【ここは秋葉原。

電器屋とヲタクの聖地。

まあ、最近ではいろんな人種が溢れているが…】


20年ぶりの大雪が降ったその日、私は1年ぶりにこの街に帰ってきた。

街にはいつもの様に人が溢れ、大雪の影響は感じられなかった。

裏道の一角にある古びれた雑居ビルの4Fの我が事務所に戻る。

扉を開けるとさすがにカビ臭い空気が漂っていた。

すぐさま窓を開け放ち空気を入れ替える。

凍て付く尖った空気が頬を刺す。

その痛みもなんとなく心地よかった。

我が家に戻ったのだ。

何故、私がこの1年、この街を離れていたのか・・・

その訳は・・・



今から丁度1年前の2月、今日と同じ様に寒い日だった。

その日は溜まっていた仕事が丁度全て片付いて暇を持て余していた。

そこへいきなり飛び込みの客が訪ねて来たのだ。


コンコン。


「はい、どうぞ、開いてますよ。」


「失礼します・・・。」

ドアを開けて入ってきたのは、まさに絶世の美女。

私の人生、ここまでの美人を間近で拝んだのは初めてだった。


「あ、どうぞ・・・こちらへお掛けください。」


ちょっと不自然にドギマギしながら中央のソファーを指さし仕事用のデスクから移動した。

いつもの客用の安いお茶でなく、自分用のグラム3000円の美味いお茶を出したのは言うまでも無い。


「寒かったでしょう、まあ・・・これで少し温まって下さい。」


「あ、ありがとうございます。・・・頂きます・・・美味しい・・・。」


「それは良かった・・・それで、どうされました?」


まあ・・・いつもの事だが、こんな怪しげな探偵社に来る客の要件がマトモな依頼じゃないのは慣れっこだったが、その時の依頼は飛びきりのマトモじゃない依頼だった。


「はい、・・・・・あの・・・・」


「大丈夫です、探偵にも守秘義務がありますのでお話された事は決して誰にも漏らしません。」


そんな事は嘘っぱちだ。

国家資格も無い探偵に守秘義務も何も有るはずがない。

だが、まあ、依頼者の全てがこの一言で口を開き始める。


「はい、・・・・・お願いします!!!・・私を・・・私を・・・」


「・・・落ち着いて・・・ゆっくりでいいので、話して下さい。」


「私を・・・私を・・・殺して下さい!!!」


はあ~~~~~!!!!

またか・・・まさかこんな絶世の美女がこんな事を言い始めるとは・・・

だがここで引き下がるほど私はヤワな探偵ではない。


「あの・・困りましたね・・依頼は誠心誠意履行させて頂くのが我が事務所のモットーですが、犯罪はちょっとお受け致しかねますね・・・」


「あ、いえ・・・本当に殺して欲しい訳じゃなくて・・・」


「はあ・・では、どのような依頼でしょう?」


「え~っと・・・私が殺されて、その死体が何処かに消えた様に見せかけて欲しいんです。」


「はあ・・しかし、日本の警察はなかなか優秀でして完全に警察の目を晦ますのはなかなか難しいと思いますが・・・」


「あ、はい、・・・・・ず~っとじゃなくていいんです。ほんの何日かで・・」


「う~ん・・・・しかし・・警察を欺くとなると、ちょっとこちらの事務所的にまずいんですよね~・・」


「・・・バレた時、絶対にこちらの事務所の事は秘密にします!私が1人でやった事にしますので、どうかお願いします!!」


そんな言葉を鵜呑みにするほど私はお人好しじゃあ無いが、実際はそんな事が警察にバレたとしても大してマズイ事も無い、と云うのが実情だ。

何故なら、警察に聞かれたらすぐ洗い浚い話してしまうからだ。

ふふふ、当たり前だ。

この稼業、警察に睨まれたら厄介この上ない。


「う~ん・・・分かりました・・ただし、かなりのリスクを背負う事になりますので、依頼の料金はかなりの高額になりますがよろしいですか?」


「ありがとうございます、ありがとうございます!・・・どこに行っても門前払いだったので、本当に助かります!」


当たり前だろう。

マトモな依頼がこんな依頼受けるはずがない。


「では、料金のご相談ですが・・・今回の依頼の内容だと全額前金払でお願いすることになります。」


「はい、大丈夫です。」


ほ~!金額も聞かずに即答とは・・ちょっとふっかけても大丈夫そうだな・・


「金額ですが・・全ての経費込みで・・・3千万円ほどになりますが・・」


「分かりました・・どうお支払いすればいいでしょうか?」


うわ!これは失敗した!もっとふっかけても大丈夫だったのか!!


「あ・・・はい・・では、警察にバレないように現金でのお支払いをお願いしたいですね。」


まあ・・・仕方ない。現金払いなら税金も払わずに済むので、よしとするか・・


「あ、はい、・・・・・じゃあ、少し待って下さい。今、銀行からおろして来ます。」


「あ、はい、・・・・・では、こちらはその間、依頼の準備に取り掛かります。」


「お願いします。・・・本当に助かります・・・」


それから直ぐに彼女から料金の支払いを受け、彼女にはそのまま姿を隠す様に伝えてそのままお帰り願った。



ん?どんな準備をしたかって?

そんなもんするわけがない。

注射器で彼女の血液を少し抜き取らせてもらったので、後で適当な場所に車のスリップ痕を作り、その前にそれを垂らしておけば終わりだ。

これだけで3千万か・・・

悪くない。




が、その次の日に状況は一変した。

いつもの様に事務所で遅いモーニングコーヒーを楽しんでいたら、いきなり世話になっていた秋葉原署の秋元刑事が事務所に乗り込んできた。

その目はいつもと違い険しく、言葉も剣呑で、私に事の重大さを認識させるに十分であった。

彼女が遺体で発見されたのだ。


それから数日間に及ぶ取り調べは苛烈を極めた。

秋元刑事の、知り合いだろうがなんだろうが関係ない容赦無い執拗な取り調べに、もう少しで音を上げて事実を話してしまいそうになる自分に、必死に活を入れ耐え続けた。

何故か?

当然だ。ここで真実を話せば3千万はパーだからだ。

こんな目に合わされた上に3千万迄失っては探偵の沽券に関わる。

数日後、なんとか嫌疑不十分と云う事になり釈放された私は、その足で高飛びしてやった。

なんせこちらには3千万もの資金があったんだから当然だ。

ん?それでは容疑を深めるだろうって?

ふん、そんな事は知ったことでは無い。

日本の警察は結構優秀なのは身を持ってよく知っている。

早晩真犯人が捕まるのは火を見るよりも明らかなのだ。



そう云うわけで、私はこの1年この街を離れていたのだ。

事務所の窓を開け放ち凍て付く空気に身を任せ、私は自分の居場所に帰って来たことを実感した。




ん??

何?犯人?

何の話だ?

私は単に1年間旅に出ていた訳を説明しただけだ。

犯人なんか私の知ったことでは無い。




え?

何?オチ?

何の話だ?




ここは・・・

読んだ・・・



(A)あなたが


(K)きっと


(B)バカを見る



AKB探偵社



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閑話休題
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