及び執拗な報道によってもその犯罪は立証されず保険金は支払われた。


その直後、夫、咲蔵は過剰な報道によるストレスからうつ病を発症し突発的に自殺。


その夫にも多額の保険金が掛けられており、娘、夫二人を相次いで失った妻有里は期せずして保険金長者になってしまう。


その後、有里は失踪し現在に至るまでその足取りは確認されていない。


また警察は、未だ娘咲美を殺害した犯人の特定には至っていない。





「以上がご依頼がありました中村有里さんの調査報告になります。結果的にご本人の中村有里さんの行方を掴む事が出来ず申し訳けございません。」


「いえ、まさかあの子がこんな事になっていたなんて・・・生きていてさえいてくれればいいんですが・・・・ありがとうございました。」


中村有里の叔母川端有子が私に深々と頭を下げた。


報告書を抱えて帰って行く川端有子の後ろ姿に多少の後ろめたさは感じたが、確証が無い事柄を伝える事は出来なかった。


私はその事柄が殆ど真実であろうと云う事を掴んでいたが、胸の奥にその真実を深く沈めた。


その真実とは・・・・・






中村有里の人生は平成10年に父の経営する会社が破綻したことで天国から地獄へと激変した。


それまでは何不自由なく蝶よ花よと育てられていたが、その日を境に極貧の生活へと墜落してしまったのだ。


荒んだ生活が有里の性格に影を落としたのは間違い無い。


聞き取り調査でも小学生時代の有里は明るく活発で誰にでも好かれる正にお嬢様だった。


しかし高校時代の有里の評判は芳しく無い。


万引き、カツアゲ、窃盗で何度も補導歴があり、卒業も公立だからなんとかなった様なもので、私立高校であれば退学処分間違い無しと言えるほどの荒れ方だった。


高校3年時にその有里に2度めの転機が来る。


両親の相次ぐ死である。


報告書では交通事故、自殺と記した(警察の検案でも事故、自殺であった)が、調査をすればするほどこの両親は有里に殺害されていたと確信した。


まず、父の交通事故の加害者は有里の援交相手の40代の男だった。(警察はこの事実をキチンと捜査していなかった。)


更に興味深い所は事故の2ヶ月前、父に簡易保険が掛けられていた事だ。(極貧生活を送っていたはずのこの家族にその掛け金が払うことがどれだけ大変な事か警察は気づかなかった。)


多分この父の交通事故死による慰謝料や保険金を受け取った経験がその後の多額の保険金殺人につながったと推察される。


恐ろしいことにその援交相手も1年後に自殺していた。(私はその死因を探る気が起きなかった)


母の自殺は睡眠薬によるもので、実はこの睡眠薬は有里が処方された物だった。


また周囲には母と有里の関係は良好だと有里と友人の話として伝わっていたが、実は父の死後、有里の家庭内暴力で母と有里の親子関係は崩壊していた。


警察もその事は掴んでいたらしいが、その為に逆に母が追い詰められて自殺したものと判断してしまった様だ。


この母にも簡易保険が掛けられていたのは言うまでも無い。


この両親の死と保険金の受領で有里はそれまでの極貧生活から開放された。


就職から結婚まで2年だがこの間での有里の評判も高校時代とは激変している。


再び誰にでも優しい人柄の良いお嬢様人格になっているのだ。


勤務先で有里が高校時代散々不良行為を行っていたことを知るものはいなかった。


そして職場で知り合った中村咲蔵と交際1年弱で(周囲の祝福の中)結婚し、すぐに長女を授かる等、有里の人生で再びの幸せな時期を迎えた。


しかしこの幸せは長くは続かなかった様だ。


この夫は堅実な性格で(本当ならそれこそ幸せな事だが)有里の贅沢志向に度々干渉する様になった。


有里にすれば自分の財産でなにをしようと文句を言われる筋合いじゃないと云う思いであったろう。


そんな事が重なるうち夫婦仲も段々悪くなるのは必然と言えよう。


そんな中、突然の不幸が夫婦を襲う。


娘が殺害されてしまったのである。


その上夫が知らない娘に掛かった多額の保険金が報道で明らかになる。


世間ばかりか夫にまで疑われた有里の心情はいかばかりだったか・・・・

と、言いたいところだが、有里がそのくらいで動揺する様な女じゃないのはこれまでの有里の人生を調査した私にははっきり解る。


解らないのは何故標的が夫では無く娘だったのか?だ。


いくら有里でも娘を愛していなかったわけではあるまい。


それなのに何故夫では無く娘だったのか?(推察するに実行犯との新生活に向けて夫も娘も二人共邪魔だったのではあるまいか)


その実行犯とは誰なのか?


これまで有里は確実に殺害するため、そしてその秘密を完全に保持するために事故の共犯の援交相手を除くと(その共犯も殺害した?)全て自分自身で手を汚している。


アッパレと云うほどその決断に躊躇が無いので、その犯人が誰なのか調査で全く浮かんで来ないことが不思議だ。(必ず有里の身近に犯人はいるはずなのだ)


・・・・と云う事が私の調査で判明したこの一連の事件の真実だ。



さて、物騒な案件も片付いたので先月結婚したばかりの新妻が待つ我が家へ帰ろう。



「ただいま~」



「あら?早かったのね、お帰りなさーい。」



「ああ、有里に早く会いたくてとっとと仕事片付けて来たよ。もう仕事なんかやめちゃおうかな~」



「あら?ダメよ!!ちゃんと稼いで来ないと保険金かけちゃうわよ」







閑話休題
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